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日本語の聞き取りや俳句で
「言葉の力」と「感性」を育む
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感性表現教育の柱は「言葉の力を伸ばす教育」だ。代表的な活動の一つは、07年度から週1時間、中1~中3の国語の授業で行う「言語技術教育(日本語トレーニング)」で、「聞き取りトレーニング」と「要約」に取り組む。前者は音読した文章を聞き取って紙に書き写すもので、教師が200字程度の文章を3回音読(1度目は文節で区切ってゆっくりと、2度目は一文ごとにゆっくりと、3度目は通常の速さで)し、生徒は聞き取った音声を書き取り、清書して提出する。後者は課題文を200字に要約し、自分の考えを指定の文字数で記述させるものだ。中学校2学年主任の依田泰先生は、この教育は国語以外の授業にも成果が表れていると話す。「音声言語の処理能力を高めることは、PISA型読解力の向上に効果があるといわれています。ただ、本校では読み書き能力の向上を第一義としていません。ひたすら語りに耳を傾け、手を動かすことによって、『人の話を聞くフォルム』を体で覚えさせるのがねらいです。単調な作業なので、生徒はすぐ飽きてしまうかと心配でしたが、むしろ学年が進むに従って集中力が高まっているようです。ほかの授業でも板書だけでなく先生の話をノートに書き留める生徒が目に見えて増えてきています」
同じく中学校の国語で取り組む「俳句創作授業」は、言語技術教育と並ぶ、感性表現教育の大きな柱だ。俳人協会幹事でもある国語科の甲斐由起子先生は次のように述べる。
「俳句創作の一番のねらいは、命を愛おしむ心を育て、外の世界の小さな変化を感じる心を育むこと。『今まで雨が降ると気が滅入っていたのに、俳句を始めてから雨音が楽しくなった』といった感想も聞かれるようになりました。俳句で培った感性が、何気ない日常を充実したものに変えているのです」
ただ、俳句を専門的に教えた経験のある教師は同校にあまりいなかったため、国語科教師からは指導に対する不安の声も上がった。
「研修を兼ね、国語科の教師全員が自作の俳句を持ち寄って句会を開きました。身近な物事に目を向けて表現する俳句の楽しさに触れ、指導のヒントになればよいと考えました。先生方の作品を読み意外な面を知ることができ、教科内での相互理解も一段と深まりました」(甲斐先生)
教師自身が実際に俳句に触れることによって指導への不安が緩和されたのだ。更に、生徒にとっては新鮮であり、新たな価値観を醸成する機会になっている。
「試験で高得点を上げる生徒が、俳句でもよい点数が取れるとは限りません。大切なのは、学習以外でもきちんと評価される場面が保障されていること。勉強の成績を絶対的なものにはしないということが、今の時代には必要であり、特に小学校時代から受験のための勉強に身を置いてきた子どもたちにとっては重要なのではないでしょうか」(松田校長)
ここ数年、校内で自習する生徒の姿が目に見えて増えてきたため、07年度の夏休みからは自習室を開放している。キャリア教育導入前には見られなかった光景だ。大都市圏の塾や予備校がひしめき合う環境であっても、学校が安心して学習できる場所だと生徒に選ばれている証拠ではないだろうか。
一方で、学校外にも目を向ける生徒が増え、世界観が広がっていると、松下先生は評価する。
「日韓や日独といった高校生交流事業に自ら参加したり、海外留学派遣やボランティアなどを募ると、以前にも増して立候補する生徒が多くなりました。学内外のあらゆる場面で、生徒が当事者意識を持って取り組みに参加しようとする意欲を感じます」
「自立・自律」の芽は、生徒の中に着実に育まれつつある。 |
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