一口にジェンダー研究といっても、さまざまなアプローチがあります。日本で一般的なのは、家族や雇用といった社会学からのアプローチです。歴史学の視点から各時代における女性の地位の変遷を調べたり、言語学の観点から男性言葉、女性言葉について追究したりする研究者もいます。その他、文化人類学や芸術学、宗教学など、多様な学問分野からのアプローチが可能です。
法学からジェンダーへのアプローチは比較的新しく、私が研究を始めた頃の法学界では「男女の問題が学問になるのか」という冷たい反応が返ってくる状態でした。しかし、法学においてもジェンダーについての重要な論点はたくさんあります。家族内における女性の地位は家族法、女性の雇用であれば労働法、性犯罪の問題なら刑法などが挙げられます。私の専門の憲法も同様です。ジェンダーとは無縁と思われがちですが、日本国憲法14条(※4)では、すべての国民は法の下に平等であり、人種や性別などで差別されないことが規定されています。個々の法律を吟味する際も、国内法の上位法に位置する憲法学からの視点が極めて重要です。
例えば、民法733条で、女性は離婚後6か月経過しないと再婚できないと規定されています。この条文については国連から是正勧告を受けており、私も憲法違反だと考えています。確かに、昔は前夫の子か今の夫の子か区別できない場合がありました。しかし、今はDNA鑑定が可能ですし、夫が長期間海外にいるなど、妊娠していないと判断できる場合もあります。法律も科学の進歩や家族の在り方に応じて、一つひとつを見直す必要があり、その際に憲法は重要なよりどころになるのです。
女性の選挙権や政治参加も重要な論点になります。現在、我が国の衆議院における女性議員の比率は08年10月時点で9・4%であり、国連加盟188か国中136位です。女性を一定の比率に固定するクオータ制(※5)の導入など、女性議員を増やす方策が検討されており、私も憲法学の観点から研究を進めています。フランスではクオータ制が憲法違反であるとの判決が出ていますが、そうした海外の事例も踏まえながら日本での導入の可能性を探っています。 |