最初に、行動経済学(※1)は、経済学の中でもどのような研究をするのかを説明したいと思います。
伝統的な経済学では、「人間は合理的に行動する」ことを前提に研究を進めてきました。例えば、「人間はどのような時に、最も一生懸命に働くのか」を検証した場合、これまでの経済学ならば「より高い報酬体系を示された時」というのが答えになっていました。
ところが、現実は必ずしもそうではありません。例えば、自分では高い給料をもらっていると満足して仕事に従事していても、自分と同レベルの能力の人がより高い報酬を得ていると知るや、労働意欲がそがれるケースがあります。あるいは、給料は高くなくても、上司や同僚、部下から頼りにされていることが労働意欲に結び付く場合もあります。労働意欲には、賃金の高低だけでは説明しきれない、人間の複雑な心理が大きくかかわっているのです。
バブル崩壊やサブプライムローン問題といった経済問題の背景にも、合理性だけでは説明できない、複雑な人間心理が潜んでいます。このように、行動経済学は、合理性だけでは説明しきれない人間の経済活動を、心理学や社会学、脳科学などの他の学問分野の知見を取り込みながら解明しようとするものです。
「不況」は、合理性では説明できません。物価が下がっても給与額が変わらなければ、賃金価値は上がります。そうすると、売れ残りや失業問題は解決するはずですが、実際にはそうならないことがバブル崩壊後の「失われた10年」が証明しました。
人にはお金を持つほど手放したくなくなるという心理があるため、デフレによってお金の価値が高まるほど消費に回らなくなるからであると、現在では考えられています。
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