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実践事例
 
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■実践事例1
大阪府 箕面市立西小学校の取り組み
公募の委員と教職員参加の学校協議会。
「創意を総意に」の合言葉で学校評価と学校改革を進行中
大阪府のひな型をベースに自己診断実施
 大阪府の学校評価(学校教育自己診断)は、学校協議会とセットで進められている。西小学校は、2000年、大阪府下4校の学校協議会モデル校の一つとなり、「初仕事」として、自己診断を開始した。  西小の学校協議会の特徴は、
(1)公募委員がいる、
(2)教職員が参加することの2点。
 委員を公募した理由は、「学校に親しい方々を集めるだけでは、骨抜きの会議になる」との稲本千鶴子前校長の考えから。公募に当たっては、「21世紀を担う子どもを育てるために、学校、地域、家庭はどうあるべきか」のテーマで作文を書いてもらって選考した。
 第1回の自己診断は、大阪府教委が作成したひな型をベースに、児童、保護者、教職員、管理職にアンケートを実施。児童の回収率は96%、保護者は93%に達した。
 府のひな型と多少異なるのは、
(1)判断基準が曖昧なままの評価をさけるために、A~Dの評価のほかに判断留保のEを加えたこと、
(2)保護者の診断項目に、保護者自身の姿勢を問うような欄を設けたことである。
図1 「学校協議会」広報紙
▲図1 「学校協議会」の広報紙。2000年の創刊号で、さかんに「学校協議会」の意義と役割を発信している。2003年11月現在で、20号にも達している。連絡帳やファックス、電子メールで感想が届く

診断結果から、通知表改革を即実践
 診断の結果、課題が明らかになった。その一つが、通知表である。「通知表は子どもの学力を適切に評価できるように工夫されている」という項目に対する肯定的回答(よくあてはまる+ややあてはまる)が40.4%にとどまった。
 しかし、通知表の問題点を認識していた先生たちは、この結果に驚くことはなかった。研究部で、2001年度いっぱいかけて議論し、新教育課程のスタートに間に合わせようと計画していた。だが、「できることにはすぐ取り組む姿勢が大事」との前校長の判断で、計画を前倒しにし、3学期に通知表に関する校内研修を実施。研究部が改訂の方向性を出し、2001年度1学期末には新しい通知表を子どもたちに手渡すことができた。
 従来の通知表は、教科の評定では絶対評価、領域および観点については個人内評価であったが、教科については観点項目ごとの絶対評価にすることにし、生活の記録については、「めざす子ども像」に照らし合わせて見直した。装丁でも、学年ごとに色を変えたり、表紙に写真を載せるなどの工夫を凝らした。そして、新しい通知表に関して保護者にアンケートをとると、学習記録について90.5%、所見は97.3%が「よい+どちらかといえばよい」と答えており、おおむね好評を得た。
 稲本前校長の強いリーダーシップのもと、診断で出てきた課題をすぐに改善に向かわせる姿勢が、今も続く同校の一つのかたちになっている。
教育課程検討委が改革の足がかり
 実は、西小学校の自己点検・評価の試みは、10年近い学校改革の途上で行われた。1996年、稲本前校長が赴任した当時は、学級崩壊があちこちで起こり、保護者とのトラブルも連続、人権問題にまで発展することがあった。
 まずは、管理職を中心に授業サポートをしながら、西小改革をスタートさせた。
 「どこから手をつけたらよいかわからない状態だったので、校長はまず、改革の足がかりとして『教育課程検討委員会』をつくりました。管理職と各学年、各分掌の主任以外でも自由に参加できることとしました。その結果、自分に関連する課題のときには次第に他教員も参加するようになり、翌年からこの会が機能し始め、世論を形成し始めました」と当時を知る地域連携担当の今村正一先生は話す。
 稲本前校長は、折にふれて自分の経験から感じた学校体質の甘さや閉鎖性を説き、学校を開く大切さを訴えてきた。しかし、この「検討委」が機能し始めるころには、先生方は校長の話を真剣に聞くようになり、授業への取り組みも変化し、教師としての誇りを取り戻していったという。
 そういった過程で持ち込まれた「学校協議会モデル校」指定であった。これも、教職員の参加という条件ですんなり受け入れられた。
スクールモニター制で保護者の声を拾う
 通知表改革に限らず、診断を受けて、さまざまな改革が進行している。  まず、より多くの保護者・地域の声を聞きたいと、2002年度に「スクールモニター制度」を導入。大規模校である同校では、毎年、保護者アンケートを実施するのは不可能。そこで重要な外部評価の手段として、保護者、地域から選出した63人の方(03年度)にモニターになってもらっている。
 また、土曜日の子どもたちの居場所となる「サタデースクール」も学校協議会で構想し、協議会委員が推進役になって、地域の人々で運営のすべてを行っている。
 「荒れていた昔には考えられないほど、人材が学校に集まってきている」と今村先生。
写真1 クラブ活動
▲写真1 2002年から地域の指導者に委ねた西小学校のクラブ活動。料理のほか、茶道、華道、ジャズダンスなど、24のクラブを月1、2回実施。子どもたちと地域の方々との距離がぐっと縮まった

写真2 西小サタデースクール
▲写真2 子どもたちの土曜日の居場所「西小サタデースクール」で、地域の方に囲碁を教わる子どもたち。ほかにも、漢字、計算、理科などの「学習に関する講座」や手芸、陶芸、絵画、コンピュータなどの「文化に関する講座」などが2002年度からスタートした

一人の悩みを共有。学び合う教員集団に
 こうした西小の学校改革について、「いちばんの成果は、教員同士が学び合う集団になってきたことだと思う」と今村先生は言う。算数の習熟度別学習も、ほとんど注目されない時期から取り組んでおり、市の学力調査も進んで実施している。
 また、一人の先生の悩みを学年全体、あるいは学校全体で共有し合おうという雰囲気がある。確かに仕事は山積しているが、大きな学校のわりには先生方はよくまとまり、同じベクトルで動いているから、職員室の雰囲気はいい。
 今年4月に着任したばかりの吉岡孝雄校長は、「4月1日から始まる新任・転任者向けの研修を一度経験すると、ここの先生たちがどれだけのものを積み上げてきたのかを実感します。各分掌の責任者が『わが西小学校の教務は…』と、プレゼンテーションソフトを使ってレクチャーし、保護者の目がどんなに厳しいかを延々と話す。そうした研修が1週間続くのです。最初は胃に穴が開きそうでした」と笑う。
 「でも、年々、改革スタート時のことを知る先生方が少なくなります。そんななかで、後継者を育て、いかに改革の軸がぶれないようにしていくかが課題ですね」(吉岡校長)
■西小学校データ■
吉岡孝雄校長
▲吉岡孝雄校長
 箕面市は、大阪府北部の人口12万3千人あまりの近郊都市。西小学校は、1965(昭和40)年に市内で6番目の小学校として開校。校区は、静かな住宅地が中心であるが、古くからの集落のあいだに田畑も点在している。2003(平成15)年1月、7年あまりにわたって行ってきた学校改革の成果を自主公開研究会として発表したところ、全国から1千人以上の参観者が集まった。
〒562-0005 大阪府箕面市新稲3-12-2
TEL 072-721-7975 FAX 072-722-2606
校長/吉岡孝雄先生 児童数/826人、学級数/27(養護学級4含む)
 
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