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少人数授業

愛知県犬山市立 東小学校
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集団編成の原則は、グループ内異質、グループ間等質
 ところで犬山市では、少人数授業を導入するに当たって、習熟度別指導はしないことを原則にしている。これは「考え方や習熟度が違う子どもが交流するなかで、豊かな学習が生まれる。習熟度別指導だけでは、学び合い、支え合う態度が十分に育成されない」(水谷先生)という理由からだ。
 同校の少人数授業でより重要なのは、「グループ学習におけるグループをどう編成するかです」と現職教育主任の三品元子先生は話す。子ども同士が助け合って学習を進められるように、習熟度や性格などを考慮して、4人程度のグループを編成していくが、この際の基本方針を三品先生は「グループ内異質、グループ間等質」と説明する。
 グループの編成は、担当教員と同様に、単元ごとに組み替える。グループ学習は、「一斉授業で発言しない子どもも、4人程度のグループなら自分の考えを言うようになり、授業に参加している実感を持てる」(三品先生)という効果も大きいようだ。
 ただ、「数と計算」などスキル的要素の強い単元の一部で、習熟度別指導を取り入れている。理解度の差が広がらないうちに、とくに遅れがちな子を援助するためだ。
 同校を訪ねたときは、ちょうど3年生で1クラスを3コースに分けた習熟度別の少人数授業が行われていた。各コースとも学習する内容は同じで、異なるのは一人ひとりが取り組む問題プリント(図2)の進み方だ。
▲図2 3年生算数「数と計算」の単元の最後で導入されている習熟度別指導に使う問題プリント。習熟度の違いによって、各コースで解いていく枚数の目標が異なる

 学習内容の確認に重点を置いた「確認コース」の授業は6人で、個別指導に近いかたちで行われており、目標はプリント3枚。学習内容定着をめざす「定着コース」は5枚が目標。そして発展的内容に挑戦する「発展コース」では、どの子どもも解くスピードが速く、プリントが置かれた台と自分の机の間を走りながら往復していた。
 「確認コース」の子どもは教員が決めるが、ほかは、どちらを受けるか子ども自身で選ぶ。
 習熟度別指導の教室は雰囲気が暗いという声が学校関係者の一部にあるが、同校の教室はどのコースも子どもたちが明るく、進んで教員に質問したり、子ども同士教え合ったりする姿が印象的だ。三品先生は、「コースによって学習内容が違うのではなく、学習するペースが違うだけなのです」と強調する。




▲習熟度別の「確認コース」(写真上)、「定着コース」(写真中)、「発展コース」(写真下)は、自分のペースに合わせて学ぶことがねらいで、コースごとに課題に取り組むスピードが異なる

9割が「授業がわかる」と回答。教員の負担増は課題
 同校のアンケート調査によると、子どもの8割が、「ふだんの授業よりも少人数授業のほうが好きだ」と答えているほか、9割が「少人数授業はわかる」と回答している。コースによる習熟度別授業についても、子どもたちは「算数が嫌いだったけど、少し解けたのでだんだん好きになってきた」(確認コース)、「どんどん先に進めるので、やる気がわいて楽しい」(発展コース)と話している。
 グループ学習を中心にした同校の少人数授業は、理解度を上げるだけでなく、子どもの自主性やコミュニケーション能力の向上などの面でも大きな成果を上げつつあるといえそうだ。
 一方で、少人数授業には課題も多く残っている。非常勤講師を含む複数の教員が指導に当たるため、進度や内容に差が出ないよう情報交換は欠かせないが、多忙で時間がなかなか取れないことも悩みの一つだ。また、子ども同士が学び合うグループ学習には、工夫した教材プリントが必要だが、やはり日常の指導や校務が忙しく、教材作成の時間が十分にとれないのが実情だという。このほか、少人数授業のための非常勤講師は、人材が不足しがちで指導力にばらつきがあるため、校内での効果的な配置・活用も課題の一つになっている。
 同市は、04年度から独自の学級編成基準による少人数学級の実施を計画しており、同校も二つの学年が少人数学級になる予定だ。少人数授業による「教える授業」から「学ぶ授業」への転換の成果が、今後の少人数学級でどう生かされるのか期待される。
 
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