特集 「考える力」を引き出す授業―理数教科からのアプローチ―

VIEW21[小学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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同意や反論を引き出し意見交換を活発化

 単元(全15時間)の7、8時目を使って行われた授業では、「乾電池のつなぎ方によって、モーターカーの速さが違うことを、回路を流れる電流量を調べることで確かめられるようになる」ことをねらいとしている。その前段階として、授業のはじめでは、モーターカーを動かして得た知識をもとに、乾電池のつなぎ方によって電流の強さがどのように変化するかを予想する意見が1時間以上にわたり交わされていた。
 「モーターカーという具体物を扱う授業から、目に見えない電流という抽象的な考え方への転換となる大切な時間だけに、話し合いには時間をかけました」(石井先生)
 話し合いでは、「乾電池を並列にすると、回路が合流するところで電流の流れがぶつかり合って、電流量が半分になってしまうのではないか」「半分にはならないけれど、電気の流れが邪魔されて少しだけ減る」「二つの回路から流れてきた電流は全部一緒になって流れていく」などといった意見が、子どもたちから次々と出された。
 発言された内容は、発言者の名前を取って「○○説」と名づけられ、黒板に並べられる。それをクラス全員で共有するために、教師は「○○さんの意見は理解できましたか」「違う考えを持っている人はいますか」などと問いかけ、同意や反論を引き出す。
 「結果を予想させる際には、それが正しいかどうかは、ひとまず問いません。たとえ支離滅裂に思える意見でも、発表する子には、その子なりの思考の筋道が必ずあるものです。そこに着目し、根気よく話を聞いて、自分の意見を論理的に説明する力を育てていきます」(石井先生)
 一人ひとりの意見は違っていて当たり前。まずは、間違いを恐れずに自分の考えを発表することの大切さ、仮説を立てることの大切さに気づかせることも、重要な指導の一つと位置づけている。
 「どのような子どもでも、それまでの経験がありますから、必ず何らかの意見は持っているということです。それは指導の前提として、わが校の教師が共有している考えです」(石井先生)
 話し合いの結果、最終的に八つの“説”のいずれかに児童全員の考えが収束したことを確認し、授業は検流計を用いた実験へと移行。この時点で、子どもたちの心のなかには「どの考えが正しいのか確かめたい」という気持ちが芽生えている。すぐに、教室から喜びや驚きの声が上がった。それぞれの児童が自分なりの予想をして臨んでいるため、実験への反響は大きく、予想が外れた子どもには「なぜだろう」という疑問が生じる。実験後、子どもたちは結果について話し合い、それでもはっきりしない点を再度実験することで明らかにしていく。こうした確証、反証を通して、自分たちの力で結論を導き出していくのだ。
 九段小学校では、こうした学習の流れを途切れさせないため、週に1回程度は、ここで紹介したような2コマ連続の授業を行う。また、石井先生に加えて学級担任、さらに嘱託の教員の三人によるT・Tで授業を行うことで、理解の遅い子どもを個別にフォローする態勢も整えている。
 こうした全校を挙げての理科に対する取り組みは、確実に児童に変化をもたらしていると、石井先生は話す。
 「理科に対する興味が強まっただけでなく、普段から自分の意見にこだわりを持つ子どもが目に見えて増えました。自分とは異なる意見に対しては、その理由をきちんと説明する能力も育ってきています」
 その成長は、問題解決の資質・能力に関する調査結果にも表れている(図2)。

図2
写真1
写真1 自分の考えを気後れすることなく発表する子どもたち(右端が石井先生)
写真2
写真2 グループでより速く走らせる方法を考え、電気の性質について学んでいく

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