特集 つながる幼小の「学び」 ―幼稚園・保育園から小学校、その接続を考える―

VIEW21[小学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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「聴き合える」関係が授業を楽しくする

  豊玉南小学校の取り組みが優れているのは、子どもの「聴き合う力」を育んでいくための実践が、一部の教師によってではなく、全校の教師によって機能しているところにある。
  「どの先生も1年間に3回は研究授業を受け持ち、3回のうちの1回は、授業後に協議会を開きます。協議会では、子どもたちの学びの姿を確認するためのビデオを活用したりしながら、子どもの『聴き合う力、学び合う力』を育む働きかけができていたかを、全教員で話し合っています」(渡邊校長)
  この研究授業が定着するまでには、抵抗感を持つ教師も少なくなかったという。
  「自分の授業をほかの先生から批評されたときに、まるで自分の人格を否定されてしまったかのように落ち込んでしまう先生もいました。しかし、回数を重ねていくうちに、研究授業や協議会が、先生の技量を評価する場ではなく、子どもの『聴き合う力、学び合う関係』をつくっていくための議論の場であることを理解してもらえるようになりました」(渡邊校長)
  全教員が一つになって子どもの力を高めていくための豊玉南小学校の取り組みは、今年5年目を迎えた。今、その成果は確実に表れつつある。勝沼先生は次のように話す。
  「今、多くの小学校で、塾に通っている子どもが、学校の授業を真面目に受けようとしないという話を聞きます。でも『聴き合う力』をうまく利用すれば、塾に通っている子どももそうでない子どもも、同じような刺激を感じながら授業に参加することが可能になります」
  例えば、学習進度が遅れている子どもでも、「おやっ」と思うようなユニークな視点から発言することがある。そのとき教師が「今の意見について、みんなはどう思う?」というように、子どもの言葉をうまくつなげてあげれば、決まった考え方だけを塾で教えられた子どもも「そうか、そういう考え方があったのか」と面白さを感じて、その意見を受け止めることができる。「聴き合う力」があるからこそ、新たな発見や思考が生まれるのだ。
  「だから本校の子どもたちは、高学年になっても、塾に通っている・いないにかかわらず、『授業が楽しい』と言ってくれますね」(勝沼先生)
  さまざまな育ち方をして入学してくる子どもたちの言葉を、まずは教師が聞き、受け止め、そして、子ども同士をつないでいく。そのことで、新入生たちは確実に、「聴き合う」ことのよさ、学び合う喜びを学校生活の中で実感しつつ成長している。

図1

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