特集 つながる幼小の「学び」 ―幼稚園・保育園から小学校、その接続を考える―

VIEW21[小学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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意欲を引き出すカリキュラムの工夫

  岡山大学教育学部附属小学校が、こうした学習スタイルを導入したのは、幼小の接続に大きな段差を感じていたからだ。幼稚園や保育園を卒園した子どもの多くは、「がんばって勉強しよう」と期待に胸を膨らませて入学するものの、しばらく経つと失望したかのように意欲を失ってしまう。研究主任の安東信哉先生は、その主因が学びの環境の変化にあると感じていた。
  「園児は、空間的にも時間的にも自由な環境の中で、自分がしたいと思ったことを自分で工夫して遊びます。その意味では非常に主体的なんですね。ところが、小学校に上がると、自分の思いや願いは半ば無視され、教科書に沿って『これを学びなさい』『これを覚えなさい』と一方的に指示されるようになる。それに失望感を覚えて、意欲を失ってしまうのだと思います」
  さらに、教師が1年生を過小評価し、必要以上に“子ども扱い”することがマイナス要因になることも少なくないと話す。
  「1年生でも、給食当番や日直などは十分にこなす能力を備えています。ところが、幼いからと何の仕事も与えなければ、途端にやる気を失ってしまいます」(安東先生)
  こうした問題を払拭し、1年生の意欲を引き出すためにはどうすればいいか。岡山大学教育学部附属小学校が最初に取り組んだのが、子どもの発達段階と、発達に沿った学びの研究だ。岡山大学教育学部附属小学校では、発達心理学の文献研究や心理学の専門家との意見交換を通して、3歳児から小6生までを五つの発達段階に分け、各段階の子どもが「他者」「対象(事物)」「自己」に対し、どのように向き合うかを分析した(図2)。まず、教師が子どもの発達段階を正しく理解し、それに応じた接し方をするのが不可欠という考えからだ。
図2
  そして、カリキュラムは幼稚園や保育園との連続性を重視し、“遊び”や“暮らし”の中から学びが得られる内容へと修正していった。山中芳和校長はそのねらいを話す。
  「従来のカリキュラムは、幼児教育の指導のしかたとの隔たりが大きく、それが子どもたちのやる気を失わせる原因となっていました。その隔たりを解消するために、カリキュラムを幼稚園や保育園の指導方法に近づけたわけです」
  前述した「言葉集め」では、最初に表現の面白さに気づかせてから「国語」の学習をスタートさせたように、活動を通して意欲を引き出すのが最大の目的だ。
  計算や文字の学習など、習熟が求められる技能的な学習でも、動機づけには非常に力を入れている。例えば、「ひらがな」の学習は、まずは校内を探検し、文字を探すゲームを楽しむことから始まる。その過程で「いろいろな文字を覚えると楽しそう」「書けるようになりたい」という気持ちを抱かせるように仕向け、その後の学習を能率的に進めていく。更に教師が「覚えた文字を家の人にも見てもらいたい?」と問いかけると、大半の子どもは大きくうなずく。そこで、家庭用のプリントを配ることで、スムーズに家庭学習へとつなげることもできる。

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