教育現場の挑戦 小学校からのキャリア教育

VIEW21[小学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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1年目の実践を通してトップダウンからボトムアップへ変化

 現在ではキャリア教育を柱にした活動が定着しているが、それまでの道のりは決して平坦ではなかった。小学校にはキャリア教育に取り組む事例があまりない。そこで工藤校長は、上越教育大の三村隆男助教授に相談をして、活動の改善を図ってきた。
  当初、最も大きな課題は、教師の意識改革だった。工藤校長のようにキャリア教育により子どもが変化した経験を持っていない教師が、その必要性を認識できなかったのも無理はない。そこで工藤校長は、校長と教頭、教務主任と3人の教師による「プロジェクトX」を結成。三村助教授からキャリア教育の資料を提供してもらい、小学校に応用する場合の助言を受けながら、小学校におけるキャリア教育の姿を「立ち上げのためのテキスト」にまとめた。ここには、小学校でのキャリア教育の目的、活動実施までの段取り、年間計画、学習活動案など、実際の授業で生かせる実践的な資料が盛り込まれた。
  「私は小学校での経験は乏しいけれど、中学校の経験が長く、キャリア教育のノウハウは知っています。教師はキャリア教育については詳しくありませんが、小学校での経験は豊富です。お互いが足りないことを補いながらつくりました」(工藤校長)
  現場の教師にとって大いに役立ったのは、「総合的な学習」で育成したい力と「キャリア教育における四つの能力領域との関連」をまとめた相関表だ(図2)。
  「キャリア教育は『総合的な学習』や生活科で実施しようと計画しましたが、これまでの活動とは違い、新しいことに取り組まなければいけないと考える教師が多かったのです。しかし、相関表によって、キャリア教育で行う内容は今まで実践してきた内容と重なることを、多くの教師がイメージでき、キャリア教育への不安を除くことができました」(工藤校長)
図2
  キャリア教育の実施に際しては、「プロジェクトX」のメンバーだけでなく、ほかの教師も枠組みづくりや準備作業に加わった。三村助教授を招いて研修会を行い、学年ごとに03年度の年間計画を1か月かけて作成。学校全体で意識を高めていった。また、03年4月に異動してきた教師とは、年間計画を最終的に見直すことで、意識の共有化を図っていった。
  「私が絶えず言い続けたのは、実践しなければ何も生まれないということです。まずは実践し、課題と成果を見極めながら本校に合ったものに変えていけばよいと」(工藤校長)
  準備を進めていく中で、教師たちの意識は少しずつ変化する。「小学校でキャリア教育なんてできるのか心配だったけれど、始めてみると手応えがある」「今まで実践していることをほんの少し見直していけばよいのだとわかった」といった声が聞かれるようになったのだ。
  実施初年度が終わるころ、実践を通じて浮き彫りになった課題を学校全体で話し合い、冊子の改訂を行った。大きな変更点は、「総合的な学習」とキャリア教育との関連をまとめた相関表を、前述の「キャリア教育で育成したい具体的な子どもの姿」へと進化させ、冊子も「実践のためのテキスト」に改訂したことだ。教師から「総合的な学習」とキャリア教育の関連は理解できたので、めざす子どもの姿をもっとわかりやすい形に変えたいという要望が上がったからだ。更に、教師にも子どもにもわかりやすい表現をという要望から、「えがく力」「かかわる力」「もとめる力」という原東小学校の教育目標が生まれる(写真2)。原東小学校の取り組みは「トップダウン」から「ボトムアップ」という新しいステージに入ったといえるだろう。
写真2
写真2 「えがく力」「かかわる力」「もとめる力」という原東小学校の目標は教室に掲示され、子どもたちにも明確に示されている

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