特集 量から質へ―これからの学びを考える
司会
耳塚寛明

▲お茶の水女子大教授
お茶の水女子大文教育学部長

耳塚寛明

Mimizuka Hiroaki

 

座談会出席者
永野康明

▲福島県双葉郡浪江町立浪江小学校
校長

永野康明

Nagano Yasuaki

矢野英明

▲神奈川県相模原市立 富士見小学校
校長

矢野英明

Yano Hideaki

水野朝之

▲東京都足立区立鹿浜小学校
校長

水野朝之

Mizuno Tomoyuki


VIEW21[小学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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【座談会】「第4回学習基本調査」の結果を受けて

学習時間の回復
― 豊かな学びにどうつなげるか

「第4回学習基本調査」の結果、ここ数年の学力向上への取り組みの成果が見えてきた。現場の教師は、この状況をどのように受け止めているのだろうか。これまでの取り組みと成果、今後の展望について、分析を担当したお茶の水女子大の耳塚寛明教授と3人の小学校校長が語り合った。

学力低下の議論をきっかけに各校で始まった指導改革

耳塚 前回の「学習基本調査」が実施された翌年の2002年に文部科学省から「学びのすすめ」が公表され、学習指導要領ではゆとり教育を基本としつつも、実際には「脱ゆとり」へと舵((かじ)切られました。データには、学習時間の回復など、現場でも「脱ゆとり」が進んだのが表れているように見えます。まずは、先生方がこれらの結果をどのように受け止めているかをお聞かせください。

 

矢野 5、6年前に始まった学力低下に関する議論をきっかけに、それまで「ゆとり」という言葉に引きずられて表層的な「子ども中心」の授業に陥っていた点が、見直されました。子どもを中心としながらも、「支援から指導へ」とする動きが出てきました。その影響が、今回の調査結果に表れているのではないでしょうか。

 

水野 そうですね。全般的に子どもたちの学習状況が好転しているのは、学校や保護者が指導の改善に向けて取り組んできた結果でしょう。のびのびとした地域性を持つ本校でも、そのような実感はあります。

 

永野 特に、算数の「好き嫌い」「授業の理解度」が大幅に好転しました。算数は学力向上に向けて取り組みやすい教科ですから、多くの学校が力を入れてきました。これが、他教科と比較して、結果が良くなった要因だと思います。

 

耳塚 学力低下への危機感を発端とする取り組みが功を奏したということですね。現場では何をどう取り組まれたのか。そこから「脱ゆとり」の功と罪が見えてくるように思います。どんな取り組みをしたのでしょうか。

 

水野 鹿浜小では、私が着任した04年度に東京都と足立区による学力調査の結果を教師全員で分析し、目標や評価の「数値化」を徹底しました。それまでは学力への不安を口にしない雰囲気がありましたが、数値化によって課題を明確に把握させ、具体的な対策を取らざるをえない状況をつくったのです。

 

耳塚 分析に基づく目標の明確化と数値化が興味深い点です。どんな具体策ですか。

 

水野 複数の教師が協力してクラスを受け持つ「学年担任制」を導入しました。こうすることで、教師間で指導や評価の規準の統一が図られ、児童は教師個々の指導力に左右されず、平等に質の高い授業を受けられるようになります。また、学年が変わるときに次年度の担任に引き継げるよう、児童一人ひとりの課題を整理した「学習サポートカード」を作成しました。

 

永野 浪江小では、子どもによって基礎・基本の定着度に大きな差がありました。言うまでもなく、土台がなければ発展的な学力は身につきません。そこで、基礎・基本の育成を目標に掲げ、全学年で漢字と計算の「進級テスト」を始めました。8割を合格点として、合格点に達しなかった児童は下の学年の問題に戻らせたり、補習で個別に対応したりと、わかるまで徹底的に指導するようにしたのです。定着度は着実に上がっています。

 

矢野 富士見小でも、算数の定着度の向上が課題でした。本校は、02年に児童約1500人の大規模校から分かれて新設されました。分離前は、一人ひとりに丁寧な指導が行き届かず、特に算数の定着度が低いという課題がありました。そのため、02年度に学力向上フロンティアスクールに指定されたときには、教師間に「まず算数に取り組もう」という思いが強く、少人数授業や習熟度別授業、チーム・ティーチング、教材研究、地域住民や学生によるボランティアの活用など、多面的な研究から指導力の向上を目指しました。

耳塚寛明教授
お茶の水女子大教授。お茶の水女子大文教育学部長。専門は教育社会学。「学習基本調査 国内調査」の研究会代表として第1回から調査企画・分析を担当。主な著書に『変わる若者と職業世界―トランジッションの社会学―』(共編著/学文社)、『高校生文化と進路形成の変容』(共編著/学事出版)など。

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