教育現場の挑戦 約30年の「総合学習」の研究を教科学習の指導法に生かす

VIEW21[小学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
   PAGE 2/4 前ページ 次ページ

「知識」は「体験」と融合して「知恵」になる

 5つの資質・能力は、教科を横断する物差しとして使えるため、評価の軸がぶれないというメリットもある。このメリットを生かし、今、大手町小学校が力を入れているのが、総合学習の指導法を教科学習に応用することだ。
  その転機となったのが、02年度からの学力向上フロンティアスクールの指定だった。指定に対し、「教科学力重視に方針転換をした」と受け止める学外の関係者もいたという。しかし、大手町小学校にとっては、研究活動の中心が総合学習であることに変わりはなく、その上で、いかに「見える学力」も底上げするかを模索するのが狙いだった。
  だが、それは容易ではなかった。教務主任の阿部勉先生は試行錯誤の日々を振り返る。
  「教科学力の向上には、少人数指導や習熟度別指導の導入が一般的です。本校でもそれらを取り入れるうちに、次第に子どもが個々に黙々と学ぶ姿が目立ち始めました。公開授業を参観し合う中で、多くの教師がそれに違和感を感じていることに気づきました。『個』の重視も必要だが、集団の中での学び合いこそ、学校での学びの本来あるべき姿なのではないか、という考えに立ち戻りました」
  一時期、教師間で学力観が揺らいだが、それがかえって従来の研究の方向性を再確認する機会となった。大手町小学校は今も部分的に少人数指導を取り入れているが、改めて総合学習の長所を確認し、現在はその指導法を教科学習にも応用している。具体的には、「可能な限り、子どもが試行錯誤する時間をつくる」「自分で課題を設定したり、選択したりする機会を増やす」「総合学習で体験を通じて考えたり感じたりしたことを文章で書き溜(た)めているように、教科学習でも授業の振り返りの時間を大切にする」といった指導法を意識している。
  例えば、5年生の総合学習では「食」をテーマに、年間を通じて米や野菜をつくったり、食にまつわる調査をしたりしているが(図3)、社会科でも指導時期を合わせて、農業生産の学習を行った。その際、個々に課題を設定して、調べる活動を取り入れるなど、学習方法についても関連を持たせて、子どもの創造的探求心と情報活用能力が一層発揮されるようにした。また、「農薬の是非討論会」を設定したときには、「国語科」での学習を生かして、発表の柱立てや構想を考え、相手にわかりやすく考えを伝えることを意識した。
  総合学習と教科学習の関連について、中嶋校長はこう考えている。
  「教科学習で身についた『知識』は、総合学習の『体験』と融合して『知恵』になる。どちらか一方だけでは不十分だと考えています」
  しかし、学力の低迷が続いたら、そうした方針への保護者の理解は得にくくなるだろう。中嶋校長もそれを十分に認識し、「総合学習中心という教育方針を、自信をもって伝えられるように、教科学習の授業力向上への努力も続けるように」と、常に教師に呼びかける。実際、06年度の学力検査(1、2年生は国語、算数、3年生以上は国語、算数、理科、社会)では、全学年、全教科とも全国平均を上回った。

図3

   PAGE 2/4 前ページ 次ページ