▲大日向雅美
Ohinata Masami おおひなた・まさみ◎恵泉女学園大大学院人間社会学研究科教授、子育てひろば「あい・ぽーと」を運営するNPO法人あい・ぽーとステーション代表理事。専門は発達心理学(親子関係・家族問題)。文部科学省・中央教育審議会生涯学習部会委員や、家庭・地域の教育力向上に関する特別委員会委員長などを歴任。著書に『「子育て支援が親をダメにする」なんて言わせない』(岩波書店)、『子育てがつらくなったとき読む本』(PHP研究所)など。
「最近、保護者との関係づくりが難しくなった」といわれる背景には、どのような問題があるのか。子育て支援に取り組む大日向雅美教授に、今の保護者を取り巻く環境と、良好な関係を築くための付き合い方を聞いた。
保護者のマナーが悪くなったという話を、たびたび耳にするようになりました。しかし、それは保護者に限ったことでしょうか。今の日本の社会は、人々が安心して老いることができるとは言い難い状況です。そこから不安やストレスが生じ、自己中心的な言動が増えてきているのは、社会全体の現象といってもよいでしょう。確かに、一部には大きな問題のある保護者がいるのも事実です。しかし、大半の保護者は不安やストレスを抱えながらも、一生懸命に子どもを育てていることを忘れないでください。 そうはいっても、保護者から寄せられる要求には、我が子のことしか頭になく、身勝手な内容が多いと感じている先生方は少なくないでしょう。それは、今の母親が直面している子育ての環境に深く関係しています。 現代の日本には、「子育てに夢中になれるのが良い母親の条件」という社会的なメッセージがあります。例えば、教師から「お母さんが働いているから学力も伸びない」と言われたら、母親には返す言葉もありません。 母親は、どこに行っても「お母さん」「ママ」としか呼ばれず、1人の社会人として扱われることがほとんどありません。一方、夫は社会で着々と実績を積み上げていく。そんな状況で家にこもって子育てをしていれば、母親に疎外感が生まれないわけはありません。自ずとより所は子どもだけとなり、我が子の成長が自分の「通信簿」と考えるようになります。 近ごろの学芸会では、劇などで主役を1人にすると保護者から苦情が出るため、全員を主役にする学校もあると聞きます。それも、我が子が主役でないと自分の評価が下がる、という意識があるからなのでしょう。しかし、こうした母親を「自分の子どものことしか考えていない」と非難するのは、あまりにも酷です。そもそも母親は子どもに夢中になることを社会的に求められているのですから。