新学習指導要領へのアプローチ 第1回 「言語活動」で広がる学び
VIEW21[小学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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「型」の習得を通して言葉の力を高める

 私は、「言語活動の充実」や「活用型の学習」を重視する新しい学習指導要領の動きを、基本的には評価しています。一方で、この取り組みを学校で行うことは決して簡単ではないと考えます。
  例えば、新美南吉の『手ぶくろを買いに』など、国語の授業で動物を主人公とした童話について学んだあとに、子どもに「自分でも動物が登場する物語を書いてみよう」という課題を与えたとします。これは子どもにとって高度な課題であり、豊富な読書体験がある子どもでないと書き上げることは難しいでしょう。社会科や理科などで調査や実験結果について議論や発表をさせるときにも、授業に積極的に参加できる子どもと参加できない子どもとの差がはっきりと出ることが想定されます。
  こうした問題を解決する上で参考になるのが、既に活用型学習を授業に取り入れ、PISAでもトップレベルの成績を収めているフィンランドの授業です。
  いわゆる「フィンランドメソッド」の特徴としてまず挙げたい点は、子どもに「型の提示と習得」をしっかりと行っていることです(P.15資料参照)。童話であれば、物語の冒頭にまず主人公が登場し、次に主人公を取り巻く環境を描写し、更に主人公の個性が明らかになる出来事を描くというように、童話には必ず創作技法の「型」があります。その「型」を子どもに習得させれば、だれでも物語を描くことができるようになるわけです。同様に、子ども同士で議論をさせるときには司会進行や意見表明の「型」を学ばせます。
 「フィンランドメソッド」の2つめの特徴は、個に応じた指導を徹底していることです。ある子どもには800字の課題を与えますが、別の子どもには200字の課題にするというように、子どもが課題を達成する力に応じて異なる目標を設定しています。どの子どもも自分の力に合わせて課題に取り組めるのです。
  3つめが、体験を通した学習活動の重視です。ボランティア活動で高齢者と交流したばかりなら、子どもは真剣に高齢者にお礼の手紙を書こうとするものです。「是非、表現したい」「解決したい」という課題であれば、子どもは少しぐらい難度が高くても意欲的に学習に取り組みます。
  現行の学習指導要領で導入された総合学習では、本来の狙いであった課題解決型の学力が身につかず、単なる体験活動に終わっているケースが多く見られます。これは、国が総合学習を導入するにあたり、総合学習で育てたい学力を具体的に明示せず、その学力を育てるためのメソッドを確立しないまま始めた点に主な原因があったのではないかと思います。これから全教科・領域等で「言語活動の充実」や「活用型の学習」を展開するときにも同じことがいえます。その目的と、目的を達成するためのメソッドが、いかに明確に示されるかが成否の鍵を握るでしょう。
  また、言葉の力を育てる上で、現場の先生方にこれまで以上に求められることになるのが、学級集団づくりでしょう。「言葉の力」は、1人で机に向かってコツコツと勉強しているだけでは絶対に伸びません。友だちと意見を言い合ったり、アイデアを出し合ったり、一緒に活動をする中で育まれていくものです。そのためには、子ども同士で互いに学び合う関係がクラスの中にできていることが不可欠となります。
  更に、先生同士の集団づくりも大切です。優れた教材やメソッドを共有し合ったり、お互いに授業評価を行ったりするなど、教師集団として子どもの「言葉の力」を高める努力を続けることが大切なのは、いうまでもありません。

図2


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