新学習指導要領へのアプローチ 第4回 「活用」から考える授業づくり
吉田映子

杉並区立高井戸第三小学校

吉田映子

Yoshida Eiko

3学年担任。第54回読売教育賞「算数・数学教育」部門で「1年生の算数…出会いと感動」の実践報告が最優秀賞受賞。日本数学教育学会研究部常任幹事。ハンズオン・マス研究会に所属し、実践を多数発表。次回のハンズオン・マス研究会は2009年2月1日(日)於 筑波大学附属小学校を予定。研究会のウェブサイト
http://handson.exblog.jp/

VIEW21[小学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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【事例1】「活用力」育成の実践

子ども同士の学び合いや既習事項を活用する活動で
問題解決能力を育てる

東京都杉並区立高井戸第三小学校 吉田映子先生

知識や考え方の「引き出し」を増やすと共に、それらを適切に活用する力を育成する。
この二つに重点を置く指導によって「活用力」は育つ、というのが吉田映子先生の考えだ。
子どもが主体的に学び合う学習を取り入れるなど、授業の中で一人ひとりの思考を促し、
「活用力」を高めるための工夫が随所に光る。

活用の考え方

算数で育つ「活用力」は「生きる力」につながる

 「算数は、既習の内容を活用して新しい考え方を生み出す創造的な教科といえます」
 吉田映子先生は、このような考えに基づいて、「活用力」を育てる指導を積極的に取り入れる。算数の知識や技能、考え方などを、吉田先生は「引き出し」と表現する。新しい問題に取り組む際、どの引き出しを開き、どのように用いるのかを自力で考える。このプロセスこそ算数における活用だと、吉田先生は言う。
 「授業では、引き出しを充実させること、それらを適切に活用する力を育てることを重視しています」
 吉田先生は、算数の学習によって培われる「活用力」は教科学習だけで発揮されるとは考えていない。実社会で難しい問題に直面し、それまでに蓄えた知識や経験を駆使して解決を試みるプロセスは、算数における活用とよく似ている。算数の学習は子どもが多様な考え方を身に付ける機会にもなる、と指摘する。
 「最初、子どもは間違うのを恐れますが、教師が『間違えても大丈夫だよ』と言い続けると、次第に自信を持って考えを発表するようになります。そうした雰囲気が学級に生まれると、子どもの中に、友だちの考えに興味を示し、理解しようとする姿勢が芽生えるのです」
 算数を通して育つ問題解決能力や多様な考え方への理解。吉田先生は、それらが「生きる力」の土台になると考えて授業を構成している。

指導上の心がけ

自分で考え、学び合って答えをつくり上げていく

 授業で活用の指導を行うために、吉田先生が重視するのは、子どもの主体的な学び合いだ。教師が解法を提示せず、子ども自身が答えをつくり出す過程が「活用力」を培うと考えるからだ。
 「子どもは自分たちが見つけた考え方を大切にします。別の場面になっても『あの方法を使おう』と言い出すなど、それまでの経験や知識を活用しようとするのです」
 子どもに自力で解法を考えさせるのは、容易ではない。子どもの思考を促すポイントは、教師が日頃から「なぜ」「どうして」と質問を繰り返し、考えを口に出して説明させることだ。
 「簡単に答えられる問題でも、『どうしてそうなるの』とあえて聞きます。子どもに思考の過程を説明させることで、普段から考える習慣を身に付けさせるためです」
 特に初めのころは、子どもが考えるのに時間がかかったとしても、教師はその時間を「待つ」ことが重要だ。ただ、子どもの考えが完全にまとまるまで待つ必要はなく、途中経過の発表を適宜挟むと効果的だと、吉田先生は話す。
 「『Aさんはこう考えているよ』『Bくんは、どこで勘違いしたのだろう』といった問いかけから、ほかの子どもの思考が引き出せます。子どもの考えを積み上げていく学習が、子ども同士の学び合いだと思うのです」
 子どもが「活用力」を発揮する場面は、学年が上がるごとに増える。既習の内容を踏まえた学習となるからだ。つまり、学習の土台は低学年からの積み上げによってつくられる。
 「高学年になると自然に『活用力』が付くのではありません。低学年から『前の時間を思い出して』『以前に似た内容を勉強したよ』などと繰り返し、自分の中の知識や考え方を使って新しい問題に対処する経験を十分に積ませることによって、徐々に育つものです」


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