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活用を重視した授業には、どのような効果があるのでしょうか。 |
齊藤 |
教育上の効果としては、次のような素養を身に付けた子どもが育ちます。一つ目は、既習内容を基に自力で課題解決が出来ること。二つ目は、学んだことの価値を理解していること。知識・技能の内容だけではなく、その働きやアイデアの良さなどを知っていると、それらを基に深く思考出来るようになります。三つ目は、学び続ける良さを理解していること。子どもが自ら学んだことを活用して課題を解決するという体験は、最終的には主体的に学ぶ姿勢の育成につながります。 |
中村 |
習得のみの学習には個別の知識を集めるようなイメージがありますが、活用を取り入れた授業によってそれらが互いに結び付き、「知恵」に変わるといって良いでしょう。この知恵が思考力や判断力、表現力となり、日常の問題をも解決する力をもたらします。 |
齊藤 |
教師側の利点としては、授業時間の短縮につながることです。活用を取り入れた授業は時間が掛かると思われがちですが、それは違うと思います。活用を取り入れた授業がうまく展開し始めれば、子どもから「前に勉強したことだよね」「それはもう分かっているよ」といった声が聞かれるようになります。そうなれば、新たな単元に入る度にゼロから教える必要がなくなっていくのです。 |
中村 |
私も同じ意見です。今後は算数の学習内容が増えますから、知識を伝えるだけの授業では時間が足りなくなってしまいます。つながりを重視した指導が必要です。 |
齊藤 |
授業の効率化によって生じた時間は、遅れがちな子どもに手厚い手立てを講じたり、書かせたりする指導に費やすと良いと思います。 |
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活用を取り入れた授業づくりのポイントは何でしょうか。 |
中村 |
重要な点は四つあります。一つ目は、「根拠の明確化」です。活用は、既習内容を基に考えさせることが大切です。その授業で、どのような既習内容が思考の根拠になるのかを明確にした上で授業を組み立てる必要があります。二つ目は、「知識やアイデアの再構成」です。子どもから出てきそうなアイデアがどのようにつながるのか、見通しを立てておいてください。三つ目は、「多様性と整合性」です。「複数の事象に共通するものは何か」「同じ方法を試すことが出来るか」といった視点から、共通性や整合性を探っていく視点も重要です。そして四つ目は、「統合・発展」です。例えば、整数がどのように小数や分数に変わっていくかなど、新しい見方や考え方を獲得していく観点です。 |
齊藤 |
子どもが主体的に考えるには、今日学んでいる授業の流れを教師と子どもで共有し、問いを明確にすることがまず必要です。 |
中村 |
教科書をどのように提示するか、子どもに教える内容と考えさせる内容を峻別することが大切だと思います。 |
齊藤 |
懸念するのは、子どもに活用させようと意気込むあまりに、「活用のための活用」になってしまうことです。「活用型授業」というパターン化された授業があるわけではありません。活用を取り入れた授業づくりには、「どのような子どもを育てるか」という視点が不可欠です。新学習指導要領のねらいを基本としながら、その学校の子どもの実態や年間計画の中で力を入れることによって授業がつくられていくのです。まずは、育てたい子どものイメージを明確にすることから、活用を取り入れた授業づくりを始めてみてください。 |