小中連携・一貫教育の全体像を見通すために、(1)研究指定 (2)カリキュラム区分 (3)連携を図る教科や領域 (4)施設の設置形態の4つの観点から見ていく。
小中連携・一貫教育を支える国の制度としては、文部科学省の「研究開発学校制度」と「構造改革特区」が知られている。これらの適用を受けた学校や地域には、「学習指導要領の特例」が認められ、学校独自教科の設定や、教科内容の弾力化などがある程度認められる。 その他にも、小中連携を直接的に推進するものではないが、「キャリア教育推進地域」や「『総合的な学習の時間』モデル事業推進地域」の研究指定もある。これらの多くは、学校単独ではなく、一定地域の複数の小・中・高校に対して研究指定をしているのが特徴で、各校が取り組みを進める過程で、必然的に校種間連携が推進されることになる。 国による指定以外にも、都道府県や市区町村単位での研究指定も多数に上る。神奈川県横浜市や東京都町田市のように、自治体独自に小中9年間を見通したモデルカリキュラムを作成する動きもある。更に、市内全ての小中学校で一貫教育を推進中の広島県府中市では、市独自の事業として、施設一体型の小中一貫校の整備を進めている。現行の学習指導要領に則った取り組みとなるため、他校への波及効果を図りやすいメリットがあるという。
小中連携・一貫教育においては、「4・3・2」「3・4・2」「5・4」など、今の子どもの身体的・精神的な発達状況を踏まえた上で、現行の「6・3」に替わる区分をどのように再編するのかにも着目する必要があるだろう。 全国的な傾向としては「4・3・2」区分に基づいてカリキュラムをつくる学校が多い。しかし、この区分は、子どもや学校を取り巻く地域の実情に応じて考えられるべきもので、一概にどれが「正解」と言うのは難しい。しばらくは教科や活動領域ごとに、どのようなカリキュラム区分がよいのか、実践的な研究が行われることになるだろう。 各地の小・中学校が、どのような考え方に基づいてカリキュラム区分を設計したかについては、P.14~17の「多様な小中一貫カリキュラム」を参照してほしい。
小中の連携を、どのような教科や領域で進めていくかは、学校にとって最も関心の高いことではないだろうか。 先に述べたように「小中一貫」を掲げている学校といえども、その多くは一部教科や領域での連携が中心だ。特に構造改革特区では、英語での連携が多い。その背景には、英語は、中学校で嫌いになったり、つまずいたりする生徒が多いなど、課題が多い教科であることに加え、小学校の英語活動が盛んになってきたことが挙げられる。 「中1ギャップが起きやすい」といわれる算数・数学や理科での連携についても小学校のニーズが高く、小中教師によるチームティーチングや出前授業を行う中学校は多い。近年は、兼務制度を活用した実技系教科における教師の相互交流も増えてきている。 今後は、キャリア教育を軸とした連携が増えるのではないか、と予想される。子どもの発達段階を踏まえた勤労観・職業観の育成は、教育界のみならず、産業界からの要望も強い。現実問題として、小中間での職場体験学習の重複などが各地で課題となっており、小中間で活動の内容や目標を調整することが必要になってくるだろう。
小中連携を考える上で、施設の設置形態の問題を避けて通ることはできない。図4は、広島県府中市教育委員会による3分類を図示したものだ。多くの学校は、中学校と小学校の校舎が離れた「連携型」に分類されるはずだ。 チームティーチングや授業の相互乗り入れを行う上では、小学校と中学校の校舎がまとまって立地する「一体型」や「併用型」が有利だろう。実際、「小・中学校の校舎が離れているため、出前授業以前に、簡単な連絡会議の開催にも一苦労している」といった声はよく耳にする。 しかし、東京都三鷹市のにしみたか学園(三鷹市立第二小学校、井口小学校、第二中学校)などは、教師のシフトや時間割の工夫などによって、校舎は離れていても、教科でのカリキュラム連携や授業の相互乗り入れを実現させている。設置形態が必ずしも取り組みの内容を規定するわけではないことは、改めて確認しておきたい。 この課題については、地方自治体の政策が大きな影響力を持っている。都市部では、教育改革の目玉として施設一体型の小中一貫校が新設されるケースもあるだろうし、地方では、人口減による学校の統廃合に伴って、従来からある学校の空き教室を活用する形で、施設の一体化が進む可能性も考えられる。