ベネッセ教育総合研究所
大学改革の行方 変わる高等教育
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独立行政法人化、少子化で高等教育はどう変わるのか
――今後は少子化に伴い大学進学希望者は減っていくことが予測されます。大学の生き残り競争はどのように展開するのでしょうか。
 18歳人口は、ピーク時から既に3割減少しています。ただし、国立大に関しては、少なくともあと6年くらいは補助金が給付されるでしょうし、教員の質や研究の蓄積の面でも、強力な大学が多いわけですから、生き残り自体は問題にならないでしょう。ただ、授業料については上げざるを得なくなるでしょうね。独立行政法人化後は、これまでと同額の補助金が支給される保証はありませんから、大学が従来の研究・教育水準を確保するために、補助金の削減分を授業料で補填することは十分考えられます。
 一方、私立大は大学の知名度や規模で、今後大きく変わってくると思います。現在、私立大は三つのグループに分かれていると考えられます。第1グループはいわゆる「銘柄大学」で、入学希望者も非常に多い全国区の大学です。第2グループは「中堅大学」で、入学希望者もある程度ある大学。第3グループは、「歴史の浅い小規模な大学」で、その多くが既に定員割れを起こしています。
 財政的に一番脆弱なのは第3グループで、このグループでは統廃合が具体的な課題になってきます。今後、企業が経営する営利大学が増えてくれば、第3グループの大学を傘下に収めるという形態も増えるでしょう。第2グループは、18歳人口急増期に学生の定員超過率が高かった大学が多いために、財政的な蓄積が豊富で、今のところ経営的に苦しい状況にはありません。ただ、第2グループが学生を集められない状況になると問題は大きいと思います。戦略的縮小という選択肢も含めて何らかの手を打たないと、早晩危険な状態になるのではないかと思います。第1グループも安泰ではありません。従来より定員超過率は高くなく、財政的な蓄積も余裕があるとは言えません。何よりも国立大と競合しているため、教育の質を保障するという観点からも、授業料を上げられない構造にあります。
――大学を取り巻く環境は厳しさを増しているようですが、高等教育全体を俯瞰して、中長期で考えられる変化はどのようなものでしょうか。
 既に高等教育に対する需要は、以前とは変わってきていますし、規制緩和によって需要に応じられる体制が整ってくると、図4のような変化が生まれてくるのではないかと思っています。
図4
左側は「拘束型学習」と呼んでいますが、大学を含め現在の単位制の学校はここに入ります。これに対して、右側の「選択型学習」は選択肢の広い学習の需要に対応するものです。「体系志向」は理論的な知識体系を重視する教育、「対処志向」は実用的・具体的な内容に対応する教育です。今までの大学は左上の体系志向・拘束型学習でした。今後は、対処志向や選択型学習にシフトする大学が現れると予想されます。
 今後はさらに、選択的な学習機会を増やしたカルチャースクールのような大学、企業が設置する営利大学も出てくるかも知れません。従来の教養重視大学は、短期的には現在同様、○○学という新しい名前の学部を設置するなど、対処志向的に学生を呼び込もうとするでしょう。ただ、長期的には大学の特色が分化するほど、教養重視の大学は左上の方に純化していくのではないかと思っています。
 いずれにせよ、単に大学がいくつ潰れるという問題だけではなく、こうした需要の多様化や財政的な制約の中で大学の行動がどのように変化するかが、今後の大学の在り方を考える上で、大きなポイントになってくると思います。


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