大学の工学部と工学教育の展望を占う上でポイントになるのが、産学連携、工学部の総合化など、従来の大学や工学の枠組みを越えた動きである。まずは、産学連携から見てみたい。
かつて産学連携と言えば教授・研究室単位で行われることが一般的であったが、現在ではそこから一歩前進し、企業と大学による包括的な連携が広く見られるようになった。例えば、日本の知的財産の宝庫と言われる日立製作所は、現在7大学(京都大、電機通信大、北海道大、慶應義塾大、筑波大、立命館大、早稲田大)との包括的提携を進めている。研究内容も「次世代太陽電池」「ナノテク・バイオ研究」「人間型ロボット」「燃料電池」などの具体的な新技術の研究・開発から、「高度技術者の育成」のような将来を見据えた人材育成まで幅広い。
このように、企業にとっては国際競争力の強化、市場占有率の拡大などの思惑があるわけだが、大学にとっても産学連携は生き残りを賭けた戦略的施策に他ならない。特に国立大学法人は、大学全体でどのような魅力を備え、どこにコアコンピタンスがあるのかを明示して企業にアピールすると共に、産学連携の成果を具体的な形として世に問えるよう研究開発力を磨き上げていく必要に迫られているのである。そのためのポイントとして考えられるのは、以下の2点である。
一つは特許収入の実現である。具体的な研究成果により売り上げを高め、ライセンス(特許)収入を得る過程で、大学自らが知的財産権という「資産」を守る経営の視点を持つことが重要になるだろう。
もう一つは大学発ベンチャーの育成である。研究成果を土台としたベンチャーに大学が間接的ながら投資する。それにより、ベンチャーが成功した場合の利益が大学に還元され、新たな研究開発を推進することができ、研究開発費の捻出→具体的な成果→リターン→再投資という好循環が生まれることになるのである。
もっとも、現時点における課題も指摘されている。東京大大学院新領域創成科学研究科の伊藤耕三教授は、資金と人材を課題として挙げているが、特に後者は産学連携推進を阻む大きな要素であるという。
「現在においても、研究者にとっての最大の評価指標は論文です。産学連携に力を入れれば入れるほど、論文を書くことが困難になるわけですから、研究者として産学連携に取り組む動機づけが弱いのが現実です。研究者を惹き付けるインセンティブを確立することが、今後産学連携を活性化させる鍵になるでしょう」 |