指導変革の軌跡 岩手県立西和賀高校
VIEW21[高校版] 先生方とともに考える 新しい進路指導のパートナー
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地元の人の声掛けや感謝の言葉が自己効力感を高める

 地域との触れ合いは、生徒が自分の存在価値を発見する機会にもなっている。地域に若者が少ないということもあり、同校は「祭りの運営に力を貸してほしい」「一人暮らしの高齢者の方々の家の雪かきを手伝ってほしい」などボランティアをよく依頼される。福祉施設にボランティアに行った生徒の中には、自分のしたことに対して涙を流してお礼を言う高齢者の姿に心を打たれ、地域への愛着を一層深める者もいる。3学年主任の畠山賢先生は次のように語る。
 「『西和賀高校なら入れる』という消極的な理由で入学した生徒も中にはいます。そうした生徒たちは、入学当初、学校や地域に愛着を持てないでいます。それが、地元の人たちに声を掛けてもらったり、感謝されたりする経験を通して、自分も人の役に立てるということに気付きます。中学時代に不登校気味だった生徒が、自然と学校に足を向けるようになるのも、人とのかかわりを通して、学校や地域の中に自分の居場所を見いだしているからではないでしょうか」
 改革の成果は顕著だ。01年度16人の県外就職者は、08年度には4人にとどまった。大学進学者数は、06年度入試の8人から、09年度入試では19人と大幅に増えた。例年4~6人であった国公立大合格者数は10人に達した。しかも、就職にしろ進学にしろ、目的意識や使命感を持った進路実現である。
 今後の課題は、「教師の異動の影響を受けない強固な指導体制を築き上げること」と、酒井孝子校長は語る。
 「本校では、目指す学校像の一つに『すべてにおいて本物を目指す学校』を掲げています。生徒の落ち着いた生活態度や、真摯に指導に取り組む教師の姿勢は立派であり、好調を維持する原動力になっています。しかし、教師の異動で指導ががらりと変わってしまうようでは、『本物』とは言えません。教師が代わっても、変わらぬ指導内容と実績を維持できる体制を根付かせる必要を感じます
 確立したノウハウを定着させ、引き継いでいく体制を構築できるかが、同校が地域のための学校として存在し続けられるかどうかを左右することになるだろう。
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3年生が全員参加した「ジョブカフェいわて」の職員を招いての面接研修会の様子。生徒が3人1組になり、面接者、受験者、観察者として面接練習を行っている。面接研修は3回実施。志望動機のつくり方から、敬語の使い方、面接練習まで幅広く指導を受けた。生徒に、多くの人々に支えられていることを実感させる取り組みの1つでもある

*今回のテーマに関連する過去の記事:

→ 2009年度 2009年9月号

地方公立高校の挑戦:広島県立加計(かけ)高校 芸北(げいほく)分校

→ 2008年度 2008年10月号

地方公立高校の挑戦:広島県立油木(ゆき)高校


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