耳塚 今回の調査結果は、「学習時間の回復」が目立ちますが、他方で思考力や読解力、表現力など、これまで日本の学力の弱点とされてきた力になお課題を残すことが見えてきたように思います。今後、どのような方向に取り組みを進めていかれるのでしょうか。
矢野 同じ教材でも、子どもが「えっ」と思うような視点を与えられれば、授業に対してもっと積極性が出てくると思います。理科の授業で昆虫の写真を見せるときも、口や頭のアップを見せるとインパクトがあります。
永野 教材は、小学校の指導の範囲内で考えると限界があります。中・高校の学習にどう結び付くかを研究し教材に反映すれば、学習に広がりが生まれるのではないでしょうか。
水野 2、3人の優れた教師がいても、学校全体の学力は上がりません。すべての教師が最低限すべきことを示した、ある程度のマニュアルは必要です。校長が変わっても良い取り組みが継続できるようなシステムの確立にも、現在の課題として取り組んでいます。
矢野 私は、毎週月曜日の7時30分から30分間、新人教師に「早朝ゼミ」を行っています。その教師の授業を見て不十分と感じた点を集中的に指導するのです。年30回ほど行っていますが、今では近隣校の新人教師も参加するようになりました。教育委員会の初任者研修では個々の課題に対応した指導までは難しいので、実地に即した指導が必要なのです。
水野 特に新人教師に対しては、良い授業を数多く見せることも重要です。
永野 同時に、教師のやる気を引き出すためには、「子どもが変わった」ということを実感させることが大切でしょう。授業の感想も単に「良かったよ」と言うだけでなく、授業の観点を踏まえて、どこがどう良かったのかを具体的に伝えるようにしています。
矢野 「授業力」を構成する要素は、四つあると思います。授業を「構想する力」、構想した授業を「実践する力」、自分の授業を「分析・評価する力」、授業を「改善する力」です。これらの一つも欠かすことなく、総合的なレベルアップを目指すことが授業力の向上につながると考えています。
永野 教師の育成には、研究授業や研修が欠かせません。本校では、すべての教師が年1回以上の研究授業を行い、教師同士の話し合いによって指導力の向上に結び付けています。今後は、教師の視野をもっと広げるために、大学教授などに指導に入ってもらい、例えば、算数であれば小・中・高と学び続けていくことの面白さや見通しを示してもらうことを考えています。子どもたちは、基礎・基本を超えた難しい問題だからこそ興味や関心を示すことがあります。それを、思考力や学習意欲に結び付けるのが教師の指導力です。
耳塚 そうですね。戻ってきた学習をどう方向づけて、思考力や表現力など学力の質の向上を実現するのか。07年から始まる「全国学力・学習状況調査」の課題の一つも、知識・技能だけでない「活用」の力を育てる点に置かれています。行政と現場が協力し、また小中高大の連携を通じて、是非力を入れていきたい点です。学力の底上げを通じた格差縮小も大切な課題です。今後の取り組みに期待しています。ありがとうございました。
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