巻頭インタビューで油布教授が、授業研究活性化のきっかけとして提案していたのは「それぞれの学校に合った方法を導入してみること」だ。そこで、本特集では、学校現場が抱えている授業研究に関する課題と、それらを解決するための具体的な方法のヒントを、3つの事例を通して紹介する。
図1は2007年4月に実施した読者アンケートから明らかになった「校内研修を機能させる上での課題」だ。最も回答が多かった課題は、「十分な時間が取れない」(66.8%)だった。それに、「教師間の意欲のバラツキ」(27.3%)、「予算がない」(22.1%)、「体系的な年間計画が立てられない」(14.0%)、「教師間の学力観のバラツキ」(13.3%)、「リーダーシップをとる教師がいない」(11.4%)、「外部の良い指導助言者がいない」(10.7%)、「マンネリ化」(10.3%)が続いた。これらの課題を、P.6以降で紹介する学校はどのような方法・工夫で解決しているのだろうか。
教師間の意欲のバラツキを解消するためには、教師全員の参加意識が高まるような仕掛けを取り入れるのも一つの方法だ。 P.6から紹介する新城(しんしろ)市立新城小学校では、「座席表」の活用と「模擬授業」により、教師全員の意欲的な参加が実現している。「座席表」に書き込まれた子ども一人ひとりについての記述が「記録」として機能し、教師全員を巻き込んだ話し合いにつながっている。また、教師が児童役になる「模擬授業」は、授業者以外の教師も当事者意識を持って取り組む有効な方法となっている。
マンネリ化の解消には、形式にこだわらず、柔軟に新たな方法を試してみることが大切だ。 例えば、P.10から紹介する横浜市立森の台小学校は、「まずはしてみよう」の精神でワークショップ型の授業研究を取り入れ、マンネリ化と教師の世代間ギャップの解消を図っている。教師の数が多い同校では、会議形式の授業研究をすると、形式的になったり、若手が消極的になったりするという悩みがあった。そこで、一人ひとりが思ったことを付箋に記入し、それを少人数グループで出し合って議論する形式を試してみたところ、教師同士が世代を超えて自由に意見を言い合う雰囲気が生まれてきた。
教師の間に学力観のバラツキがあると、学校全体の目標設定や活動計画などで意見がまとまりにくく、研修にも時間がかかり、悪循環となってしまう。 P.12から紹介する高知市立潮江(うしおえ)小学校は、外部研究者の継続的な指導が、教師の学力観や目的意識の一致に大きな役割を果たしている。更に、休み時間の活用や指導案の簡素化、事前研修の省略などで教師の負担を減らし、年間100回の授業研究を実現させている。研究の形式にこだわらず、授業そのものの質を徹底的に追求することで、教師たちが確実に授業力を伸ばしている。加えて、研究指定制度を予算獲得の手段の一つとして積極的に活用していることも、予算不足で悩む学校には参考になるだろう。