VIEW21 2002.12  大学改革は高校現場の指導をどう変えるのか?

【4】法科大学院・専門職大学院構想
大学院の二極分化、学位の「資格証明」化

 一方、COE構想と共に世間の耳目を集めてきた法科大学院構想であるが、これは法曹人口の拡充を望む世論を受けて、中央教育審議会の大学分科会で審議されてきたものである。この制度の確立により、法曹育成システムは大きな変化を受けることになるが、ここでは、それが高等教育を巡る環境に与える影響に絞って考えてみたい。
 まず、この構想によって、大学院の意味そのものが大きく変容すると言えるだろう。これまで、大学院と言えば、教官・学生の双方に研究者養成機関という意識が強かったのだが、研究も論文執筆も必要とされない資格取得のための大学院の誕生は、こうした従来の大学院観を大きく変えるものである。さらに、この流れをCOEプログラムと合わせて考えれば、研究者育成のための大学院と、高度職業人養成のための大学院の二極分化が一層進むことは自明であろう。
 また、この変化は、法科大学院構想を受け止める形でスタートした専門職大学院の制度によっても推進されるだろう。専門職大学院構想は、00年度にスタートした専門大学院を発展的に解消したものとして、法科以外には主にビジネス関連の高度職業教育を行う教育機関として構想されている。ビジネス資格に対する日本社会の要請が必ずしも高くはないため、この形の大学院がどこまで拡大するのかは未知数だが、大学院の意味付けの変容に与える影響は大きい。
 一方、法科大学院をはじめとする専門職大学院においては、そこで取得される学位の意味が従来の意味とは全く異なってくる。すなわち、従来の○○大学卒という「学歴証明」としての意味付けに代わり、専門職大学院の学位は、職能に対する「資格証明」としての性格を持つのである。学歴神話が崩壊した現在、社会のキャリア志向、資格志向は益々加速しつつあり、専門職大学院における資格認定の在り方自体、こうした社会環境の変化を背景としている。
 しかし、法科大学院を含む専門職大学院の設置は、日本の学校システム全体に対してポジティブな影響ばかりを与えるとは限らない。むしろ、これらの新しいタイプの大学院の設置により、98年答申で打ち出された「学部教育と大学院教育の機能分化」という理念がなし崩しになってしまう可能性もある。例えば、法律家と並ぶ専門職種である医師については、同じ専門職でありながら専門職大学院の設立が議論されていない。また、理工農学部などの理系学部においては、専門職大学院と銘打たなくとも、ほとんどの大学院が既に、高度職業人養成のための機関として事実上機能している。大学院教育の将来像と共に、現行の教育機関の位置付けをどのように再編するかが、今後の課題となるだろう。

【5】大学改革の先に見えるもの
社会システムの変化も視野に入れた進路指導を

 現在進行中の主な改革についてその概略を見てきたが、これらの改革はグランドデザインが不在のまま、個別的に進行しているのが現状である。しかし、高等教育機関である大学の変容が社会構造の変化を促すことは間違いない。例えば、先の法科大学院の設置一つをとっても、学位や学歴が持つ意味は大きく変容する。高校現場においては、学歴志向からキャリア志向への社会の変化を踏まえ、学校を卒業した後まで見据えた進路指導が必要になるだろう。
 学校教育というシステムの内部だけで進路指導を行う時代は既に終わった。人生設計全体を見据えた、より広い意味での進路指導が今後求められるのである。


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