特集 受け身から主体的な学習に向けて
司会
耳塚 寛明

▲お茶の水女子大教授・文教育学部長

耳塚 寛明

Mimizuka Hiroaki

専攻は教育社会学。学習基本調査の調査企画・分析研究会の代表を務める。

 

座談会出席者
渡辺 豊隆

▲鹿児島県立加治木高校
2学年担任

渡辺 豊隆

Watanabe Toyotaka

教職歴10年。同校に赴任して6年目。担当教科は数学。
*加治木高校の事例は11ページ参照

飯島 亮

▲東京都立南多摩高校
進路主任

飯島 亮

Iijima Ryo

教職歴27年。同校に赴任して10年目。担当教科は数学。
*南多摩高校の事例は13ページ参照

赤藤 千鶴

▲兵庫県立姫路飾西高校
2学年主任

赤藤 千鶴

Shakuto Chizuru

教職歴24年。同校に赴任して5年目。担当教科は国語。
*姫路飾西高校の事例は15ページ参照

VIEW21[高校版] 新しい進路指導のパートナー
  PAGE 5/17 前ページ  次ページ

【座談会】

「教え込む指導」から脱却し自ら学びに向かう姿勢を育てる

第4回学習基本調査」では、近年の生徒の気質を反映し、家庭学習時間や、進路意識の二極化など、さまざまな課題が浮かび上がった。
学校現場の第一線で生徒と接している教師は、生徒の変化をどのように感じているのだろうか。
公立高校の3名の先生方にお集まりいただき、調査分析を担当したお茶の水女子大の耳塚寛明教授と、学習や進路に対する生徒の意識の現状、主体性を身につけさせるための方策について語っていただいた。

予習のできない生徒が増え授業の定着度も低下

耳塚 今回の学習基本調査で最も気になったのは、家庭学習時間の二極化です。偏差値55以上の学校の生徒の学習時間が増加に転じた一方、偏差値50以上55未満の学校の生徒の学習時間は大きく減りました。現場の先生方の実感はいかがでしょうか。

 

赤藤 姫路飾西(しきさい)高校は偏差値50以上55未満の学校ですが、1年生の平均学習時間は約1時間で、学習基本調査の結果通りの数値です。2年生になっても、その時間に変化はありません。今ある力を維持すれば、ある程度の大学に入れると思っているためか、頑張って勉強しようという意欲を持ちにくくなっているようです。

 

飯島 南多摩高校では3年前、2年生の7月模試で、成績が急激に下がることに気づきました。「スタディーサポート」で生徒の学習実態を調べたところ、平日に自宅学習を全くしない生徒が6割以上もいることがわかり、愕然としました。塾依存の傾向が強くなっていることもあって、教師から与えられた学習しかできない生徒が増えていると思います。

 

渡辺 確かに、受け身の生徒は増えています。加治木高校は、全国平均に比べて高校で塾に通う生徒は少ないですが、それでも定期考査前には課題を求めてくるなど、指示待ちの生徒が多くいます。学習時間が減るということはまだありませんが、学習をする生徒、しない生徒の二極化は進んでいると思います。

 

赤藤 特に予習をしない生徒が増えているのが特徴です。定期考査前に行う質問会でも、ある程度勉強してわからない部分を聞くのではなく、全く真っ白の状態で来るので驚きます。中学時代に塾中心の学習をしてきた生徒にとって、自分で課題を見つけて学習するということは困難になってきていると感じます。

 

飯島 中学校や塾で手厚い指導を受けてきているので、何でも教師が与えてくれると思っているのでしょう。試験前になるとすぐに「今度のテストには何が出るか」ということを聞きたがります。効率のよい学習を求める生徒の気質が、予習に向かわせないのかもしれません。

 

耳塚 今回の調査では、全国平均として授業の理解度が向上しているというデータも出ていますが、現場の実感はいかがでしょうか。

 

飯島 5年前の生徒と比べて理解が深まっているとは思えない、というのが率直な感想です。むしろ、授業を理解していない生徒が増えたという印象の方が強い。しかし、生徒が「わかっている」と思っているということは、低いレベルでの理解で満足しているのではないでしょうか。

 

渡辺 そうですね。授業中の生徒を見ていると、うなずいたり、理解しているような表情をしたりします。しかし、授業がわかることと知識として定着していることとは別物だと思います。本校では、数学の定着度を高めるために単元ごとに復習を兼ねたテストをしますが、出来は教師が期待するレベルに達していません。


  PAGE 5/17 前ページ 次ページ