前回は、メディアリテラシーの定義や基本的な考え方についてお話ししました。今回は、私が学生時代から追求し普及活動を行ってきたメディアリテラシーの知見を基に、学校や家庭で行えるメディアリテラシー教育の実践のヒントをお話しします。

メディアリテラシー教育の授業を、もっとクリティカルで双方向なものに

私が代表を務める日本メディアリテラシー協会は、全国から講演会や模擬授業のご依頼をいただきます。そうした場で私が話をする際に心がけているのは、ネガティブなことばかりを伝えないようにすることです。「○○はやめましょう」といった発言や、ルールを破ったために危険な目に遭った事例などの話は最小限にして、インターネットやSNSを有効に使って国際的なコンテストに出場した生徒や大学の総合型選抜で合格した受験生などの話を数多くするようにしています。メディアを楽しく、工夫しながら使うことで、怖がるだけではなく、数多くのメリットがあることも知ってほしいのです。そうすることで、自分なりの、メディアの賢い使い方を考えられる人が増えてほしいと思っています。

メディアリテラシー教育の中でも、学校だからこそ可能な教育があります。その1つが、クラスメートとの集団活動による学びです。
例えば、「報道」というテーマの授業をする時、クラス内を新聞、テレビ、ラジオなどと、いくつかのグループに分け、それぞれの立場になりきって同じ日、同じ人物にインタビューを行うといった活動をします。各グループが、調査して得た情報を整理して発表する場面をクラス全体で見合うことで、同じ事実でも媒体によって伝え方が異なることに生徒たちは気づきます。新聞であれば伝えたい情報を決められた文字数で文章にする技術が必要ですし、テレビであれば即時性を生かした発信の仕方を検討し、ラジオであれば声のみで情報を伝える上での工夫の仕方を考えるでしょう。異なる立場で互いの意見を述べ、思考を深める作業は、集団で学ぶからこそできることです。その中で、どのような場面でも共通して守るべきことなどを、生徒は自分たちで気づきます。
そのように、「○○には気をつけましょう」と教授するだけではなく、よりクリティカルで、子ども自身が主体的に考えられる授業が学校現場に増えてほしいと願っています。

青山ビューティー学院高等部の「総合的な探究の時間」の授業の様子(2023年)。メディアリテラシー教育との出合いや、取り組んでいる活動などについて話した。学校外にある社会にも触れてほしいと考え、同校の生徒を協会主催のイベントに招待した。
出典:寺島絵里花氏ブログ
https://ameblo.jp/the-base-of-tokyo-tower/entry-12790287339.html

自分を追い詰め過ぎないようにと伝え、別の世界を見せることも学校教育の役目

前回、メディアリテラシーの中でも基本となる力の1つに「『スクリーンタイム』を自分でコントロールする力」を挙げました。生活のIT化が進むと、たとえゲームや動画などのコンテンツを利用しなくても、スクリーンタイムは自然と増えていきます。なぜなら、スマートフォンなどのデジタル端末を使うことが日常になっていくからです。私は現在、中国に赴任していますが、顔認証で買い物ができるような日常生活を通じてIT化が著しく進んでいることを実感し、いずれ日本も似たような状況になるだろうと思っています。だからこそ、対面での会話とネットワークを介したコミュニケーションとのバランスを取ることがますます重要になると考えています。コロナ禍を経て、様々な場面でのリモート化や学校教育において1人1台端末の導入が進みました。同時に、対面のコミュニケーションならではの温かみや、意思疎通する力の重要性を私たちは再認識したことと思います。学校教育においても、産学連携や地域との交流など、場所や世代を超えた教育ができれば、子どもたちの視野が広がり、質の高いメディアリテラシーを身につけられると考えています。
また、子どもたちが生活している世界は大人よりも狭く、メディアを通してつらい思いをすると、「もう生きていけない」と自分を追い詰めてしまうことがあります。先生方には、一時的に逃げ込んだり、安心することができたりする場所がメディアの中以外にもあることを、広い世の中への窓口でもある学校での授業を通して伝えていただきたいと思います。

家庭で行うメディアリテラシー教育 ~普段の会話を大切に~

家庭では、メディアの使い方を子どもと話し合うことから始めましょう。会話のテーマは、スクリーンタイムの削減を考えて「どういう休憩の過ごし方が必要か」とするのがお勧めです。子どもが成長するにつれて、保護者は子どものことを知る機会が減っていきます。子ども自身も、対面でのコミュニケーションを避けて、バーチャルな世界で過ごす時間が楽だと感じるケースが増えていきます。私は保護者からよく「うちの子はスマートフォンばかり触っていて困っている」と相談されるのですが、子どもが好きな動画やゲーム、ユーチューバーの名前を知っているかと尋ねると答えに詰まってしまう保護者の方は非常に多く、スマートフォンを使って何をしているのか、までは把握していません。「親は視聴時間ばかり気にして、自分が好きなことには興味がないのか」と感じる子どもの気持ちを想像してみてください。普段の会話を通して、我が子が今、何に興味があってそれはなぜなのかを理解しようとする努力が必要です。

質の高い情報に触れる環境をつくることも、家庭でできるメディアリテラシー教育です。質の高さは、より多くの人が精査したかどうかで判断できます。質が高い情報を提供するメディアの代表格が新聞です。実際に現場に出向いた記者が書いた記事が、デスクや校閲など、多くの人のチェックを経て私たちに届きます。質の高い情報に日常的に触れることで、フィルターバブル(前回参照)に陥りにくく、多角的なものの見方が身につきます。

相手の気持ちや情報を批判的に読み解く力の土台を学校が築き、家庭で伸ばす

今後の日本は、様々な国籍の人と暮らすことがあたり前の国になっていくでしょう。そうなると、自分の国のことはもちろん、いろいろな国のことを知り、相手のバックグラウンドを踏まえたコミュニケーションを取ることが一層大切になります。そのため、たくさんの情報に触れたり、多様な経験を積ませたりするとともに、そうした中で自分なりに思考を働かせる訓練を子どもにさせるとよいでしょう。

土台となるのは学校教育です。家庭では費やせる時間もお金も限られますが、学校が拠点になることで、子どもたちは地域や民間の力を借りながら幅広い経験を積むことができます。社会科見学や探究的な学習などはその代表例と言えます。経験したことは家庭に持ち帰って家族に話し、自分の世界を広げる。メディアリテラシーとは、相手の気持ちや情報を批判的に読み解く力です。学校がその土台を築き、家庭で伸ばすことを願ってやみません。

 

(本記事の執筆者:神田 有希子)

寺島絵里花(てらじま・えりか)

一般社団法人日本メディアリテラシー協会 代表理事

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