私は日々、研究者として、スクールカウンセラーとして、不登校の子どもたちと向き合っています。不登校そのものは問題行動ではありません。しかし、学校に行きづらい子ども本人やその保護者、そして担任の先生にも、皆何かしらの支援が必要であるケースがほとんどです。ただ、その支援が適切かつ十分かというと、そうではないのが実情です。そこで本記事では、不登校に関する現状や課題を確認するとともに、これからの方向性を考えていきます。
不登校者数も割合も増加傾向
文部科学省の調査によると、小・中学校における不登校の子どもの数は9年連続で増加し、2021年度は過去最多の約25万人となっています。小学校では全児童の1.3%、中学校では5.0%にあたる人数で、特に小学生の前年度からの増加が目立ちます。不登校というと、中学生をイメージする方が多いかもしれませんが、低年齢化が進んでいるのです。実際、現場の先生方からは、特に小学校低学年の不登校が増えている印象があると伺います。
なぜ、不登校の子どもが増えたのでしょうか。全国的な傾向としては、「教育機会確保法」と「コロナ禍」が関係していると言えるでしょう。
2016年に公布された「教育機会確保法(*1)」は、不登校について、「どの児童生徒にも起こり得るものとして捉え、不登校というだけで問題行動であると受け取られないよう配慮」し、「登校という結果のみを目標にするのではなく(中略)、社会的に自立することを目指す必要がある」という基本方針を示しています。簡単に言うと、国が「不登校は問題行動ではない」と明言し、不登校の子どもが学校以外の場でも勉強できるようにする法律です。教育機会確保法をきっかけに、教育支援センターや夜間中学などの様々な学習手段が広がりつつあります。法律の公布から6年余りが経ち、学校現場を中心に不登校への理解が徐々に変化しています。かつては、「不登校になるのは保護者の育て方のせいだ」、「子どもだけに問題がある」などと決めつける向きもありましたが、教育関係者の意識は少しずつ変化してきています。
また、コロナ禍は、子どもたちの学習・コミュニケーション方法や、学びのあり方に対する人々の意識に大きな影響を及ぼしました。例えば、子どもは低年齢であるほど五感を使い、全身でぶつかり合って成長していくものですが、コロナ禍では物理的に距離を置くコミュニケーションを強いられてきました。一斉休校の実施や様々な活動の制限などが子どもたちにストレスを与えたことは、想像に難くありません。
教育機会確保法の公布による教育関係者の意識の変化に、コロナ禍が加わり、そのほかの複数の要因も絡み合って今の状況が生み出されているのではないでしょうか。
*1 正式名称は、「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」
気になる児童生徒がいたら、まずは情報収集と共有を
全国レベルでの要因はあるにせよ、不登校となる原因やきっかけは、子どもによって様々です。いじめや発達障害などを背景とした生きづらさ、友人や教師との人間関係、精神病理、虐待、貧困、ヤングケアラーの問題もあります。不登校に至るまでの状況も、欠席が徐々に増えていく子もいれば、突然、全く学校に来なくなる子もいます。そうした中で、比較的よく見られる不登校の予兆としては、遅刻が増える、保健室に行く回数や時間が増えるといった行動です。それらの予兆が見られたら、まずはその子についての情報を収集しましょう。子どもに直接「なぜ最近遅刻が増えているのか」などと尋ねても、解決につながる答えが返ってくるとは限りません。むしろ子どもが心を閉ざしてしまう可能性があるため、そうした方法はお勧めしません。保健室と連携してその子どもの様子を確認したり、保護者に連絡して家庭での様子を聞いたりします(図の「課題予防的生徒指導」に相当)。
生徒指導の重層的支援構造(生徒指導提要より)
最近は、気になる子どもがいれば、関係者でその子どもに関する情報を共有し、適切な支援を検討する「ケース会議」を開く学校が増えてきました。そうした場があれば活用し、ない場合は、関係する教師やスクールカウンセラー、養護教諭などが集まる小規模な場でよいので、得た情報を共有し合いましょう。複数の眼で多くの情報を集めることが大切です。最も早く多量の情報をキャッチしやすいのは学級担任ですが、話し合いの口火を切るのは誰でも構いません。
持ち寄った情報を共有した結果、対応が必要な課題が発生したら、具体的な対応方針を検討します(図の「課題早期発見対応」~「困難課題対応的生徒指導」に相当)。ポイントは、保護者と面談をするのか、専門機関へ相談するのかなど、次の一歩を決めておくことです。そこが明確でないと具体的な行動に移れないからです。
学校全体で取り組み、専門家を巻き込む
不登校への取り組みにおいて最も重要なのは、学校全体で動くことです。不登校の要因や形態は多様ですから、特定の教師だけで抱え込まずに、多数の教職員が連携し、学校外の専門家の力も借りましょう。中には、不登校は問題行動ではないから様子を見ようと、一部の関係者だけで安易に判断してしまい、本来は支援が必要であるにもかかわらず、放置されている子どもも存在しています。そうした状況を改善するためにも、複数の立場の人がかかわることが重要です。
長年、不登校の子どもと接する中で実感するのは、「不登校を理解することは、その子を理解すること」という認識です。そして、「問題」なのは不登校の子ども本人ではなく、不登校の背景にあるということです。例えば、いじめが原因で不登校になった子どもを、いじめが解決していない状態で無理に登校させても意味がないのです。
また、「不登校はこうだ」と型にはめてしまうと、その子どもにとっての最適解を見誤ることがあります。例えば、不登校になったことで気持ちが安定する子どもがいます。とてもつらい思いをしながら登校し続ける状態よりも、学校に行かなくてよい状態の方がプラスに働くからです。その場合は、心の安定を優先し、学校以外の学習手段を一緒に考えて支援する方が、その子にとっては有用かもしれません。「不登校になる=その子が悪い状態になる」と、言い切れないケースもあるのです。
多忙な先生方が学習指導も生徒指導も手がけるのはとても大変なことだと思いますが、子どもが何につらさを感じているのかということとともに、その子はどんな力や可能性を持っているのかといったポジティブな視点をぜひ持ちながら、子どもに接していただきたいと思います。そうしたかかわり方が、子どもの将来を明るいものにしていくはずです。
(本記事の執筆者:神田 有希子)