私はNPOの代表として、子どもたちが自分らしく人生を選択できるようになってほしいという願いを込めたプログラムを20年以上にわたり提供しています。我が子の進路選択をきっかけに始めたこの活動を通じて、子どもの可能性は大人のかかわり方次第で大きく広がることもあれば、狭めてしまうこともあることを強く実感しています。そうした経験から、私がキャリア教育において大切だと考えている視点をお話しします。
「わくわくエンジン®」を探せ!
人生の主役は自分自身。子どもたちには、人から言われた人生を歩むのではなく、自分らしく生きてほしい。皆がそのように生きられる社会になってほしい。そうした思いから、子どもたちが生き方を学ぶプログラムを提供する認定NPO法人キーパーソン21(特定非営利活動法人キーパーソン21)を立ち上げて、23年目となりました。その人らしくあるための原動力を、「わくわくエンジン」と名づけ、活動のキーワードとしています。周囲から言われてではなく、自分はこうしたいという、その人の内側から湧き出るような思いは、物事に一生懸命打ち込んだり、困難があっても踏み出していったりする際の原動力になります。それがわくわくエンジンです。
私たちの活動では、講演会やゲーム形式のワークショップを通じて一人ひとりのわくわくエンジンを丁寧に探して引き出し、実社会とつなげていきます。小学生から高校生までを対象に、これまでに全国183の学校で実施をして、約6万人の子どもたちにプログラムを提供してきました。子どもたちがわくわくして動き出さずにはいられない「わくわくエンジン」から発する「やってみたい!」や「頑張りたい」と思うことの延長線上には、必ず自らが判断することのできる進路選択の基準があります。わくわくエンジンを見つけられれば、その道に進みたいという意欲が湧き、自ずと工夫したり努力したりするようになります。自分が考えたことを体現できれば、自己肯定感や自己効力感が高まり、幸せだと感じることができますし、それこそが自分らしく生きている状態だと言えるのではないでしょうか。
大人のひと言で、子どもの可能性を狭めていないか
しかし現実はどうでしょう。日本の子どもたちの自己肯定感や物事に取り組む意欲は国際的に見ても低く、教育現場でも子どもの主体性や積極性に課題を感じている先生方の話を多く聞きます。将来やりたいことがない、という子どもがとても多いことに強い懸念を抱く保護者も少なくありません。子どもたちからは、「やりたいことなんて、考えたことがない」、「本当はやりたいことがあるけれど、失敗するに決まっていると言われる」といった声も聞こえてきます。
「やりたいことがない」と考えてしまう最大の原因は、周囲の大人が、今ある社会の枠の中に子どもを無理にあてはめようとすることにあります。また、大人は、よかれと思って過去の経験から子どもに「(きっとこうなるから)○○しておくといいよ」とアドバイスしてしまいがちです。しかし、過去の経験が必ずしもあてはまらないことが増え、予測不能な時代でもあります。「親や教師の言うことを聞いておけばよい」、「それがあなたのためだ」といった声かけは、子どもの将来の可能性を狭めているのです。キャリア教育において、大人の役割として重要なのは、進路選択そのものに関する指導助言よりも、子どもが自分自身を見つめて理解し、主体的に動くための原動力となるわくわくエンジンを見つけられるように寄り添い、応援することだと考えます。
子ども自身が未来をつくる3つの力とは
私は、子どもたちが未来をつくるためには次の3つの力が必要だと考えています。自分で考える力、選択する力、行動する力です。この力を育むための柱となるプログラムが、主に学校向けに行っている「 夢!自分!発見プログラム」です。社会人による講演やゲーム形式のワークショップを通して、保護者や教師だけではなく、社会人、経営者、大学生など様々な大人たちとかかわることによって、「自分を知る」「社会を知る」「自立する」力を身につけていきます。
例えば、「おもしろい仕事人がやってくる」では、社会で活躍する大人が自身の仕事や生き様について語る講演会を通して、自分の将来を想像したり考えたりするきっかけを学びます。「すきなものビンゴ&お仕事マップ」は、ビンゴゲーム形式で自分の好きなものや大切に思うことが何かを知り、それが世の中の仕事とつながっていることに気づいていくワークショップです。「コミュニケーションゲーム」では、初めて出会う大人とのコミュニケーションにおいて、伝える、尋ねる、お願いをする、という3つの関門を突破する経験を通して、自分の言葉で話すことの楽しさや伝えることの大切さを体感的に学んでいきます。
こうしたワークショップを経て、自分の「好き」に気づき、「やりたい」と思う気持ちが芽生えたら、そのままにせず、自分が描いた未来に一歩近づくために、具体的なアクションプランを考えて実行する経験もできるよう応援します。実行後は発表の機会を設けます。この考え方やステップの踏み方は、学校だけでなく保護者向けに行っているオンラインプログラムでも基本的に同じです。
キャリア教育は自分を見つめ、未来に向かう学び。
だから「楽しく」
プログラムは、学校段階を問わず共通の枠組みで提供しています。わくわくエンジンは年齢に関係なく大切なものだからです。プログラムの実施をする時間帯や時間数などは、実施する学校ごとに相談をしながら決めていきますが、「総合的な探究の時間」の一環で、課題設定の前段階として行うワークショップでは、高校生が無邪気にビンゴゲーム形式のプログラムに熱中します。未来とは、悲しく、苦しいものではなく、明るく楽しいものであるはず。キャリア教育も探究学習も、ともに答えの分からない未来を考える学びです。普段出会うことのない大人たちとともに対話をするという非日常性を持たせながら、ありのままの自分で楽しく取り組めるように工夫しています。
ワークショップを行う際は児童生徒3人程度につき、大人が1人つくように設定しています。その際のポイントは、かかわる大人が子どもたち一人ひとりの思いに対して、「引き出す」「認める」「伴走する」ことです。そのためには、大人は教えることはせず、子どもが自分で考えて言葉を発することができるように、子どもの話を傾聴し、思いや内面を見取ることに力を注ぎます。例えば、ある子が「プロ野球選手になりたい」と言ってきたとします。そこで即座に「プロ野球選手になれるのはほんのひと握りだから、無理だよ」などと突き放さずに、なぜ、プロ野球選手になりたいのか、を子どもから引き出します。すると、プレーすること以外に、「作戦を立てることが好きだから」、「チーム一丸となって目標に向かう時に自分が役立つことがうれしいから」などと、その子によって異なる「好き」の理由が見えてきます。好きの対象が「野球」という事柄であったとしても、「作戦を立てる」「役に立つ」といった行動につながる理由が分かれば、野球以外のことでもわくわくエンジンが働いて頑張れるはずです。その動詞的な部分がまさに、わくわくエンジンなのです。子どもが自分のわくわくエンジンを自覚することができれば、職場体験学習などの際も、「自分のわくわくエンジンの『作戦を立てる』ということは、いろいろな会社の中の様々な仕事にもあるのだな」などといった視点を持って、体験学習に取り組むことができます。支援する保護者や教師も様々な将来についての選択肢を示すことができ、結果としてその子らしい進路選択ができるのではないでしょうか。
(本記事の執筆者:神田 有希子)
ご案内:キーパーソン21主催
家族で発見! わくわくエンジン「オンラインですきなものビンゴ」
家族で楽しめる対話型ワークショップ「オンラインですきなものビンゴ」を体験いただけます。
ゲームを楽しみながら子の対話を深め、子どもは自分の「わくわくすること」を見つけ、保護者は「子どもの何を応援すればよいのか」が分かるプログラムです。詳細やお申し込みについては、こちらからご確認ください。
https://onlinebingo.hp.peraichi.com/