前回は、これからの時代に必要な資質・能力の1つである「情報編集力」についてお話ししました。今回は、「情報編集力」の育成も含め、学校教育がこれまで通り大切にすべきことと、変化させるべきことについて、私自身の学校長としての経験や具体例も踏まえながらお話しします。

教師は絶対優位な存在ではない

私の基本的な考えは、「これからの日本の学校教育は、もっともっと変わっていくべきであり、変わっていける」です。その信念は、私が義務教育では数少ない民間人校長として公教育に携わった頃から20数年来、変わっていません。人生100年時代と言われるように、平均寿命が延びて社会にかかわる時間が長期化し、その社会は、私たち親世代が想像できない中身と速さで変化しています。最近話題のChatGPTが最たる例で、そうしたAI技術の進化の速度を目のあたりにすると、学校教育の変化の必要性をますます強く感じます。

では、学校教育はどのように変化していくとよいのか、教師と児童・生徒の関係、授業方法の2つの側面から考えてみましょう。

まず、教師と児童・生徒の関係です。これまで、大抵の授業は教室の中で行われ、教師は教室内で唯一無二の知識を持つ圧倒的優位な存在として、子どもたちに知識を伝達してきました。しかし、そうした授業方法は、情報のネットワーク化が進む前の時代のやり方です。今やオンライン上には無数の知識や情報が存在し、教師が教えなくても様々な知を得ることができます。また、子どもが成人後に出ていく社会と、教室の中で行われる授業とのつながりは、十分とは言えない状況です。「今のリアル」と「社会のリアル」の両方が、教室で教師から学ぶ知識とは別の世界に数多く広がっているのが現状なのです。ですから、学校はそうした社会の知を、もっと積極的に活用すべきです。特定分野に詳しい、新しいタイプの「オタク」が各分野で出現しており、彼らは、学び手にとっては格好の「ミニ教師」です。すべての知の教授を学校の教師が担う必要はなく、そうした「ミニ教師」から、生徒も教師も学べばよいと思います。さらに言うと、「ミニ教師」は目の前の生徒の中にも多数存在します。つまり、「教師」=「免許を持つ教諭」ではなく、その時々で、特定の分野に詳しい人物が教師になり、そこで皆が学ぶような教え手と学び手の関係性を、もっと自由に考えてもよいのではないでしょうか。もちろん、教師が不要になるわけではありません。教育という分野のプロが教師なのですから、学校が存在する限り、専門性を発揮する場面は存在し続けます。

情報編集力を高める授業を!
目標は「授業の3割」

次に、授業方法です。

これからは、答えが1つではない問題を解決する力、つまり「情報編集力」の育成が求められていきます(前回参照)。あらかじめ答えが決まっている問題を独力で速く正確に対応する力を「情報処理力」と呼んでいますが、これまでの学校教育は、情報処理力の育成に重きを置き過ぎていました。指導する内容やかける時間の割合で言うと、概ね9対1の割合で、圧倒的に情報処理力の育成に力が割かれていたはずです。その割合を変えていかないといけません。社会に出たら、情報処理力を使う場面は、今後ますますAIが代替していくと考えられ、人間の主な出番は、情報編集力が必要とされる場面になっていくためです。子どもたちが未来を生き抜いていけるよう、少なくとも中学校・高校の授業の3割程度は、情報編集力を高める学びに変えていくべきではないでしょうか。

学校教育の最大の特長は、集団での学びです。情報編集力を高める授業づくりに、そのメリットを生かさない手はありません。いわゆる協働的な学び、アクティブ・ラーニングです。主体的に考えたくなるような課題を設定して、自分の頭だけではなく、周りの人たちと協議・協力しながら課題に取り組む授業を、もっと取り入れるべきです。すべての授業をすぐに変化させることは難しいと思いますが、少なくとも1コマの授業のうち15分くらいは、意見やアイデアを出し合ったり、議論したりする時間に充てたいものです。具体的な処方箋については、2023年6月発刊の『学校がウソくさい 新時代の教育改造ルール』で明らかにしていますので、ぜひ参考にしてみてください。

現在、GIGAスクール構想によって1人1台端末の環境が整備され、多くの学校でICTの活用が進みつつあります。ICTは、アクティブ・ラーニングを推進する上で強力な味方になります。私が校長を務めた奈良県の公立高校では、アナログとデジタルを共存させることで学習の質を高める「SSS(スーパースマートスクール)」を標榜し、その実現に取り組みました。当時は1人1台端末の環境が整備されておらず、生徒すべてに個人のスマホ/携帯端末を持ち込ませる「BYOD」方式で、意見共有をCラーニングで実現する授業支援システムを組み込み、アクティブ・ラーニングを行いました。例えば、普段の授業では、あらかじめ決まっている答えを発言させるために生徒に挙手させて教師が指名するのではなく、できるだけ答えが1つではない問いを生徒に投げかけ、生徒一人ひとりに考えさせました。生徒は授業支援システムを使って、自分の考えを携帯端末に入力して送信し、その内容は無記名の状態で、クラス全体に共有されます。どんなに稚拙な意見でもよいので、恥ずかしがらずに自分の思いや考えを発表させる場を増やすことがねらいでした。発言する機会を「ちょっと」増やすといった程度ではなく、「圧倒的に」増やす点がポイントです。1コマ15分程度は意見の発表や議論の時間にすべきだとお話ししましたが、それは必ずしも対面での挙手や話し合いである必要はありません。対面では意見を言いにくい子どもも、ICTを活用して匿名性を担保すれば、発言しやすくなります。さらに、ICTの利活用が進めば、知識・技能のインプット自体も、教師からの教授ではなく、端末から自由に学ぶケースがあってもよいでしょう。そうすることで、子どもたちが話し合う時間を増やすことができます。子ども一人ひとりが考え、その意見を発表する時間を大幅に増やすことは、情報編集力を高める上でも重要です。

先生方へのメッセージ

学校教育は多くの可能性を秘めています。学校の外に広がる様々なリソースやICTの力を積極的に使い、情報編集力を高める学びが進めば、今後どのようにAI化が進んでも、社会や科学技術の変化をうまく取り込み、使いこなせるような創造性や柔軟性に富んだ人材が輩出されていくことでしょう。私はそうなることを信じていますし、これからもそうなるよう、先生方や保護者の方々を支援するような情報発信を続けていこうと思います。

(本記事の執筆者:神田 有希子)

藤原 和博(ふじはら かずひろ)

教育改革実践家、杉並区立和田中学校元校長

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