この調査の場となった「ゼミつく」とは?
「進研ゼ ミ中学講座」の中高一貫生コースには、「ゼミのみんなで作ろうPJ(略して「ゼミつく」)」という、会員専用のオンラインPBLサイトがあります。そこに集まった会員たちは、日々「ICT活用力が低い人が楽しく力をつけるためのタイピングゲーム制作」「中学生の気持ちを伝えるために合作漫画を作成」など、様々なオンラインPBLプロジェクトを自ら提案。参加希望者を募り、掲示板上のやりとりを通して企画を練り上げ、実行しているのです。
参加している会員たちにとって「ゼミつく」は、ネット上にできた秘密の部室のようなものです。プロジェクト活動に参加している会員も、まだ参加してない会員も、学校や家庭での関係性から解き放たれて、自分の興味や気持ちを素直に表現できる場になるよう、様々なコーナーを用意しています。
この特集では、学年や学校の枠を超えてネット上で協力し合う体験ができる「ゼミつく」の1コーナー「みんなでサーベイ」から、今ドキの中学生の感覚や意識がわかるオンライン調査の結果を共有するとともに、このようなオンラインコミュニティで、中学生たちがどのような学びを得ているのかをご紹介します。
流行りの曲を聴く時は「原曲」を聴く?「歌ってみた」を聴く?
「歌ってみた」とは耳慣れない言葉かもしれません。インターネットの交流サイトや動画共有サイトなどに投稿される、既存曲をカバー歌唱した様子の動画を指す言葉です。
今これを読んでいる方の多くは、テレビやラジオ、街中で聴く有線放送、市販のレコードやCDなどを通じて新しい曲・流行りの曲に触れた世代ではないでしょうか。その場合、耳にしていたのは、ほぼ「原曲」だったに違いありません。
しかし今は、ネットを通じて新しい曲・流行りの曲に触れることが増えてきています。交流・共有サイトによっては「原曲」と「歌ってみた」の区別は厳格ではなく、聞き手もそれらの違いを意識していないことが多々あります。
そのような環境で、今の中学生はどのように聴く曲を選んでいるのでしょう。
今回の問いを立ててくれたのは、ニックネーム「Seina@暇人」さん(中2)。交流・共有サイトで「歌ってみた」を日常的に見聞きしている世代だからこそ、この着眼点から問いを立てることができたのでしょう。
オンライン投票の結果、流行りの曲を聴く時に「原曲」を聴く派は71 %、「歌ってみた」を聴く派は29 %という結果になりました。この「約7:3」の比率は、学年や男女の属性でも大きな違いは見られませんでした。
そこで、「音楽を聴く時に主に何を使っている?」という問いへの答えをかけあわせてみました。
「歌ってみた」派の84%が、音楽を聴く時、主に「動画サービス」を使っているということがわかりました。「原曲」派と比べると圧倒的多数です。 「歌ってみた」の文化が、動画共有サービスという基盤に依存していることがわかりました。
逆に、旧来からある「テレビ」「CD」「DVD」などのメディアを使っている人は、全員が「原曲」派であることがわかりました。これも納得の結果です。
人間とボーカロイド、聞くならどちら?
「ボーカロイド」とは、株式会社ヤマハが開発した音声技術と、それを活用する応用プログラムのことです。2007年、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社が発売した応用プログラム「初音ミク」がヒットし、一般にも広く知られる存在となりました。コンピュータとソフトがあれば誰でも歌声を作り出すことができるようになり、多くのクリエイターが競って作品を作り、動画共有サイトで発表するようになったのです。「ボーカロイド」は既存の楽曲の「歌ってみた」に使われるだけでなく、コンピュータが「原曲」を歌うという状況を作り出し、音楽シーンに大きな影響を与えました。現在、「ボーカロイド」や「初音ミク」に関する内容、あるいはそれらを利用して動画共有サイトで活躍したクリエイターの作品は各社の教科書に掲載されており、教育の世界でも無視できない存在となっています。
今回の調査では、「人間とボーカロイド、聞くならどちら?」という問いも調べました。結果は、「人間」派が59 %、「ボーカロイド」派が41 %でした。
前段で紹介した「原曲? 歌ってみた?」の回答と比較すると、「ボーカロイド」は「歌ってみた」よりもポイントが高いので、より中学生世代に受け入れられている存在であると言えるかもしれません。
その理由としては、ボーカロイドは動画共有サービスの中だけでなく、テレビ、CDやDVD、伝統芸能やゲームなどのメディアにも進出しており、中学生が見聞きしやすい存在になっているからではないかという仮説を立てることができます。
「歌ってみた」を発表してみたい?意外な男女の違いが……。
今回は、「あなたは、「歌ってみた」を発表してみたい?」という問いも入れていました。結果は、「発表してみたい」が46 %、「発表したくない」が48 %(「その他」が6 %)でした。
この結果を男女別に見ると、女性は「してみたい」「したくない」がちょうど半々になりました。それに対して男性は、「してみたい」「したくない」が「1:2」の割合となり、「したくない」が優勢でした。
同時に調査した「あなたは歌うことが好きですか?」という問いでは、91%が「好き」と答え、男女の差はほぼ見られませんでした。
要するに、男性の方が、『歌うのは好きだが、「歌ってみた」はしたくない』という人が多いということです。今回の調査では、女性の方がネットでの「歌ってみた」発信に積極的だということがわかりました。
また、ニックネーム「関数と音楽の٩( ᐛ )وじゃがまる」さん(中2)は、「歌ってみた」をしてみたい人は「ボーカロイド」派が多い、ということを調査結果から読み取り、指摘してくれました。
今後、これらの結果から理由を推論するための追加調査をすることもできそうです。
掲示板での討論から
アンケート回答後に感想戦を繰り広げることができる掲示板では、各自が薦める歌い手(「歌ってみた」を動画共有サイトに投稿している人)の名前を挙げる熱心な投稿が多く見られました。発言者はそれぞれが表現に工夫をして、「推し(強くみんなに薦めたいアーティスト)」の歌い手の良さをみんなに伝えようと努力していました。
その中で、ニックネーム「ウォーデン」さん(中1)は、主観的な「好き」という気持ちの表現だけに留まらず、動画共有サイトでの動画再生数に着目し、具体的な数字を引用することで自分の「推し」が人気の存在であることを説明しました。自分の意見を裏付けるデータ資料を作るのは面倒なことですが、「推し」をみんなに布教したいという熱意が論理的なアピールに結び付いたようです。
「ゼミつく」では、普段の生活から生じる疑問を元にアンケート調査を設計・実行し、得られた結果を分析・議論をするこれら一連の活動を通じて、中学生たちが世の中の多様性を肌感覚で感じたり、多面的に物事を見るきっかけを得られるような体験を提供しています。今回は調査結果を元に、「共有サイト」や「歌ってみた」、そして「ボーカロイド」への受け止め方が同世代でも異なるということをみんなで実感することができました。
<調査概要>
『流行りの曲を聞くなら「原曲」?「歌ってみた」?』
調査の目的:俺は歌い手さんとかが好きだから歌ってみたを多く聞くけれど、みんなはどうなのか知りたい。(Seina@暇人さん)
調査方法:進研ゼミ中学講座中高一貫スタイル内「ゼミつく」でのインターネット調査
調査期間:2023/04/24 00:00 〜 2023/05/03 23:59
回答者数:97人
「ゼミつく」運営 永田衣代