課題が山積みの学校、改革には何が必要か?

日本の学校教育は、PISA(OECD生徒の学習到達度調査)での好成績が示すように、国際的に高く評価されている。一方、学校の小規模化や教員不足などの問題があり、学校運営は厳しい状態が続いている。そこで、2023年12月、「生徒の気づきと学びを最大化するプロジェクト」(事務局:ベネッセ教育総合研究所)の第14回トークライブ「学校をもっと、『自由な場』にするためには」がオンラインで開催された。新著『元文部科学省キャリア官僚が問う! 教育改革を「改革」する』を出版した寺田拓真氏を登壇者に迎えて、これからの学校のあり方を考えた。

■登壇者
広島県総務局付課長、元文部科学省教育改革推進室専門調査官 寺田 拓真

■モデレーター
ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター長 小村 俊平

左/寺田氏 右/小村

日本において、教育改革が必要な理由とは

登壇者の寺田拓真氏は、文部科学省で長く学校教育改革に携った後、広島県教育委員会に籍を移し、「学びの変革」と銘打った教育改革や、広島創生イノベーションスクール、広島県立広島叡智学園中学校・高等学校の創設などを担当。2021年から立命館アジア太平洋大学(APU)の特別研究員を務め、同年8月から約1年半、全米トップの教育大学院であるミシガン大学教育大学院修士課程に留学し、学習科学や教育テクノロジーを学んだ。現在は広島県総務局に勤務する。

寺田氏は、トークライブの冒頭、「『学校』に関わる人の中で、今、一番『自由』なのは誰でしょうか?」と、参加者に問いかけた。そして、「私は、政治家と保護者だと思います。子どもを中心とした教育を展開すべきなのに、現場にいない人たちが自由と力を持ち、学校教育に関与しすぎる状態に危機感を持っています」と述べた。

寺田氏は、日本の教員があまり自由でない理由として、ヒト・カネ・盾・自律性の4つのリソースが欠如していると指摘した(図1)。ヒトは「教員」、カネは「教育に係る予算」、盾は「教員の実践の正当性を証明するもの」だと説明した。

「今、学校では、予算がないから優秀な人材を確保できない、代替教員がいないから研修に参加できない、自律性が育たないから創意工夫を発揮できない、実践の成果が証明できないから予算が増えないといった問題が起きています。それらは4つのリソースの欠如に起因し、結果的に教員が成長する機会が失われ、負のスパイラルに陥っているのです。教育改革を行うには、問題の中心にある『教員の成長機会の欠如』を解決しなければならないと考えています」

図1 4つのリソースの欠如

教育改革に必要な「学校の自由」とは何か

寺田氏の問題提起を受けて、小村教育イノベーションセンター長は、「今回のトークライブのテーマは、寺田さんの新刊の帯にも書かれている内容です。議論を始める前に、まず寺田さんが考える『学校の自由』を教えてください」と尋ねた。

すると寺田氏は、「まず、一定の秩序を保ちつつも、すべての子どもが、ありのままの自分でいられることです。そして、教員は専門性を発揮し、成長を実感できる場所であることが、私の考える学校の自由です」と答えた。

小村教育イノベーションセンター長は、「『すべての子どもがありのままでいられる』という点に共感します。気になるのは、『秩序があった上で』という点です。日本では、校則のない学校は進学実績が高い傾向にあります。日本において自由は秩序の後にあり、秩序の前にはないのではないでしょうか」と話した。

その考えを聞いた寺田氏は、「そうした傾向が強いかもしれません。ただそれは日本に限らないと思います。私が留学したアメリカのミシガン州アナーバーの学校では、学力レベルが高く、髪型や服装は自由で、校則が緩い学校が多いといった印象でした。ただ、ほかの地域に目を向けると、校則が細かい学校もありました」と述べた。

続いて寺田氏は、教員が自由にできることはたくさんあるとし、「先生方は自由な教育を実践するのは難しいと思い込み、自分で自分を縛ってしまっていると感じます。それは、教員の挑戦が許されない風潮があるからではないでしょうか。現状維持とし、波風を立てない方がよいといった考え方が広がり、意欲のある教員のエネルギーを奪ってしまうという構図を変えるべきです。これからの教育がどうあるべきなのか、国や教育委員会、学校など、皆が問い直さなければいけません」と主張した。

小村教育イノベーションセンター長は、「ルールは本来、人を守るものですが、人を縛るものとして捉えがちです。ルールは、自由のための発射台だと考えたいですね」と話した。

寺田氏は、その意見に同意し、「学習指導要領は、教員を守るためにあります。学習指導要領を道標にして授業を行えば、よい教育が実践できるからです。ただ、非認知能力や外国語、プログラミングなど、学校がすべき教育活動が加速度的に増え、すべてに成果を求められているため、教員は疲弊し、挑戦したくでもできない状態にあります。国や教育委員会は、教員が挑戦できるよう、支援すべきだと思います」と主張した。

日本における教員の質保証を考える

次に、小村教育イノベーションセンター長は、全国で教員不足深刻な問題となっていることを話題に上げ、教育の質の担保について、寺田氏に意見を求めた。

寺田氏は、教員採用試験の倍率が低下し続けている状況に危機感を示し、「教員の個の力に頼りすぎていた学校文化を見直すべきではないでしょうか。学校教育を外部リソースも活用しながら行う体制を整え、教育の質を担保するのです」と、外部連携の重要性を強調した。

そして、外部人材の確保について、寺田氏は、そうした場面こそ教育委員会の出番だと指摘した。「教育委員会はプロデューサーとして、学校を支援する役割が求められています。外部人材と学校のリソースを融合し、どのようなチームをつくるかを考えていきましょう」と述べた。

加えて、外部連携では、教える側の大人も子どもから学ぶ姿勢を持つことが大切だと、寺田氏は語った。

「ある学校の探究学習の発表会に参加したところ、保護者や地域の人、教育関係者など、集まった全員から学ぼうという姿勢を感じました。『外部人材は教える側』と思いがちですが、児童・生徒から学ぶことは大いにあります。多様な外部人材が学校に関われば、学校が生涯学習の場として機能するはずです。そうした状態になれば、教員数が減ったとしても、学校は豊かな学びの場になるのではないでしょうか」

持続可能な教育に必要なものとは

トークライブの終盤には、持続可能な教育には何が必要かについて話が及んだ。

寺田氏は、まだはっきりとした答えが出ていないとした上で、「学校は何のための場なのかを考えていくと、冒頭に述べた通り、私は、学校は子どもの価値観や個性が尊重される自由な場であってほしいと思っています。ペーパーテストの点数など、1つの価値観が過度に強調されてしまうと、それぞれの学校や子どものよさが見えてきません」と述べた。

小村教育イノベーションセンター長は、その意見に共感し、「私は、学校は一人ひとりの子どもが社会の中での自分をセルフプロデュースできるようになるための学びの場だと思っています。そうした学びには、仲間や教員とのコミュニケーションが欠かせないでしょう」と語った。

よい学校をつくるための手法の1つとして、学校が「コラボラティブ」であることが重要だと、寺田氏は語った。「私はアメリカの大学院で校長のスキルアップについて研究するため、何人もの校長にインタビューをしました。その時に、多くの校長が『教員の成長には、仲間と失敗談を共有することが必要だ』と話していました。教員は、子どもには『困ったときには、ほかの人に助けてもらいましょう』と言いますが、自分たちは果たしてそうなのでしょうか。教員同士が助け合い、学び合う、そうした文化を築いてきたいものです」と話した。

小村イノベーションセンター長は、「前向きに捉えると、日本の教員は責任感が強く、自分1人で問題を解決しようとしがちです。他者に弱みを見せられない傾向にあるのでしょうか」と、参加者に意見を求めた。

すると、元小学校教員の参加者が、「私は20年間、小学校教員をしていましたが、ほかのクラスの朝の会を見たことがありませんでした。教員はいわば個人事業主で、教員が互いに補い合う機会はほとんどありませんでした。確かに、教員同士が助け合う文化の醸成が急務ですね」と述べた。

その話を受けて、教育改革を行う上で大切なことは「コミュニティーの力」だと、寺田氏は挙げた。「アメリカの大学院で、教授に『教育現場で問題が起こったときはどうすべきか』と尋ねたところ、多くの教授が『コミュニティーの力が必要だ』と答えていました。言うまでもなく、教育改革に1人で取り組んでもうまくいくわけがありません。様々な人が協力することが大切です。今日、多くの参加者の皆さんと一緒に教育について考えていきましたが、皆さんが教育改革を考える最初の一歩になればうれしく思います」と話した。

最後に小村教育イノベーションセンター長は、今回の話のポイントを3つ挙げた。
「1つめは、ルールを土台としていかに創造性を発揮するかということです。2つめは、『コンペティティブ』から『コラボラティブ』への転換です。学校間や教員間で競うのではなく、学校や教員は自覚的に協力し合う必要があると思います。3つめは、学校に関わる人たちが覚悟して、互いを信頼することです。相手を信頼するためには勇気が必要ですが、それによって学校や教員が挑戦することができ、よりよい学校になっていくはずです」

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