「生徒の気づきと学びを最大化するプロジェクト」第172回
特別鼎談 「これからの『学校経営』について考える」開催

それぞれの学校が個性化し、つながり合い、
生徒に多様な選択肢を提供できる社会へ

ベネッセ教育総合研究所では、有志の教員らがオンラインで対話する「生徒の気づきと学びを最大化するプロジェクト」を、2020年4月から週1回のペースで実施している。2024年1月の第172回では、これまでに学校経営に関する課題がたびたび話題に上ったことを受けて、武蔵野大学中学校・高等学校の中村好孝校長、教育ジャーナリストの後藤健夫氏をゲストに招き、「これからの『学校経営』ついて考える」と題して対話会を行った。全国から参加した小学校・中学校・高校の教員や、教育関係者らが考えを深めた。

左上/中村先生 右上/後藤氏 下/小村

少子化が若者の学習意欲にも影響

始めに、ベネッセ教育総合研究所教育イノベーションセンターの小村俊平センター長が、これまで対話してきた話題をふまえて、高校領域を中心に学校経営における3つの課題を挙げた。

・公立学校では、特に少子化が進む地域において学校統廃合が大きな課題である。特に地域から高校がなくなると、高校進学時から生徒が地元を離れ、戻ってこなくなるとの危機感が強い。
・私立学校では、少子化による生徒募集難、ICTや校舎の建て替え等の大規模投資、学校経営者の世代交代などが重なり、学校経営を抜本的に考え直す時期になっている。
・教員不足や教員の働き方改革と、教育内容や教育方法の変化に同時に対応する必要がある。よい教育を実現するための学校の組織能力づくりが、学校経営の肝になっている。

その上で、「お二人は、学校経営にどのような課題を感じていますか」と問題提起を呼びかけた。

後藤氏は、地方の高校や大学を見て回っている経験を踏まえて、「東京と地方の状況は異なり、地域によって課題は変わりますが、それでも共通して言えるのは、『子どもが少ない』ことによる影響の大きさです」と、改めて少子化の問題を指摘した。自身が関わっている大学のある地域では、少子化により大学全入の傾向が進んだ結果、「勉強をしなくてよい」と考える保護者が増え、子どもも学習意欲を失っている状況が顕著だという。「そうした子どもが大学に入学する中で、大学入試や大学経営をどうすべきかを対話しています」と、地方の大学の現状について語った。

教育業界にも求められる再編

中村校長が勤める武蔵野大学中学校・高等学校は、浄土真宗系の龍谷総合学園グループに属している。同グループには全国24学園73校(2023年7月現在)が加盟しているが、経営は各学園がそれぞれ行っている。中村校長は今年度すべての学園を訪問するのに、全国のいろいろな土地や状況を見てきたそうだ。その中で、今後は個々の学校がそれぞれ単独で経営する時代から変わっていく必要があるのではと痛感したという。

「銀行やゼネコンなど、あらゆる業界で企業の合併等による再編が進んでいます。教育業界だけが変わらずにいますが、もはや限界でしょう。これまでの経営モデルが成り立たないのは明らかです。ところが、打開策を見つけられずに、何とか来年を乗り切ればよいと短視眼的になっています。もちろん、目の前の生徒の教育には全力で取り組みますが、一方で10年、20年先を見据えて学校経営を考える必要があります」と述べた。

しかし、現状を一挙に変えることは難しい。

中村校長は、「組織を変えるという発想ではなく、意識が高く、意欲的で元気な教員が活躍できる環境をつくり、教員一人ひとりの力をブラッシュアップしていくことが、学校を変える道につながると考えています。そうした教員をどんどん増やし、発信力を高め、周囲を巻き込むことで、新しいものが生み出されていくはずです」と、改革の方向性を示した。

学校の役割を「アンバンドル」「バンドル」で捉える

2人の問題提起を受け、小村センター長は、まず生徒数が間違いなく減少していく未来を想定して学校経営を考える必要があると指摘した。さらに、少子化などにより社会状況が大きく変わる中で、「学校の当たり前」が意図せず崩れている状況についても触れた。「ある学校では、給食調理員に欠員が出てしまって給食が週4日になったそうです。人手不足は教員だけではありません。飲食も運輸も、介護も看護も、ありとあらゆる業界が人手不足に直面しています。思わぬところで私たちが当たり前だと思っていることが変わっていくことを痛感しました」と語った。

そして、学校を取り巻く状況に対する1つのソリューションとして、小村センター長は、IT業界などでよく使われる「アンバンドル」「バンドル」という考え方を示した。「アンバンドル」は切り離してバラバラにすること、「バンドル」はそれを再び結合することを意味する。「学校が果たすべき役割は、どんどん増え続けてきました。学校が現在担っている役割を分解して整理し、結合し直すことが必要ではないでしょうか。そうすると学校単位では解決しにくかった問題を解決しやすくなるかもしれません」と述べた。

学校の役割を削ぎ落として「小さな学校」へ

「アンバンドル」「バンドル」をどのように進めていけばよいのか。

後藤氏は、「教員が担っている仕事を、教員免許を持つ人がすべき仕事、教員免許がなくてもできる仕事、さらに学校外にいてもできる仕事といったように分解し、それぞれ適した人に仕事を振り分けていく方法が考えられます。例えば、担任の先生が、1人で学習指導も進路指導も生活指導も行っている『当たり前』を捉え直すのです」と見解を示した。

加えて、アンバンドルにより、学校が担う役割を削ぎ落とす必要性も述べた。「学校は様々な役割を担い『大きな学校』になっています。その役割を見直して、『小さな学校』をめざすべきでしょう。削ぎ落とした役割は、学校間が連携して補い合ったり、外部の機関が担ったりすればよいのではないでしょうか」と語った。

中村校長もその意見に賛同し、教員の役割の多さについて、問題意識を語った。「教員志望者が減少し続けているのは、教員の過重な労働環境がマスコミなどに取り上げられた影響がありますが、それ以前に、教員の思いと現実があまりにかけ離れ、教員が子どもに純粋に向き合える時間が減っていることが大きいと思います。今も昔も教員をめざす人は、子どもが好きで、『子どもの成長にかかわっていきたい』という熱い思いを持っていますが、現実には、それとは関係のない業務が多過ぎるのです」と述べた。

その上で、後藤氏が指摘したとおり、教員の役割を分解して、学校外の人・機関も含めて分担し、教員が子どもと向き合える時間を確保できる環境整備が必要だと強調した。「国が学校の役割を明確に定めて、『ここまでは学校がやる。ここから先はやらない』などと線引きをすれば、『やっぱり教員になりたい』と考える人はまだまだいると思います」と、現場の実感を伝えた。

「ジョブ型」の考え方に基づいて、教員の役割を明確に

教員の役割の話を受けて、話題は教員の雇用形態に移った。

ここ数年、日本企業では職務内容に応じて必要な能力や経験がある人材を雇用する「ジョブ型」の人事制度への転換を検討する企業が増えている。これまでは、新卒一括採用の社員を長期間にわたって雇用し、育成する「メンバーシップ型」や「コミュニティ型」と呼ばれる人事制度が主流だった。学校は終身雇用であり「メンバーシップ型」や「コミュニティ型」の雇用形態と言える。

そこで、小村センター長は、教員の役割を明確にし、ジョブ型雇用にした場合に何が起こるかとの問題提起をした。「マネジメントが上手くいっている学校では、保護者や生徒に対して『何でもやります』ではなくて、『これをやります』『これはやりません』と学校説明会などで発信していることが多いようです。教員の仕事を増やすのではなく、意思を持って取捨選択することが学校の特色化にもつながっているのではないでしょうか。」と2人に尋ねた。

すると、中村校長は、「1年間を通して、1人の教員が担任を務める、1人の教科担当が教えるといった『当たり前』を手放すことはあり得るかもしれません。例えば、指導を担当するのはその日に出勤している教員とするのです。しかし、保護者への説明や生徒募集などを考えると、学校単独では実施できず、公立学校が一斉にジョブ型に移行するなどしないと、実現は難しいでしょう」という見解を示した。

最終的に、学校がすべきことは何か?

すると、教員養成大学の立ち上げの初期段階に携わった経験がある後藤氏が、学校が提供する教育を「合理化」し、「割り切る」必要があると指摘した。「例えば、『教員がすべて対面で生徒に教える』といった当たり前をやめて、『学習効果に問題がないものはオンラインで教える』というように合理的に捉えるのです。実際、知識の定着は、オンライン学習でも十分成果があることがわかっています。そのようにして当たり前を見直すことで、教員の役割は変わるかもしれません」と語った。

後藤氏の提案を深めていくと、「学校の役割とは何か」という根本的な問いにつながりそうだ。「これまで学校が当たり前として行ってきたことを見直していくと、最終的に学校が力を入れるべきことは何だと考えますか」と、小村センター長は問いかけた。

それに対する後藤氏の考えは、「子ども一人ひとりの状況を把握して、学びを支援する」というものだ。「その方法として、教員がリアルで対応する必要があるのか、場合によってはオンラインでも可能なのかといったことを実践研究する必要があります」と述べた。

学校だからこそ得られる「所属感」が、良質な学びを支える

中村校長は、学校の根本的な役割として、「所属感」を挙げた。「信頼関係を構築した仲間と一緒に過ごすことによる所属感は、学校だからこそ感じられるものでしょう。ただ、子どもに所属感を提供しようとするあまり、教員が疲弊している一面があると感じています」と述べた。

小村センター長は、「多くの生徒にとって、自分1人で学びを進めることは簡単ではありません。大人だって、ダイエットや禁酒を一人で行うことは難しく、コーチの協力や仲間との励ましあいがあるから続けることができます。学校が生徒の学びを支えていくためには、良質な学びのコミュニティであることが求められるのでしょう。学校は教員と生徒という関係に加えて、生徒と生徒、さらには生徒と学校外の人たちというような様々な人のつながりで学びを促進するコミュニティと言えるのではないでしょうか」と、学校の役割を語った。

また、学びを充実させるためには、生徒一人ひとりの意欲や姿勢も欠かせない。小村センター長は、学びの意欲が高まらない生徒に対して、学校は何ができるのか、意見を求めた。

後藤氏は、「探究」の大切さを語った。探究というと、「知的好奇心」を基に高度なテーマを追究する学びをイメージしやすいが、単なる「好奇心」から始まる「探究」こそ必要だというのが後藤氏の考えだ。「単純に自分の好きなことを追いかけていくと、それがやりがいや生きがいにつながっていくものです。やりがいを見つけられず、『何もしなくてよい』となってしまうと、次第に生きていくのがつらくなってしまいます」と述べた。

好奇心を追いかけるうちに、「オンラインゲームにはまった」など、一般的には望ましくない状況になる場合も考えられる。それをどう捉えるかを聞かれると、後藤氏は、「そこから学ぶべきことにつなげるのが、教員の役割ではないでしょうか」と指摘し、様々な状況を学びの楽しさに結びつける大切さを語った。「好きなことを学びに結びつけるのは、先生方が最も得意とされることです。自分の担当教科をとても好きで、その面白さを知っていますから。そういう面白さに子どもを引き込んでいくことが、これからの教員の大切な役割だと思います」と話した。

多くのよい体験を提供し、子どもを学びに導く

一方、「よい体験の提供」を通じて、意欲の低い子どもにスイッチを入れるというのが、中村校長の考えだ。「『この体験がよいはず』といった大人の思惑どおりに進まないことが大半ですから、一律でも強制でもない体験をなるべく多く提供できるとよいと思います。子どもが体験の中で自ら気づき、見つけることを期待して、環境整備に徹することが大事でしょう」と述べた。

学校で学ぶことで、子どもは自分1人ではできない体験ができる。しかし、様々な活動を提示しても、動き出さない子どももいる。そうした場合の対応について、中村校長は、「『やらなければならない』という考え方を、教員が手放すことが大事ではないか」という考え方を示した。「語弊がある言い方かもしれませんが、子どもが提示したことに取り組まなかったとしても、それは教員のせいではないと考えます。学びの主体は子どもにあり、その子どもが動かないときもあるのです」と語った。

「やりたくないことを頑張るのが美徳であるという考え方を脱却していく必要があるのかもしれないですね」と、小村センター長は述べた。

後藤氏もそれに共感を示し、「大事なのは、提示したものに全部取り組ませるのではなく、何に取り組むかを子ども自身が選択することです。選択権を与えず、一方的に取り組むべき案件を与え続けると、子どもは自分で何に取り組むかを考えずに、口を開けて待ってしまうので、その点は注意が必要でしょう」という問題意識も示した。

学校は「自前主義」を手放そう

東京と地方の関係性から生じる問題も、学校経営を考える上で避けては通れない。その点について、後藤氏は、大学の存在が東京一極集中を加速させているのではないかと指摘した。「一昔前は、地方から東京の大学に入学しても、大学卒業後に地元に帰って就職していましたが、今はほとんどの人が東京にとどまります。もちろんその選択は個人の自由ですから、『東京に来るな』とも『地元に帰れ』とも言えず、この問題をどうすべきか考えています」と語った。

中村校長は、「東京一極集中は、地方の私立学校にとっては死活問題です。教育業界が再編しない限り、小さな学校法人の経営は立ち行かなくなります」という厳しい状況を説明した。それに対して後藤氏は、「だからこそ、学校は『自前主義』を手放さなければ成り立たなくなります」と考えを示した。

しかし、競争の原理にどこまで任せるかは、深く考える必要がありそうだ。小村センター長は、「生徒数が減れば学校数も減らざるを得ない側面はありますが、学校の存続を競争原理に委ねることが適切かどうかは深く考える必要があります。人気のない学校が閉校し、生徒の興味関心、ありたい学び方にあわせた多様な学校の選択肢が失われると、その不利益を被るのは子どもです。すべての学校を生き残らせるという意味ではなく、学校単位ではなく、学校ネットワークとして教育の質を維持・発展していくような新しいモデルが必要かもしれません。学校の多様性を意識的にデザインしていく必要があるでしょう。」と1つの方向性を提示した。

学校が個性化し、連携して、多様な選択肢を提供していく

対話の最後に、中村校長と後藤氏は次のように語った。

中村校長「今日3人で意見を出し合い、大局的な視点で考えることができました。ただ、『日本や世界を変えたい』と大きな話をしても、解説者で終わってしまっては意味がありません。目の前にある組織をどう変えるかに真剣に取り組み、これからも新たなモデルを発信できればと思っています」

後藤氏「今日話題となった地方の問題とともに、私個人として、社会科学系の学部をどう理系の学部に転換していくか、また保護者が自分の経験のみを基に子どもを教育していく弊害などに関心を持って活動しています。それらの解決への糸口をつかみたいと思っているので、今後も一緒に対話させてください」

最後に、小村センター長は対話を通して見えてきた2つの共通課題を示した。

1つは、生徒に選択肢を用意することの大切さだ。「自分の人生を築くのは、自分にしかできません。社会の先行きが見えず、何が正解になるかがわからないからこそ、これからの生徒たちにとっては与えられた課題をこなすだけではなく、自ら選択し、意思決定する力を磨いていくことがますます大切になります。これからの学校には、それぞれが教育に特色を持ち、生徒らしさを見出し、磨けるような選択肢を設けることが期待されているのでしょう。生徒が減り、学校経営がますます厳しくなっていくからこそ、各学校が連携し、様々な選択肢を提供することが重要ではないでしょうか。」とまとめた。

もう1つは、子ども一人ひとりの学習意欲をどう高めていくかだ。「学校は、生徒の成長を支える学びのコミュニティであり、生徒がいろいろなことに関心を持ち、試行錯誤をする場です。生徒が興味関心を持つときには、周りにいる友達や先輩はもちろん、先生をはじめとする大人の影響を受けることも多いです。生徒の学習意欲が下がったと問題にするだけではなく、大人自身が何かに没頭し、挑戦する姿を見せ続けることが大切だと思いました。これからの学校が、挑戦する大人と若者たちが交流する場になれば素敵だと思います」と、小村センター長は対話を締めくくった。

生徒の気づきと学びを最大化するPJ

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