宮 和樹

ベネッセ教育総合研究所 研究員

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最近目にする機会が増えている「STEAM教育」。各教科の知識及び技能を身につけるだけでなく、現実社会の課題解決や新たな価値を創造する能力を高める手法としても注目されている。

一方、近年日本では地震や豪雨など、大規模な災害が毎年のように起こっており、防災への注目度も増しているが、学校現場での防災教育は、ともすれば避難訓練などの単発的な行事に留まりがちである。

そこで我々は、防災学習にSTEAMの要素を取り入れることで、生徒が防災・減災を自分事として捉え、防災やSTEAM教育に対する認識を高められることを目的とした教材を開発し、都内の2つの学校で授業実践を行った。

「防災×テクノロジー」をテーマにした授業実践

教材は、1コマ50分で全8コマを基本とした構成で、各コマには、教員用指導案、動画教材、ワークシート、補助資料が含まれている。各コマのタイトルとねらいは次の図の通り。

全8コマのうち、1~3コマ目では、「防災」を自分事として考えられるようになることをねらっている。防災にテクノロジーを活用している実例を動画で学んだり、身近な地域の防災課題を探してその解決策を考える実習をしたりする。

続く4~6コマ目では、「テクノロジー」に焦点を当て、防災ロボットの事例を知り、自らも防災課題をテクノロジーで解決するためのアイデアを深める実習を行う。

最後の7・8コマ目では、それまでに深めたアイデアをまとめ、発表する。

全ての活動を3名程度の班単位で行い、班の中で議論したり、班同士でアイデアを交換し合ったりする時間をふんだんに取っている。

 

この教材を使って、都内の2つの学校で授業実践を行った。

1つめの実践では、都内私立高校の3年生の希望者24名を対象に、総合的な学習の時間として,2021年4月から12月にかけて授業を実施した。1学期には4足歩行ロボットの組み立て・プログラミングの実習を行い、2学期に本教材を使用した授業を展開した。

2つめの実践では、都内の私立中高一貫校の中1~高2の希望者11名を対象に、課外授業として2021年10月に授業を実施した。こちらの実践でも、まず4足歩行ロボットの組み立て・プログラミングの実習を行ったのち、本教材を使用した授業を展開した。

これらの実践を終えた生徒からは、「災害という身近でありながら深くは考えてこなかったことについて、ゆっくり考える機会になった。今後はプログラミングなども通して、どのようにロボットが災害で役立つかを考えていきたい」「お互い見つけたり何気ない日常生活の中で思い出したことや資料や情報などを組み合わせて新しいアイデアを思いついたことに面白味を感じました」といった声が聞かれた。防災をテーマに、教科横断的に学びを深めることができたようだ。

授業実践の評価

授業の実施前と実施後には、この教材の目的である「防災に対する認識を高める」「STEAM教育に対する認識を高める」ことが達成できたかどうか評価するために、次の質問紙調査を行った。質問項目は次の図の通り。

まず、問1~4の質問の回答が、事前・事後でどのように変化したかを統計的に分析した。結果は次の図の通り。実践①では問2と3、実践②では問2と4において,事後の方が事前よりも有意に高い結果となった。

両方の実践で問2『「防災」とは何か、説明ができますか?』が有意に上昇したことから、この教材の目的の1つである「防災に対する認識を高める」ことに,影響を与えることができたと言えそうである。

また、問5『「STEAM教育」における学びとは、どんな学びだと思いますか?』の自由記述の結果を、各実践の事前・事後で対応分析した結果が次の図である。左右それぞれの図の、右上には事前調査で、左下には事後調査で特徴的に抽出された単語が配置されている。また,吹き出しの中には実際の記述内容を抜粋している。この結果から、授業実践の前後で,「防災」について「起きてしまった災害から身を守ること」という認識から、「災害が起きる前に対策を講じること」という認識に変化した生徒が一定数いると思われる。このことからも、この授業を通じて,生徒の防災に対する認識を一段階深めることができたと言えそうである。

今回は、STEAMライブラリーにて公開している教材の実践とその評価の事例を紹介した。教材は以下のサイトで無償公開中なので、興味のある方はご覧いただければ幸いである。

STEAMライブラリー「テクノロジーを通じた災害の課題解決」