生徒と教員が「協働」するサイクルで
想定以上の学びが生まれる

2021年8月25日、「『生徒の気づきと学び』を最大化するプロジェクト」(事務局:ベネッセ教育総合研究所)の主催により、「『学びのサイクル』を考える」と題したトークライブがオンラインで開催された。スマートフォンの普及やGIGAスクール構想の進展など、生徒の学びを取り巻く環境は大きく変化している。そうした中で、学校に求められるこれからの「学びのサイクル」について意見を交わした。

■登壇者
北海道旭川東高校 主幹教諭  松井 恵一
福島県・学校法人石川高校 教育改革推進リーダー 岩瀬 俊介
奈良県・奈良女子大学附属中等教育学校 主幹教諭 二田 貴広

■モデレーター
ベネッセ教育総合研究所 主席研究員 小村 俊平

左上/小村 右上/二田先生
左下/松井先生 右下/岩瀬先生

GIGAスクール時代の学びのあり方を捉え直す

ベネッセ教育総合研究所では、毎週、中学校・高校の有志の教員によるオンライン対話「『生徒の気づきと学び』を最大化するプロジェクト」を実施している。同プロジェクトで、過去に多くの意見が交わされた「学びのサイクル」のあり方について、さらに議論を深めるトークライブが、2021年8月25日、オンラインで開催された。

まず、ベネッセ教育総合研究所の小村俊平主席研究員から、「予習→授業→復習」「学習計画を立て、取り組み、振り返る」といった様々な学び方が示され、「今回は、教員・生徒一人ひとりが端末を使い、ネット接続が当たり前になった時代の学びのサイクルについて意見交換をしましょう」とテーマが示された。

すると、北海道旭川東高校の松井恵一先生が、「答えが1つとは限らない時代に、生徒が自身で試行錯誤して前進できるように、『教員が教えて、生徒が教わる』という関係からの転換が必要ではないでしょうか」と視点を提示。「授業を通じて、どれだけ知識が増えたというかより、どういった問いや疑問を持てたのかを重視して授業改善を進めています」と問題意識を語った。

奈良女子大学附属中等教育学校の二田貴広先生は、その考えに賛同し、「最初に、生徒に共通理解させたい内容を効率的に教えてから、思考や探究を深めるような学びを大切にしています」と述べた。それらの発言を受けて、小村主席研究員は、「教えるのは、目的ではなく手段といえます。教えることに目が行きがちですが、教える以外にも目的を達成する方法はあるかもしれません」といった考えを示した。

スマートフォンやパソコンなどによって学び方が多様化する中、学校ならではの学びの意義についても意見が出された。学校法人石川高校の岩瀬俊介先生は、かつて予備校で指導した経験と対比させながら、「予備校では、短期間に結果を出す指導が求められますが、学校では、生徒がじっくり考えて、気づきを得ながら本質に迫ることができる良さを感じます」と述べた。

生徒個人だけでなく、生徒集団としての学びのサイクルも重要ではないか

そうした学びをつくるためのサイクルのあり方に、議論は移っていった。小村主席研究員は、学びのサイクルを語る際に「生徒側のサイクル」が重視されるが、「教員側のサイクル」との相乗効果を意識することが重要ではないかと指摘。そして

「生徒側のサイクルに呼応して、教員が指導の手応えや面白さを感じるのは、どんな時ですか」

と問いかけた。

すると、松井先生は、「最初に基本を教え、次に問いを投げかけて、生徒が活発に議論し始めるような授業の組み立てがうまくいった時に、自身の教員としての成長を感じます」と語った。

二田先生は、「私が意図した以上の姿を生徒が示してくれた時です。それは、生徒自身が学びのサイクルを回せる授業をできた時に見られます」と述べ、県外の高校2校と協働で行った国語の授業を紹介した。それは、3校それぞれで「枕草子は文学か」を題材に話し合った後、他校の生徒と、SNSに意見を書き込み、議論するという授業だ。生徒は、二田先生の予想以上に、真剣に考え、試行錯誤しながら自分の意見を書き込んでいた。授業後、生徒は「何度も書き直して、顔を知らない相手に自分の論理が伝わるかを検討した」「同じクラスの相手なら気軽に質問できるが、遠く離れた相手にはそれができない。正確に伝わるかプレッシャーを感じた」と活動を振り返った。二田先生は、「今後も、生徒自身が学びを深められる取り組みを行っていきます」と意欲を語った。

二田先生の授業紹介を受けて、小村主席研究員は、「学びのサイクルでは、生徒個人のみに着目し、学校ならではの集団の学びの視点を忘れがちです。二田先生の実践は、まさに集団で協働するからこそ生まれた学びのサイクルといえます」と述べた。

視聴者からもチャットを通じて意見が寄せられた。参加していたある高校教員は、「二田先生の取り組みをお聞きして、同世代の間でもコミュニケーションが難しいのならば、世代が異なると言葉が通じず、例えば、教員の言葉は生徒に何も伝わっていないのではないかと感じました。それを踏まえると、地域や国を超えた学びのサイクルを考える必要性を感じました」と語った。

そうした意見を受け、小村主席研究員は、「教員の言葉を理解するよう生徒に努力を求めるのではなく、教員と生徒とのフラットな対話から生まれたものを、教員が楽しむ姿勢が大切ではないでしょうか。そうした対話ができるように、意図的に非日常な場をつくり、生徒の内面を揺さぶる工夫が重要だと考えます」と述べた。

岩瀬先生も、「オンラインツールが当たり前に活用できる環境になり、学校を超えた学びが容易になりました。二田先生の授業では、同年代でも、環境が異なる生徒間でのコミュニケーションが難しいといった状況が浮かび上がりました。他校生との交友は、大きな学びの機会になると感じました」と語った。

デジタル環境を活用したこれからの学びのサイクルで目指すもの

続いて、一人ひとりがデジタル端末を持ち、インターネットを使いこなす環境において、学びのサイクルはどのように変わるのか、意見が交わされた。小村主席研究員は、「データの蓄積、情報の検索、アルゴリズムによるマッチング、遠隔での協働、作業の自動化など、デジタルだからこそできることがあり、今までにない要素が教室に入ってきます。今後、挑戦したい学びがあればお聞かせください」と問いかけた。

岩瀬先生は、「生徒は、多様なツールを使い、自分が望む学びをつくり出せる環境になりました。教員が一方的に学びを押しつけてしまうと、生徒の学びに向かう気持ちが削がれてしまいます。対話的な学びを中心にしつつ、生徒が必要に応じて学び方を選べる授業を目指しています」と、生徒の主体性を尊重する方針を示した。

松井先生は、教員が指導観を転換する必要性を改めて指摘。「インターネット上の膨大な情報量に、教員は太刀打ちできません。よい意味で開き直り、時には教壇から下りて、生徒と一緒に考えて学びをつくることが、GIGAスクール時代に必要な学びのサイクルではないでしょうか」と述べた。

二田先生は、デジタル環境を活用した授業の構想を紹介。「生徒全員が、同じテーマでインターネットで調べてまとめ、それらを読み比べてみると、視点の違いなどが表れて面白い学びになりそうです。また、『量子コンピュータと日本の古典』など、テクノロジーの視点から正反対にある要素を結びつけて考えを深めると、創造的な発想が生まれるかもしれません」と語った。

今回のトークライブでは、学びのサイクルを語る中で、学びの本質をどう捉えるかといった視点の意見が多く交わされた。小村主席研究員は、「学びのサイクルの先に何を求めているかというと、学ぶことの意味だと思います。ですから、学びをどのように定義するかが大事です。今回の議論では、生徒や教員の想定以上のものが生み出される状態を目指すのが学びだという考えが聞かれました。そうした学びを生徒と教員が協働してつくり上げていく学びのサイクルができれば、両者にとって学びはますます魅力的なものになるのではないでしょうか」と、最後に述べた。

■視聴者からの意見・感想

◎レールを敷くのではなく、レールを敷く土壌を確保することが、学校に限らず、教育では重要ではないでしょうか。

◎分かっていることを教えられても面白くありません。「分からない」を共有できたら、生徒はわくわくするのでは?

◎「学習サイクル」には、教員が設計した「学習プログラム」としての概念と、学習者による他者との相互作用を通じた心的変容としての「学習サイクル」があると思います。それらを意識的に使い分けられるようになるとよいと思いました。

◎学校教育では、生涯、自律的に学び続ける力をつけることが最も重要であり、授業で「分かった!」という感覚をつかめればよいのではないでしょうか。

生徒の気づきと学びを最大化するPJ

詳しいプロフィールはこちら