生徒が“自分なりの評価規準”を持てるよう
生徒・教員双方に納得感ある評価を目指す

2021年10月27日、「『生徒の気づきと学び』を最大化するプロジェクト」(事務局:ベネッセ教育総合研究所)の主催により、「これからの『評価』を考える」をテーマにしたトークライブがオンラインで開催された。「誰のための、何のための評価か」という原点に立ち戻り、生徒と教員がともに成長していく評価のあり方について議論が交わされた。

■登壇者
青森県立青森高校 教務主任  笠井 敦司
静岡県・静岡雙葉中学校・高校教諭 木村 剛
福井県教育庁高校教育課指導主事(前福井県立藤島高校教諭) 山谷 茂晴

■モデレーター
ベネッセ教育総合研究所 主席研究員 小村 俊平

左上/笠井先生 右上/木村先生
左下/山谷先生 右下/小村

公正性に努めることが、評定の信頼性や納得感につながる

ベネッセ教育総合研究所では、中学校・高校の有志の教員によるオンライン対話「『生徒の気づきと学び』を最大化するプロジェクト」を毎週実施し、その中で議論が白熱したテーマを選び、プロジェクトメンバーが語り合うトークライブを毎月開催している。第5回のテーマは、「これからの『評価』を考える」だった。

モデレーターのベネッセ教育総合研究所の小村俊平主席研究員は初めに、「よい評価とはどのような評価でしょうか」と登壇者に問いかけた。

すると、静岡雙葉中学校・高校の木村剛先生は、「教員にとっては、生徒が学習内容をどこまで理解できているかが分かる評価、生徒にとっては、自分に何が足りないかを自覚できる評価が理想です」と、教員と生徒それぞれの視点から述べた。

次に、福井県教育庁高校教育課(前福井県立藤島高校教諭)の山谷茂晴指導主事は、「教員が意図していないことも評価される、すそ野の広い評価です」と、生徒の成長を限定しない評価が大切だという視点を示した。

また、青森県立青森高校の笠井敦司先生は、「指導と評価の一体化には、教科の目標・内容・方法・評価の4項目が1本の串に刺さっている必要があります。よい評価とは、評価軸を見れば、おのずと授業の目標や内容、方法が分かる評価ではないでしょうか」と、指導との関連性を踏まえて語った。

3者の発言を受け、小村主席研究員は、「評価は、評価をする側の観点からよく議論されますが、3人の先生方が話したように、評価される側の観点も大切です。生徒と教員がよりよく成長できる評価はどうあるべきかを議論していきましょう」と述べた。

 

次に、評定に関する議論に移った。山谷指導主事は、「パフォーマンス評価は、教員ごとに評価に違いが出てしまうので、評定にどう反映させるか、難しさを感じています」と課題意識を示した。

それを受けて、小村主席研究員は、「評定において最も大切にするのは、正確性や公平性でしょうか」と、登壇者に意見を求めた。

木村先生は、「前任校では、公平性を担保するために、必要項目を入力すると自動的に評定が算出されるシステムを利用していました。この方法では、生徒一人ひとりの評定の理由は誰が見ても明らかになります」と説明。

すると、山谷指導主事は、「絶対評価によって『平等性』は担保されますが、何をもって絶対評価とするかは難しいと感じています。校内では絶対評価として評価しても、他校と比較すると絶対評価と言えない場合もあるなど、議論の余地があります」と課題意識を語った。

一方、笠井先生は公正性を重視する視点を示し、「公平性と平等性はともに大切ですが、両者は天秤の両極であり、バランスを取るのが難しい。その努力を続ける『公正性』が重要で、目標に照らしてテストを作成し、『ここができていないから、この力が付いていない』などと評価のストーリーを語ることで、生徒は納得感を高めるのではないでしょうか」と述べた。

木村先生はこの発言に深くうなずき、「多くの学校では、『あなたは何点だから、この評価です』といった説明しかせず、生徒もそれに納得がちです。しかし、笠井先生が指摘されたように、学校として身につけさせたい資質・能力に沿って評価し、それを生徒に説明することで、教科の学びとしての深みが出てくると感じました」と話した。

生徒が自己肯定感を高めるきっかけとなる評価を

後半は、「評価は、誰のため、何のために行うのか」について意見を述べ合った。

笠井先生は、1浪して東京大学に合格した卒業生のエピソードを紹介。苦手から逃げていたことが不合格の原因だったと気づき、自分の弱点と徹底的に向き合ったところ、東京大学に合格したという。「等身大の自分を見つめたことで、本物の自己肯定感を持てたのでしょう。評価の目的は突き止めると、自己肯定感を高めることではないでしょうか」と語った。

山谷指導主事はその話に共感するとともに、トークライブの冒頭に語った「すそ野の広い評価」について説明。「育成を目指す資質・能力など、指導の目標を設定することは重要です。しかし、目標だけを評価対象とするのは違和感があります。生徒にとって、それ以外の成長の方が重要な場合があるかもしれません」と述べた。

小村主席研究員は、「確かに、生徒は授業の目標以外にも、様々なことを感じ、考え、学びます。これさえ学べばよいと狭めるのではなく、学びの広がりや可能性を示すことは教員の大切な役割でしょう。それが、すそ野の広い評価と言えるかもしれません」と語った。

教員と生徒が協働で評価の枠組みをつくる

そうした議論の流れから、生徒の成長を支えるためには、評価を一律にせず、生徒のパフォーマンスによって可変させることの重要性について意見が交わされた。

笠井先生は、「ルーブリック評価では、生徒に必ず自己評価の理由を記述してもらっています。発言が苦手な生徒が深く考えていることが分かるなど、教員の想定外の発見がいくつもあります」と語った。

山谷指導主事は、「生徒に、自分が何をできたら最も高い評価とするかなど、ルーブリックの具体的な文言を考えてもらうのはどうでしょうか」と、生徒と教員が一緒にルーブリックを作成することを提案。

笠井先生は、それに賛成し、「授業で教員と生徒が共通で用いる言葉を探し出し、それをルーブリックに用いれば、生徒は評価に納得感を得られるのではないでしょうか。振り返ると、生徒が自分の成長をイメージできる言葉を探しながら授業をしています」と話した。

議論に対して、視聴者からもチャットで意見が寄せられた。中でも高校生の視聴者からは、「すべての生徒に共通の評価規準を用いることに疑問があります。グループをリードするのが得意な生徒もいれば、裏方でまとめるのが好きな生徒もいるからです。同じものさしで評価されると、生徒は多様性や個性を出しにくくなります。生徒それぞれの得意なところを評価される仕組みがあるとよいと思います」と、考えが述べられた。

最後に、登壇者が議論を振り返った。山谷指導主事は、「どのような軸で生徒を見取るかを考え続けることが評価につながると思いますが、説明責任がある評定には客観的なルールが必要です。評価の中からいかに評定を作るかを考えていきたいです」と、評価と評定のあり方を整理して述べた。

木村先生は、「授業の振り返りやフィードバックを通じた気づきを伝えることが、生徒を前向きにする評価になると思います。授業者はそうした評価を心がけるとともに、学校側は評価する側・される側がともに納得できる評定のしくみを整える必要があるでしょう」と、評価の価値について語った。

また、笠井先生は、「評価と評定は、理想と現実の妥協点をどこに置くかに尽きると思います。そのプロセスを言語化し、客観的に説明できるかが大事であり、生徒から信頼を得るために、その実現に努めることが重要です」と指摘した。

最後に小村主席研究員は、「私たちは正しい評価のあり方を探しがちですが、生徒の中にどのような評価の枠組みが残るかが大切なのかもしれません。生徒は、大学生や社会人になっても、心の中にある評価の枠組みを通して社会を見つめ、関わります。その枠組みをどう理解し、向き合うか。幸せになり、社会とよりよく関わるためにその枠組みとどう付き合い、作り上げていくか。評価というテーマには一人ひとりと社会がよりよく関わるためのヒントがあるのではないでしょうか」と述べ、ライブは閉会した。

■視聴者からの意見・感想

◎学校で行われている評定が、一般的な評価と捉えて慣れてしまうと、社会人としては成り立たなくなるのではないかという危機感を持ちました。

◎生徒が自身の思いをポートフォリオに書き貯め、それらを定期的に振り返って自身をどう見るかを考える。それを教員が受け止めて、評価につなげる取り組みがもっとあってもよいと思いました。

◎自己評価のための個人のルーブリックは、生徒一人ひとりに身につけたい力が異なっていることをもっと意識したいです。

◎評価が生徒の将来に結びつくならば、教員は自身が生徒にした評価が社会にどうつながっていくのかを理解しておくべきではないでしょうか。

生徒の気づきと学びを最大化するPJ

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