2022年8月20,21日の2日間にわたり、三重県は皇學館大學にて第7回全国高校生SBP交流フェアが開催された。SBP(Social Business Project)とは、地域の課題をそれぞれのエリアが持つ地域資源やビジネスの手法を用いて解決していこうという取り組みだ。フェアでは全国の高校生が集まり、それぞれの取り組みの発表や、開発した商品の紹介・販売などが行われた。教育イノベーションセンターでは、第2回から小村センター長が審査員として参加している。

このコラムでは、フェアに参加したいくつかの学校を取り上げ、その特色の光る・個性的な取り組みを紹介する。

学校での学びを活かした商品開発

「くすりの富山」にある富山県立滑川高等学校には、全国に4つの高校にしかない、薬学を学ぶことができる薬業科がある。実際に多くの卒業生が薬品関係に就職しており、前田薬品工業株式会社もその就職先の一つだ。滑川高校は2017年から前田薬品工業と協働開発を行っており、フェアではその商品の一つである「My hair oil」について発表を行った。これは、こめぬかに含まれる高い抗菌化作用や紫外線吸収効果を持つγ-オリザノールを使用している洗い流さないヘアトリートメントで、実践発表交流会では参加者にも販売された。

開発した「My hair oil」。見学と聞いてフェアに参加した一年生は、急遽当日壇上にあがることになり、先輩と協力して商品の紹介を行った。

これまで成分や中身の開発に注力してきたがゆえに、製造過程や販売方法などが評価されるSBPフェアでは難しさもあったという。だからこそ三重で開催された本選で発表できたことがいい経験になったそうだ。「参加された学校ごとに全然違うことをやっていたのが印象的でした」と尾野心潤さんは語った。「私たちももっと学外に目を向けて地域の人と関わろうと思いました。」

「地域貢献って難しいと思っていました。でもフェアに参加して、自分たちも力になることができると確信しました。」そう語った池田紫温さんは地域に向けて販売した経験から、将来は日本や世界中に富山の医薬品を販売したいと思い、現在製薬会社への就職を考えている。

今後は自分たちの作りたいもの、理想とするものを追求しつつ、学校内だけでなく、学校外にもどんどん活動を広げていきたいと展望を語ってくれた。

普通科高校でもアイディアで

専門高校だけでなく、普通科高校でもアイディア次第で地域課題を解決することができる。そう教えてくれたのは、中部大学春日丘高等学校のインターアクトクラブだ。

彼らは奉仕クラブとして、日々ボランティア活動を行っている。その活動の一つとして、地域の無料塾である「みんなのひみつきち」を運営している。工作教室や料理教室など勉強以外の創作活動も想定した高校生発信の新しい無料塾は、徐々に評判も広まり、想定以上の参加者が集まるようになった。そのうちに、クラブの部費などで運営費を賄うことが難しくなってしまったが、“無料”塾であるがゆえに参加者からお金をもらうことができない。

過去の先輩方がノベルティなどの販売を行ったこともあったが、運営費を賄えるほどの稼ぎが補えずとん挫した。そこで考えついたのが「つなぐっず」のアイディアだ。これはベルマークなどのように、特定の商品の売り上げの一部が社会貢献につながることを訴える販促キャンペーンである“コーズマーケティング”の手法を用いている。既存の商品を「つなぐっず」として登録してもらうことで、その売上の一部が「みんなのひみつきち」の運営費になる。現在、これまでのボランティア活動の縁でつながった就労支援施設などに登録いただいており、この「つなぐっず」の輪を広めんと日々企業への提案活動を続けている。

「つなぐっず」の輪を広めるため、地元企業を訪問し提案を行う。ボランティア活動の縁で知り合った企業・団体などから、他の企業を紹介してもらうことも増えてきた。

「商業科じゃない私たちにビジネスなんてできないと固定概念に最初は囚われていました」と中島愛深さんは当時を思い出して苦笑した。山内悠生さんも「実際にどこの学校も商品やビジネスの実績があり、アイディアメインの自分達の発表で大丈夫か不安でした」と教えてくれた。

しかし発表後、多くの参加者が向こうから声をかけてくれ、発表をほめてもらえたという。特に審査員など既にビジネスで経験のある大人たちからもらった企画のアドバイスやアイディアの視点は、「つなぐっず」の提案先やもっと自分たちの活動を知ってもらうための広告活動に繋がっている。

自分たちの活動ノウハウを全国へ

近年、様々な探究学習の発表会やコンテストがあるが、その中でSBPフェアには、参加者どうしの交流を通して活動が広まっていく・深まっていくという特徴がある。浜松学芸高等学校はその中で重要な役割を果たす学校の一つである。

浜松学芸高等学校 社会科学部地域調査班・地域創造コースでは浜松の「衣食住」を通して地域の魅力を発信している。その長年の取り組みは生徒のやりたいことに応じて「アパレル部門」「イベント部門」など多岐にわたり、それぞれの取り組みが各所で評価も受けている。

そのような自分たちの取り組みは他の地域でも通用するのだろうか?、そんな思いからフェアの交流の中で他校に声をかけたのが、他校との協働のはじまりだったのだという。

三浦学苑高等学校との協働では、一緒にフィールドワークを行い、地域の魅力を発信するポスター作成のアイディアソンを行った。

他校との協働の中では、生徒たち自らが自分たちの活動から学んだノウハウを伝授する。「どんな協働する場所に行っても同じ思いを持っている子とならば一緒に活動するのが楽しくて、自分たちの手法がどこでも通用するというのを強く感じました」と現在観光部門の副部長をしている牧田心路さんは振り返って語った。「協働相手の学校の生徒さんは自分たちの地域には何もないですよって言うんです」とセライヤ桜さんははにかんだ。「でも私たちから見るとそんなことはなくて、ただ魅力に気づいていないだけ。でもこれは私たちも同じで、活動を通して自分たちの地元の魅力が見えてきたんです。」

また「対話」の機会が多いこともSBPフェアの大きな特徴だという。他の大会やコンテストと比較して、SBPフェアでは発表と同程度に質疑応答の時間が設けられている。聴衆が興味を持って聞いていることが壇上からも分かり、発表後に声をかけてくれることもあるそうだ。この「対話」は普段の活動からも大事にしているそうで、先生・仲間・協働する人・様々な人と合意形成を行う上で一番大切なことだとして、誰と話すときも否定から入らず一度思いを受け止め、目を見てぶつかり合うようにしているのだそうだ。

交流から生まれる化学反応

私は日々全国の学校にお邪魔しているが、どの学校もそれぞれの地域特性・教育理念に基づいて興味深い活動を行っている学校ばかりである。そんな取り組みが一つ箇所に集まることで、SBPの理念を触媒に、ある種の化学反応を起こしている様がフェアの中では各所で見られた。同じ思いを持つ友人が全国にできて勇気づけられた生徒もいれば、ワークショップで同年代の生徒から動画編集アプリを紹介してもらい、実際に自分たちの活動のPR動画を作成してみた生徒もいた。今回取り上げさせていただいた3校でも取材の中で、その化学反応の様を見て取ることができた。

日本は課題先進国と言われる。まだまだ明確な解決策が見つかっていない問題もたくさんあるだろう。しかし彼らのちょっとしたきっかけで大きく成長できる・新たな視点を持つことができる柔軟さは、今後大きな力になるだろうと心強さを感じたのであった。

関連リンク

◎富山県立滑川高等学校
滑川高校 薬業科
・薬業科と前田薬品工業の共同開発商品「うつくしるく」

◎中部大学春日丘高等学校
春日丘高校インターアクトクラブ
・無料塾「みんなのひみつきち」

◎浜松学芸高等学校
普通科 地域創造コース
・地域創造コースご担当教師インタビュー