全国の中高生が探究・研究を発表し合い、
参加者全員で学びや気づきを深める

2023年3月18・25日の2日間にわたり、「ベネッセSTEAMフェスタ2023」がオンラインで開催されました。本フェスタは、中高生の探究・研究活動を支えてSTEAMの実践を広げることを目的としており、今回で12回目となります。開催レポートの第1回では、本フェスタのねらいや概要、さらに2チームの発表を紹介します。

全国150チームが探究・研究テーマを共有して対話を行う

2011年にスタートしたベネッセSTEAMフェスタは、中高生が探究・研究を発表し合い、各分野の社会人サポーターを含めた参加者がフラットに対話して、参加者全員で学びの場を作り上げることを目指しています。新型コロナウイルスの感染拡大を機に、2020年からオンラインで開催されており、今回は環境や地域活性化、食料危機、ジェンダーなど、実に多様な課題やトピックの探究・研究テーマの発表が行われました。

■1日目(3月18日)
開会式の後、ZOOMのブレイクアウトルーム機能を使って30のルームに分かれて、各チームとも2回ずつ発表しました。1回の発表は7分間で、質疑応答を4分間行った後、視聴者がフィードバックフォームに感想やアドバイスを記入する時間を設けました。参加者は、所属チームの発表時以外は自由にルームを移動して他チームの発表を見学します。チャットに感想や質問を書き込み、活発にフィードバックをしていました。

すべての発表が終了した後は、約20分間にわたって全体で振り返りを共有します。発言したい生徒はZOOMの挙手機能を使って、意見や感想を述べました。生徒からは「今まで知らなかった問題を発見するとともに、自分たちの探究テーマに別方向からアプローチするヒントが見つかりました」「自分たちの発表が『面白かった』『興味を持った』などと評価をされて、とてもうれしかったです」といった声が聞かれ、様々な気づきや学びを得ている様子がうかがえました。

最後に、2日目に発表する代表10チームが発表されました。

■2日目(3月25日)
代表の10チームが発表を行い、その様子はYouTube Liveにより一般公開されました。各チームの発表後は、社会人サポーターが「推しコメント」として、研究のポイントやさらに深めてほしい視点などをコメントしました。発表中、チャット欄には、生徒や社会人など、様々な立場の視聴者からのコメントが書き込まれ、「わかりやすい。実験の仕方と伝え方の両方が素晴らしい」「社会人サポーターのフィードバックがとても参考になる」など、各チームの素晴らしい点や励ましなどが寄せられました。

全チームの発表後、本フェスタの支援者の1人である東京工業大学名誉教授の赤堀侃司先生から講評をいただきました。なお、毎年、参加チームの中から選ばれた1チームの発表が、日本STEAM学会の論文誌に掲載されます。赤堀先生は、その選定や推薦にも携わっておられます。さらに、ベネッセ教育総合研究所の小村俊平主席研究員が、振り返りのコメントを行うとともに、引き続き2024年以降も開催する予定であることを告げ、本年のベネッセSTEAMフェスタを締めくくりました。

ここからは、本フェスタで発表したチームの中から、2チームの発表の概要を紹介します。

「脱成長」を可能にする経済モデルを考える

アカデミック部門
発表テーマ 「続・第四の波」
発表者 東京都 聖学院中学校・高等学校 チーム中島

聖学院中学校・高等学校の「チーム中島」は、これまでSDGsを中心とした社会問題に関する記事作成や情報発信に取り組んできました。特に社会システムのあり方に関心を持ち、これからの社会では利害関係よりも目的や理念に基づく共同体(「イシュースタジオ」と命名)が必要という「第四の波」という論文を作成しました。

そうした問題意識に基づいて、今回の発表では、「脱成長論」の可能性について自身の仮説を交えて紹介しました。現在活発に議論されている脱成長論は、「課題点があまり議論されていない」「方法論ではなく、あくまでも経済哲学である」といった課題があると指摘。それらの課題に取り組むため、現段階の仮説として、脱成長とイシュースタジオを組み合わせた経済モデルのあり方を提案しました。

現在の社会では、発案者に資金が提供されてビジネスを大きくしますが、その方法では利益追求が優先されて社会的意義が薄れやすいと指摘します(スライド1)。

スライド1 現在の経済モデルでは、ビジネスを大きくすることが優先され、社会的意義が薄れやすいと指摘しました。

それに対して、「発案者」「資金提供者」「賛同者」の全員がビジネスの参加者となり、その中で利益を循環させて分散させる新たな経済モデルに移行することで、社会的意義が保たれやすくなるのではないかと提案しました。さらに、当初の計画や目的が達成されると一旦解散となるため、経済至上主義に陥ることなく、脱成長論との共存が可能ではないかと述べました(スライド2)。

スライド2 発案者や資金提供者、賛同者などが社会的意義や目的を共有してビジネスに取り組むことで、利益優先主義に陥らなくなると考えられています。

今後、この仮説について経済学・社会学の視点から検証し、新たな論文を作成したいと意欲的に語りました。

社会人サポーターの寺田香織さん(鹿島建設株式会社開発事業部課長)は、「面白い着眼点であり、社会問題に対する意識の高さに感心しました」と感想を述べ、イシュースタジオのしくみに関する具体的な質問を投げかけて対話を深めていました。

カラマツの消臭効果を検証し、消臭スプレーの製品化に成功

メイカー部門
発表テーマ 木曽のカラマツの余った枝や葉を使って消臭スプレーを作る
発表者 長野県松本県ヶ丘高等学校 チーム澤守

長野県松本県ヶ丘高等学校の「チーム澤守」は、地元の木曽の木材を使った探究テーマを求めて林業組合にヒアリングを行い、カラマツの枝や葉の活用方法が少ないという課題を発見しました。そして、木材の消臭効果は比較的調べやすいと考え、消臭スプレーを作る探究活動を開始しました。

まず検証1として、精油抽出機を自作し蒸留を行い、カラマツとヒノキの精油とエッセンシャルウォーターを抽出しました。(スライド3)

スライド3 精油抽出機を自作し、カラマツとヒノキの精油とエッセンシャルウォーターを抽出しました。

それらをアンモニアとともに密閉容器内に入れて、臭いの原因物質の変化を測定すると、いずれの数値も低下していたことから、カラマツに消臭効果があることがわかりました。

続く検証2では、カラマツとヒノキの精油とエッセンシャルウォーターの混合水溶液を、それぞれトイレにスプレーで吹きかけて5時間おきに臭いを測定。その結果、臭いの原因物質が減少しており、消臭効果が確かめられました。

しかし、カラマツの混合水そのものがよい匂いではなかったため、専門家に相談すると、3か月以上置いておくと匂いがマイルドになるとアドバイスを受けました。その方法を試したところ、誰が嗅いでも「よい匂い」といわれる匂いに変化したため、ラベリングをデザインするなどして製品化しました(スライド4)。

スライド4 完成した製品。地域の企業などに働きかけて商品化を目指しています。

現在は、商品化に向けて、生産・販売の協力企業を探しています。

社会人サポーターの吉川佳佑さん(株式会社ガイアックス スタートアップスタジオ事業部 起業ゼミ責任者)は、「製品化というアウトプットまで、丁寧に行っている点が素晴らしいですね。検証でもPDCAサイクルをしっかり機能させていました。商品化に向けては、クラウドファンディングをしてもよいのではないでしょうか」と、助言しました。

第2回では、広尾学園中学校・高等学校のキャピキャピチーム「フードコートのご飯が食べたい」、豊島岡女子学園中学校・高等学校のTG66「世界と日本 二面からみる明治維新 ~幕末日本の向かう先は~ 」を紹介します。ご期待ください。

■開催概要

【日時】2023年3月18日、25日
【主催】株式会社ベネッセコーポレーション
【参加チーム数】中学校・高校 全150チーム(約380人)
【エントリー部門】
・アカデミック部門:学術的な探究心をもとに進めた探究・研究活動を発表する部門
・ソーシャルイノベーション部門:身近な気づきや問題意識から行動し、自分や周囲にもたらした変化を発表する部門
・メイカー部門:「創りたい!」という想いを形にし、表現する部門
【社会人サポーター】社会人や大学・企業の専門家29人
赤堀侃司 一般社団法人ICT CONNECT21会長、東京工業大学名誉教授
鰺坂志門 企業エンジニア、法政大学特任研究員
狩野光伸 岡山大学副理事、大学院ヘルスシステム統合科学研究・薬学部長
小泉周 自然科学研究機構特任教授
後藤健夫 教育ジャーナリスト&アクティビスト
残間光太郎 株式会社InnoProviZation 代表取締役社長
高野大地 株式会社日本総合研究所研究員
長者原亨 ホログラム株式会社専務取締役
辻本将晴 東京工業大学環境・社会理工学院 イノベーション科学系・技術経営専門職学位課程教授
寺田香織 鹿島建設株式会社開発事業部課長
福田公子 東京都立大学理学研究科 准教授
吉川佳佑 株式会社ガイアックススタートアップスタジオ事業部起業ゼミ責任者
※一部ご紹介。プロフィールは、2023年3月時点のものです。

ベネッセSTEAMフェスタ事務局

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