木村 治生

ベネッセ教育総合研究所 主席研究員

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東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所が共同で実施する「子供の生活と学びに関する親子調査」の2022年の調査結果が、4月11日に発表された。ここで明らかになったのは、「上手な勉強のしかたがわからない」と回答する子ども(小学生~高校生)の増加である。では、学習方法が分からないという子どもたちの悩み対して、教員や保護者はどう対応すべきか。子どもたちが、成果が上がる学習方法を身につけるために、何ができるかを考える。

●学習で成果を高める条件とは

学習で成果を上げるには、一定量の「学習時間」と質の高い「学習方法」の2つが必要である。学習時間がゼロでは成果は上げられないが、仮に学習量が多かったとしてもその質が低ければ、成果は上がりにくい。これは、机に向かって知識・技能を習得するような学びでも、体験によって思考力・判断力・表現力を高めるような学びでも同様である。探究学習においても、一定量の探究する時間と、質の高い探究の方法が必要である。

その学習の量と質の両面を、「学習意欲」が支える。学習意欲が高い子どもは、学習時間が長いだけでなく、自分で学習方法を工夫する傾向がある。また、自分の学習意欲や学習の量と質を客観的にとらえ、自己調整していく意味で「メタ認知」が重要になる。メタ認知とは、自分のことを客観的に捉える力のことだ。メタ認知が高ければ、どのように学べば自分の目標に近づけるかを考えることができる。

つまり、学習で成果を高めるには、「学習時間」「学習方法」「学習意欲」の3つの要素が重要で、メタ認知を働かせてそれらを調整していくことが求められるということだ。特に、学ぶ内容の抽象度が高くなる中学生以上になった時に、自分の学習をコントロールできる力が身についているかで、その後の成果は大きく変わる。

●学習に必要な3つ要素の関連

それでは、「学習時間」「学習方法」「学習意欲」はどのような関連があるのだろうか。

図1は、真ん中に「成績」を置き、3つの要素の関連を示したものである。数値は、相関係数で、「-1~1」の値をとり、-1に近いほど負の相関、1に近いほど正の相関が強いことを表す。これをみると、「学習方法」と「学習意欲」の間の数値が高いことがわかる。これは、学習方法が理解できていると学習意欲が高まったり、反対に学習意欲が高いと学習方法を工夫したりするような関連があることを意味する。

また、「成績」との関連に注目すると、いずれの学校段階でも「学習方法」との関連が強く、「学習時間」は相対的に関連が弱い。一定の学習時間は必要だが、やみくもに長くするよりも学習方法を工夫したほうが成績に反映されやすいことを示す結果だ。

図1 学習方法・学習意欲・学習時間・成績の関連(相関係数)


※「学習方法」は、「上手な勉強のしかたがわからない」で「とてもあてはまる」1~「まったくあてはまらない」4とした。
※「学習意欲」は、「勉強しようという気持ちがわかない」で「とてもあてはまる」1~「まったくあてはまらない」4とした。
※「学習時間」は、「宿題」「家庭学習」「塾での学習」の1日当たりの時間を合計した。
※成績は、小学4年生は国語、算数、理科、社会の4教科、それ以外の学年は国語、算数・数学、理科、社会、英語の5教科の平均値(最小値1~最大値5)である。
※東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査」2022年調査。

●成果が上がる学習方法

では、成果が上がる学習方法とはどのようなものだろうか。

成績別に学習方略の採用率(「よくする」と「ときどきする」の合計)を見たのが、図2である。ここからは、成績上位層の特徴として次のようなことがわかる。

①多様な方略の獲得…成績上位層は多くの学習方略を実践し、採用できる方法をたくさん持っている

②自己調整…成績上位層は自分に合った学習方法は何かを考え、実践している

③メタ認知を用いた方略の実践…プランニングとモニタリング方略で、成績上位層と下位層の差が大きい。自分の学習を客観的に捉える、「メタ認知」を用いた方略の効果が高い

④意味理解方略の実践…同じく、意味理解方略も上位層と下位層の差が大きい。学習そのものや課題にどのような意味があるのかを理解することが大事。「解き直し」も有効で、なぜ間違えたのかを理解できると効果が高い

図2 成績別 学習方略の採用率

※数値は、「よくする」と「ときどきする」の合計(%)。小学4年生~高校3年生のデータ。
※東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査」2022年調査。

●どう働きかければよいか

こうした学習方法を概観すると、いかにも成績がよい子どもが採用していそうなものばかりだが、一朝一夕に身につくものではないだろう。それでも、こうした学習方法を身につけていれば成果が上がりやすいということを知っておくことは重要である。

日本の学校教育は、どちらかというと子どもたちの学習時間に注目して、学習量を指導しようとしてきた印象を持つ。保護者も、勉強をどれくらいやっているかに関心を持ってきた。そうした学習量を重視する「物量志向」ではなく、どう学ぶかを考える「方略志向」に転換すべき時ではないだろうか。何を学ぶか(内容)、いつ学ぶか(時間)、どれくらい学ぶか(量)、どうやって学ぶか(方法)を子ども自身が自己決定・自己調整できるように、そうしたことを考える機会をできるだけ与えてメタ認知が育つ働きかけをしていきたい。