木村 治生
ベネッセ教育総合研究所 主席研究員
㈱ベネッセコーポレーション入社後、ベネッセ教育総合研究所で子ども、保護者、教員を対象とした調査研究に携わる。東京大学社会科学研究所客員准教授(2014~17年)・客員教授(2021~22年)、追手門学院大学客員研究員(2018~21年)、横浜創英大学非常勤講師(2018年~22年)などのほか、文部科学省、内閣府などの審議会や委員会の委員を務める。
東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所が共同で実施する「子どものICT利用に関する調査2023」の結果が、11月8日に発表された。GIGAスクール構想の実現によって学校でのICT機器の利用は大きく変化したが、子どもの意識や行動について検討するためのデータは十分ではなかった。今回の発表では、その実態を明らかにするとともに、学校でICT機器を有効に使うためにどのような方策が考えられるかを検討した。本稿では、主な調査結果を紹介する。
●学習で成果を高める条件とは
本調査では、学校でICT機器を使う頻度について、週・月あたりの日数で尋ねた。その結果は【図1】の通りで、「週5日(ほぼ毎日)」が3割いる一方で、「週1日未満」(「月2~3日」「月1日以下」)の回答も2割いた。1人1台端末が実現してから1~2年が経過するが、学校や教員によって子どもに使わせる頻度が異なる様子が表れている。
では、学校でICT機器を利用することに対して、子どもたちはどのような意識を持っているのだろうか。「ICT機器を使う授業は楽しい」には約8割が、「ICT機器を使う授業を増やしてほしい」には約6割が肯定(「とてもそう」+「まあそう」)していて、多くが前向きにとらえている。また、「楽しい」という意識には成績による差がみられず、成績下位層の子どもも全体の割合と同じ程度、ICT機器を使った授業を楽しいと感じていた(図省略)。成績が振るわない子どもにも、ICT利用は学習の楽しさをアップさせる効果があるようだ。
●子どもが感じるICT利用の効果と課題―使うことで効果の実感が高まり、不安が低減
次に、子どもたちは、ICT機器を学習に利用することでどのような効果や課題を感じているのかを確認する。最初に、効果実感をみてみよう。【図2】に示したように、「学習内容について調べやすい」「学習内容がわかりやすい」「効率的に学習できる」「グループでの学習がしやすい」は7割超が肯定的な回答をしている。それ以外にも、半数以上が肯定している項目がほとんどで、子どもたちはICT機器の利用を概ね肯定的に受け止めていることがわかる。
また、ICT機器の利用頻度が高い群(高頻度群)と低い群(低頻度群)で比べると、こうした効果実感は高頻度群の子どもの方が強い。使い慣れることが効果実感を高めるうえで重要なようである。
課題については【図3】に示したように、「目が疲れる」「インターネットにつながらなくて困ることがある」「ICT機器を壊してしまわないか不安」が5割を超えている。また、3~4割が「深く考えて問題を解くことが減る」「学習以外のことが気になって集中できない」と回答しており、 効果的に使えているかどうかにも留意が必要だ。そうした困りごとや不安の多くは、利用頻度とは関係なく一定の割合の子どもが抱えていた。しかし、「使い方がわからないことがある」「文字の入力が面倒」などは利用頻度が低い子どもほど感じていて、使い慣れることで解消される困りごとや不安もありそうだ。
●教員のかかわりの重要性―指導の手厚さにより効果実感は高まるが、それだけでは限界も
総じて言えるのは、利用頻度が高いほど効果実感を強く感じたり、一部の不安や困りごとが低減したりしていて、積極的な利用が子どもたちのICT利用の意識にプラスになっているということだ。さらにデータを分析したところ、教員から「ICT機器の使い方」「情報の集め方・調べ方」「ルールやマナー」などの指導を受けている子どもほど、ICT機器の利用の効果を強く実感する傾向があることがわかった(図省略)。ICT機器は道具であり、どのように使うかが重要である。この結果は、単にICT機器があればよいわけではなく、教員がその使い方をサポートすることでより大きな効果が得られる可能性を示唆している。
その一方で、課題実感として多かった「目が疲れる」「インターネットにつながらなくて困ることがある」「ICT機器を壊してしまわないか不安」「持ち運びが大変」などの回答率は、利用頻度が高まっても、また、教員が手厚く指導しても低減しなかった。これらは、教員の指導で解決できる問題ではなく、利用環境を整備することで解消するしかない。国や自治体による予算の充実が求められる。
ここで紹介した以外のデータや学校段階別のデータは、ベネッセ教育総合研究所のホームページで確認できる。データを手掛かりにして、ICT利用のあり方についての検討を深めていただければ幸いである。