前回は、私のこれまでの経験や専門家としての知見を基に、不登校に関する基本的な考え方や対応について、主に学校関係者の方(教師)にお伝えしたいことをお話ししました。今回は、保護者の方はどのようなことができるのかについてお話しします。

長期休業明けの時期における、
保護者のかかわり方のポイント

夏休みなどの長期休業後、子どもが元気に登校できるか、心配する家庭は多いと思います。そこで初めに、長期休業期間中から休業明けにかけての子どもとのかかわり方について、これまで私が行ってきたカウンセリングの経験や実際の子どもたちの様子を基に、ヒントをお伝えします。この夏を乗り切る参考にしてください。

<長期休業の終盤 8月後半など>
この時期は、休業明けの学校生活に子どもが適応できるかと、不安や緊張が高まる家庭が増えます。子どもは保護者の緊張を鋭く察知しますから、保護者自身がストレスをためないよう、親子で心身をしっかり充電しましょう。「自宅での生活が楽し過ぎると、9月から学校に行けなくなるのではないか?」と思うかもしれません。しかし、家庭で楽しく、安心して過ごせなければ、前向きな気持ちで学校に行くことはできません。休業明けに備えてリラックスしながら過ごしてください。

<長期休業明けの初日 9月初旬など>
1年間で子どもの自殺件数が最も多いのは9月1日と言われています。この時期は、皆が学校への足取りを重く感じます。保護者は、始業日までにやっておくとよいことを事前に学校へ聞いてみるなど、早めに学校と連携できる態勢を取っておくとよいでしょう。どうしても子どもがつらそうであれば、登校初日から無理に登校させる必要はありません。保護者としては不安になるかと思いますが、前向きかつ自然体で子どもに接することを心がけたいものです。

<長期休業明けの数日後 9月上旬など>
問題なく登校できていればよいのですが、遅刻がちであるなど、不登校につながりそうな兆しが見られたら、家族や友人など身近な人に早めに相談しましょう。遅刻がやや目立つ、休む日がぽつぽつある程度であれば、誰かが働きかければ普通に登校できるようになる子どもも多くいます。一方、欠席が連続するようになると、そこから登校モードに変えることは難しくなりがちです。欠席が長期化する前に保護者や周囲が子どもに働きかけるとともに、「もし学校でしんどくなったら、保健室で過ごしていいよ」などと登校後の心理的ハードルを下げたり、スクールカウンセラーによるカウンセリングを受けたりするのもよいでしょう。不登校になりかけていたある中学生のケースでは、周囲の友人が動いてくれたことで、事態が深刻化せずに済みました。「〇〇さんは休みがちだけれど、自分たちが近くに座ったら安心すると思う。だから席替えをしてください」と、友人が担任に働きかけたそうです。席替えをした結果、その生徒は登校できるようになりました。最近の調査結果からも、学校に戻るために効果的な働きかけは、家族や教師に限らないことが見て取れます(図)。深刻ないじめの恐れなどがない限り、そうした複数の存在・手段による早期対応を学校に相談してみましょう。

不登校経験のある子どもが、学校に戻りやすいと思う対応

出典:文部科学省「不登校児童生徒の実態把握に関する 調査報告書」(2021年)
「特になし」が最も多いが、「本当に分からない」という子どもだけでなく、「いくら支援されても学校にいけないし…」という諦めの気持ちの子どもも含まれていると思われる。

早期に対応できなかったからといって、無理やり薬を飲ませるなど、子どもが嫌がる対処法を講じても効果はありません。その子に合いそうな方法や支援者を根気強く探しましょう。必ず見つかります。まずは担任や養護教諭に相談してみてください。スクールカウンセラーを紹介してもらえることもあります。地域の教育支援センターに直接相談することもできますが、紹介制の場合もあるため、事前に確認しておくことをお勧めします。

「皆と同じように学校の教室で勉強すべき」
という固定観念をリセットしてみる

国の基本方針にも示されているように、不登校であること自体は何ら問題ではなく、挫折や失敗でもありません。学びの場は必ずしも在籍中の学校である必要もありません。しかし、保護者としては、「その通りですね。我が子も不登校ですが、安心しました」と言えるほど単純な話ではないことは、よく分かります。学校にはできれば皆と同じように行ってほしいと願う保護者が大半なのが現状です。

しかし、保護者自身も気持ちに余裕が持てずに、ストレスを子どもにぶつけてしまい、傷つけ合うことがあります。また、保護者が働きながら不登校の子どもを世話する場合は、仕事との両立に苦しんだり、自分を犠牲にして子どもの世話をしていることに強いストレスを感じたりすることがあります。自分だけで何とかしようとせず、学校のスクールカウンセラーや民間の支援団体などをぜひ頼ってください。保護者自身も肩の力を抜くことができ、前向きな気持ちで子どもに接することができるようになります。

その上で、ほかの子どもと同じように毎日学校に通い、同じように教室で勉強すべきという保護者自身のこだわりがあれば、いったんそれをリセットしてみましょう。子どもにとって最適な方法が学校に戻る以外にないのか、ほかの選択肢も検討してはいかがでしょうか。高校の場合はコロナ禍の影響もあり、通信教育、通信制高校など、オンラインで学習する手段と数が増え、社会的な抵抗感も薄れてきました。不登校者の受け入れに好意的な学校を調べたり、不登校の子どもを持つ保護者の会などに参加したりしてみましょう。あるいは、高卒認定試験を受けることも一案です。

一方、小・中学校の場合は義務教育であることから、転校することへのハードルが高いのが現状です。在籍校にいながら通える教育支援センターやフリースクールなどを探してみましょう。加えて、最近は通信制高校附属の中学部や、夜間中学を設置する動きが加速しています。国も不登校者の学び直しの機会を増やす方向性を打ち出していることもあり、そうした動きは今後さらに広がっていくと思われます。また、不登校特例校(下図参照)が近くにあれば、検討するのもよいでしょう。長期休業期間に、こうした新たな学びの場を考えてみるのも一案です。

学校以外で学習機会を提供してくれる機関(義務教育段階)

不登校の子どもにとってのゴールは、社会的に自立していくことです。必ずしも在籍する学校に復帰することだけではありません。幅広い選択肢を検討し、その子に合った環境を整える必要がありますが、社会の受け皿はまだ十分整備されていません。保護者や支援・指導する大人は、1人で抱え込まず、周囲の協力を得るとともに、子ども自身が頑張ろうとしている現状を認め、長い目で見守っていただきたいと思います。

(本記事の執筆者:神田 有希子)

 

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伊藤 美奈子(いとう・みなこ)

奈良女子大学教授、同大学臨床心理相談センター長

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