前回は、高い目標を実現するためには自己効力感を保つことがとても大切であることをお伝えしました。今回は、子どものモチベーションが下がってしまった時の上げ方や苦手科目を克服するためのヒント、そして学校や教師にはこうあってほしいと願っていることをお話しします。

理解が追いつかなくてやる気をなくす前に、いったん難易度を下げてやる気をキープ

私が「慶應大学を受験するぞ!」と決めたのは高校2年生の夏でした。当時の学力は小学校4年生レベル。それでも本番まで「絶対、慶應大学に合格してやるぞ!」とやる気をキープできていたのは、心理学でいう「期待価値理論*」の「期待」と「価値」の両方が高い状態のままだったからです。
いきなり高校2年生レベルの問題集を渡しても、当然問題は解けず、モチベーションが下がるだけだと考えた塾の先生は、私に小学校4年生レベルの問題を解かせました。さすがに6割は得点できました。「私にもできた」という小さな経験によって私は勉強に前向きになり、次は難易度を上げた問題にチャレンジしたくなる、塾の先生を驚かせたいから学習速度を上げる、それを繰り返すことで、「できそう、できるかも」という気持ちを失わないまま一歩ずつ階段を上っていきました。その結果、志望校の合格可能性が射程圏内に入るレベルに到達し、「私、合格できるかも、合格できそう!」といった思いがさらに高まっていったのです。それが私にとっての「期待」でした。
そして私は、大学に関する知識や興味がほとんどありませんでした。でも、慶應大学だけは違った。「有名なアイドルが通っていたし、イケメンが多い気がする。私が憧れていた、キラキラしてワクワクする世界が待っている気がして、行きたい行きたい!」と前のめりになりました。それが私にとっての「価値」でした。

人によって「期待」と「価値」の中身や難易度は千差万別です。志望校を考える前に、そもそもなぜその学校を受験するのか、と進学する価値を問い直してもよいかもしれません。自分は何が好きで、どういうことにワクワクするのか。勉強する内容がどのくらいの難易度なら、「私でもできそう!」と思えるのか。もし基礎をないがしろにしたまま周囲に合わせて適当な勉強をすると、どんどんできなくなってしまいます。6割くらい理解できるところまで戻ってやり直すというやり方は、一見遠回りに見えてもモチベーションを下げない効果があることから、実は近道なのです。

* 期待価値理論:人が何か行動を起こす際に、その行動が成功するだろうという「期待」と、成功した場合に得られる「価値」をかけ合わせ、その行動に対する意欲が決まるという理論

苦手科目ほど、自分の学びをメタ認知できるようにサポートしてほしい

子どもは苦手な科目では勉強の手が止まってしまい、成績が伸び悩むものです。私は日本史が苦手科目でした。歴史に全く興味がなかったので勉強する気が湧かず、ただでさえ満足に書けない漢字が羅列されている歴史用語などを暗記できるわけがありませんでした。いくら勉強しても成績が伸びなかった私は、一度立ち止まって考えてみました。「教科書の文字面をなぞっているから興味が湧かないんだ。もうちょっとエンタメっぽく考えて、起こった出来事を整理した方がよさそう。しかも、用語を覚える前に、出来事の流れをつかんだ方がいいな」と思い至り、まずは日本の歴史の漫画を5周程度繰り返し読むことにしました。すると、日本史はテレビドラマと一緒で、つながりのあるストーリーだと気づいたのです。

用語を覚えることは私にとってはハードルが高く、「物語に入り込むような感覚が持てれば、覚えられるかもしれない」と考え、日本史の教科書の内容を自分の言葉でノートに図式化してみました。「ここの時代、よく分からないな」と思ったら、教科書に書かれていることを自分なりに解釈して、「AさんはこれをやりたくてBさんを排除したから、こういう出来事が起きて…」といったように、歴史上のストーリーを自分の言葉でノートに書き、人間関係や因果関係を、矢印を使ってまとめました。正確でなくてもよいから、とにかく自分の言葉で書くようにしました。ノートにまとめる中で自分の感情が動いたり、印象やビジュアルが加わったりすると記憶しやすいことに気づきました。そこで、資料集を必ずそばに置いておき、「フランシスコ・ザビエルは髪が薄い」「Aさんは弱い者いじめをする悪いやつだった」「Bさんは手紙ではこんな字を書いていた」といった付加情報をたくさん拾い集めて、印象づけるようにしました。

ポイントは、自分はなぜその教科・科目が苦手で、何につまずき、何が足りていないのかを分析すれば、解決のアプローチが見えてくるということです。教師には、そういった学習方法のメタ認知を助けるような問いかけやサポートをしてもらいたいと思います。例えば、「どこが苦手だと思ってる?」「この問題、なぜ間違えたと思う?」「その時代の背景って、どのように理解している?」といった問いかけです。子どもから「そもそも背景って何? これを暗記すればいいんでしょ?」といった言葉が返ってきたら、その子はおそらく私と一緒で、エンタメ化して学んだ方が理解が深まり、記憶も定着するでしょう。その意味で教師の役割とは、子ども一人ひとりに合った「これなら面白そう、できそう」と思える学びを一緒に見つけるサポーターとも言えるでしょう。

自分のことを理解し、社会を知るためのものだと分かった瞬間、学びは面白くなる

私がアメリカの大学院への留学を決めたのは、受験に成功した理由が何だったのか、その心理的なメカニズムを知りたかったからでした。授業で読む論文、聞く理論、すべてが面白くて仕方がなかった。テストのための勉強でも、誰かに覚えなさいと指示されてする勉強でもない。その学びが、実は自分のことを理解するため、今生きている社会をより深く知るためのものなんだと認識できた瞬間、学びの面白さが湧いてきたのだと思います。
だから子どもたちには、いろいろなことを学ぶ面白さを知ってほしいです。学ぶことは面白いと考えられるようになって、自分はこんなことをしてみたい、こんなことを学びたいなどと、興味や好奇心の種をたくさん拾って新しい憧れを抱いてもらえたら素晴らしいなと思います。

(写真の説明)コロンビア大学教育大学院を卒業した時の記念写真。失敗体験をさせないようにするといった点で日本の教育に疑問を持って渡米したが、課題だけではなく、日本の教育水準の高さを再認識する機会にもなった。
出典:小林さやか インスタグラム(@syk03150915)

学校は憧れが持てる場所、大人は学び続ける存在であってほしい

学校は興味や好奇心の種であふれ、子どもが憧れを持てる場所であってほしいと思っています。そして教師は子どもの憧れを学びにつなげ、学びを促す存在であってほしい。だから教師は、子どもたちのために何をしてあげたらよいかということだけではなく、教師自身がどう生きたいのか、何に興味があって、人としてどのように成長したいのかといったことを、いま一度考えてみてはどうでしょうか。子どもたちは、私たちが思っている以上に周りの大人を通して世の中を見ています。身近な大人として子どもたちに寄り添っている教師の行動や頑張りは、必ず子どもたちが見ています。

私は現在、起業して大人向けの英語学習サービスを開発しています。私自身が英語力を身につけたスキームと、大学院で学んだ認知科学の考え方を活用しました。モチベーション高く学び続けることができる大人は、ワクワク、生き生きとしていて、自信を持って生きられる。そのエネルギーは周囲の子どもたちに伝わりますし、子どもが何かに挑戦したいと思った時に、子どもの背中を押すのではなく、ストップをかけてしまうような大人が減るのではないかという思いで、開発中のサービスを展開していこうと考えています。
まずは大人が学び続ける存在に。私自身もそれを今後も示していきます。

小林さやか(こばやし・さやか)

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