私は「先生のゆとりと幸せは子どもの輝きに直結」をコンセプトに、働き方改革や組織開発に関するコンサルティング活動を学校専門で行っています。東京と大阪で小学校教師の経験があり、学校現場のリアルを理解し、同志である教師のウェルビーイングを心から願う気持ちは誰よりも強いと思っています。どうすれば学校が変わり、教師の笑顔が増えるのか、そのヒントをこれまでの実践を踏まえてお伝えします。

教師のやりがいと幸せを本気で願い、伴走する

私が大学を卒業して教師になったのは、2003年のことでした。当時は教師の労働環境が注目されることはなく、「働き方改革」という言葉ももちろんありませんでした。しかし、学校現場は既に疲弊していました。私自身の労務環境も、初任で分からないことが多かったとは言え、過酷でした。心身を極限まですり減らしながら日々働き、これは働き方として変だな、おかしいなと思っていました。

教師になって数年後に結婚をし、教師の仕事を離れた時はもう教師には戻らないつもりでしたが、たまたまワーク・ライフ・バランスに関する書籍を読んで、「私生活の充実は仕事を充実させることにつながる」という内容が書いてあったことが印象に残りました。当時の私には夢のような考え方でしたが、私生活と仕事は、どちらかを諦めるのではなく、どちらも充実させられると人生の好循環が生まれるのでは、と考えるようになりました。仕事としては魅力を感じていた教師の仕事。私生活を犠牲にしなくても、仕事をしながら人生を充実させられるのかもしれないとわくわくし、もう一度働きたいと思うようになり、再び小学校教師の道に戻りました。書籍に書いてあったことを意識すると、毎日の仕事がとても楽しく、しかも以前より早く帰ることができるようになりました。過酷に感じながら過ごしていた1度目の教師生活と、心身ともに充実し、やりがいを感じながら過ごした2度目の教師生活。その2つの体験から、「同じ仕事をしているのに、こんなに感じ方が変わるんだ」と驚きました。

ワーク・ライフ・バランスは、私生活と仕事を天秤にかけてうまくバランスを取ることだと思われがちですが、実はそうではありません。両方をより充実させ、必要なことに必要な時間をかけられるようになることが重要です。そうしたことを実現して幸せになる教師が少しでも増えたらと考え「先生の幸せ研究所」を立ち上げました。

変化を実感し改革を楽しむ

働き方改革は、変化の実感の積み重ねだと思います。「もっとこうだったら効率的なのに」「これはそもそも何のためにやっているんだろう」と日頃思ってきたことは、改革の貴重な種になります。

弊社が支援している、ある学校の職員室には「どうせ何も変えられない」「改革は誰かがやってくれるものだ」と消極的な雰囲気があったのですが、教師が自ら知恵を出し合いながら動き出したことで、「ずっと疑問だったことが改善された」「学校が変わったみたい」と前向きになっていきました。

私が主宰する「先生の幸せ研究所」では、学校の働き方改革を支援するプログラムを開発・提供しています。プログラムの期間は約半年から1年弱程度で、全教職員が集まって対話する場を3、4回設けています。プログラムの具体的な内容は次の通りです。

まず、全教職員が集まり「キックオフミーティング」を行います。そこでは、今の働き方において改善する必要があることは何かを皆で考えます。その後、出てきたテーマごとに、どこからどのように変えるとよいのかについて議論します。キックオフミーティングの後は、すぐに取り組めるテーマの場合はすぐに検討に取りかかり、時間がかかるテーマの場合はその内容に応じた進め方で取り組んでいきます。教職員が、自身が参画したいテーマを選ぶことで主体的に考え検討を進めていくことも効果的です。

その後1、2か月に1回程度のペースで、状況を共有したり、次のアクションを考えたりするために、教職員による対話の場を設けます。年度後半になれば、次年度はどうしようか、新たな課題を取り上げて取り組んでみようなどと、次につながる動きを考えるようになることもあります。

私は100点満点の改革を実現させるために完璧な計画と準備をしようとする考え方を、教師に持ってもらわないように意識しています。やってみないと分からないことが多いのが働き方改革です。もっと気軽に、年度途中からでも気にせずに、少しだけ試行してみるくらいの気持ちで「まず動く」。それにより、変化のサイクルを楽しみながら実感を伴って進めることができるようになります。

部活動の改革を進めたら、授業改善につながった

中学・高校の働き方改革で必ずと言ってよいほど論点になるのが部活動のあり方です。教育委員会や校長がトップダウンで改革することも可能ですが、なかなか踏み切りにくいという悩みをよく聞きます。

そこで私たち「先生の幸せ研究所」が提案している方法の1つが、各学校において教師と生徒がともに部活動について考え、形づくっていくというものです。部活動のあり方を変えていくために時間はかかりますが、部活動に対する関係者の納得度が高まり、満足度も上がります。

愛知県の中学校で行った働き方改革のプロジェクト(図)ではまず、働き方についてキックオフミーティングとして「なんでも考えてみる会」を行いました。その中で、課題意識を持っている教師が多かった部活動について集中的に考える会が発足。地域、生徒や保護者を巻き込んで対話を重ねました。その結果、活動回数や活動時間を減らすことや、複数名の教師が共同で顧問を担うチーム顧問制を敷くことなどが決まりました。具体的には校庭に5つ、体育館に3つ、プールに1つ、校内に5つの合計14部を7名の教師がシフト制で担当する、といった形です。チーム顧問制を導入したことで、全職員約40名のうち約30名は部活動の時間にそれ以外の業務にあたることができるようになりました。教師1名のシフトが回ってくるのは、多くて1か月に3〜4回程度です。また、地域の方々と対話を重ねたことにより、地域の方1〜2名が校庭に来て部活動の見守りをしてもらえるようにもなりました。

部活動の時間の長さについては、生徒にアンケート調査を行った結果を反映させるなど、納得度が高く、教師の負担も減らすアイデアも取り入れた部活動をデザインすることができました。

資料提供:合同会社先生の幸せ研究所

その中学校の取り組みで興味深いのが、部活動の改革によって教師の心と時間に少しずつゆとりが生まれたときに、「授業を考える会」が発足したことです。この学校では、働き方改革に取り組む以前から、生徒の主体性の育成に課題意識を抱いていました。そこで「部活動を考える会」では、顧問が主体である状態は本当によいのかを問い直し、「生徒が主体」であるべきという考え方が言語化していきました。その結果、生徒たちは自身で練習メニューを考えたり、練習そのものを進めたり、ミーティングしたりするようになり、教師が毎日入れ替わっても問題はありませんでした。

そのうち教師たちは「主体性は授業の中でも育むことができる」と考えるようになり、授業のやり方も変えていこうと、「授業を考える会」を発足させました。部活動と同様に、授業中もできる限り生徒に学びのハンドルを持たせるように授業をデザインし直す動きが高まり、自由進度学習を一部の授業で取り入れるなど、授業改善の動きが見られるようになりました。

働き方改革に取り組む際、教師は、単に自分の負担が減ればよいとは考えません。業務の削減や効率化が子どもにとってもメリットがあるのか、そうした教育的な意義を大事に考える姿には頭が下がります。

その思いを尊重しながら教職員が丁寧に対話を重ねることで、働き方改革が自分事になっていき、「自分も○○をやってみよう」という気になります。そしてそれが成功体験につながり、学校全体の改革推進力となっていきます。教師自身にゆとりが生まれるだけでなく、働き方改革に対する視野が広がり、学校教育の本質に迫る新たな課題を見つけることで、新たな実践に臨むチャンスを得ることができるのです。

(本記事の執筆者:神田 有希子)

澤田 真由美(さわだ・まゆみ)

合同会社先生の幸せ研究所 代表  学校専門働き方・組織風土改革 コンサルタント

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