前回は、言葉を使って自分を表現することの大切さをお伝えしました。今回は、そうしたコミュニケーション力を高めるためのポイントについてお話しします。

コミュニケーション力を育てる7つの力のトレーニング

私は米国の教育や家庭で行われていた方法の要素を抽出し、「7つの力」のトレーニングを提言しました。その後コーチングを学び、「強化法とモデリング」「コーチング法」の技法を取り入れたトレーニングプログラムを仲間とともに開発。予備的調査として横浜市内の幼稚園で3年間の検証を重ね、「ことばを使った楽しいアクティビティー」であるそのプログラムを「ことばキャンプ」と命名しました。それは7つの力の育成をねらいとした、ゲーム感覚のトレーニングプログラムです。なお、7つの力とは以下の力を指します。

1.度胸力:恐れずに言いたいことが言える力
度胸力が求められる場面は、大きく分けて2つあります。 1つは、初対面の相手や大人数、立場が異なる人に物事を依頼するなど、緊張する雰囲気の中で話す時です。もう1つは、言いづらいことをあえてはっきり言う時です。いじめや不当な扱いを受けた時に、「嫌だ」「やめて」とはっきり言うことには勇気が要ります。しかし、自分を正しく認めてもらい、自分の誇りが損なわれないようにするための自己主張は大切です。

2.論理力:筋道立てて考えをまとめる力
単語の羅列ではなく、まとまった内容を筋道立てて話すためには、自分が言いたいことをはっきりさせ、相手に分かりやすいように整理して話す練習が必要です。また、相手の話をうのみにしないで、自分のフィルターを通して考え、物事を適切に判断する力をつけることも大切です。

3.理解力:理解しながら聞く力
昔から 「聞き上手」というように、人は自分の話を聞いてくれる人を好む傾向があり、人の話をよく聞くことは、豊かな人間関係を築くことにつながります。また、相手の気持ちや考えを理解した上で発言しないと、いくら上手に話すことができても、内容が見当外れなものになってしまいかねません。

4.応答力:話に反応し、働きかける力
ただ黙って話を聞くのではなく、相手の話に反応して言葉を返してこそ、コミュニケーションが発展します。例えばお笑いの世界では、ひねりのある「ボケ」や「ツッコミ」ができる芸人が面白いと評価されるでしょう。応答力があるからこそ、会話が弾むのです。

5.語彙力:表現を豊かにする力
語彙力は表現力の土台であり、語彙力が高いほど豊かな表現ができます。より洗練した言い方、例えば「どいて」ではなく、「ごめん。よけてもらえる?」と言えることで、円滑な人間関係を築けるでしょう。

6.説得力:話したいことを相手に理解してもらえるように伝える力
自分中心的ではなく 、「相手にどう伝わるか」を考えながら話すことが大切です。言いたいことの優先順位を考えたり、あいまいな表現でなく、数字を使ったりして話すことは、大人はもちろん、子ども同士においても必要なスキルです。

7.プレゼンテーション力:アピールする力
顔の表情やしぐさ、口調、話の早さなどの声の出し方、姿勢といった、言葉以外のノンバーバルな表現力や、小道具を使うなどの工夫で、相手の印象が変わります。

コミュニケーショントレーニングで自己肯定感が高くなる

2003年に、子どもと保護者にコミュニケーション力をつけてほしいという思いから、NPO法人JAMネットワークを設立しました。08年からは、一般の家庭だけでなく、児童養護施設にも「ことばキャンプ」プログラムを提供する事業をスタートし、これまで関東圏を中心に全国118施設で実施しています。

「どうせ自分は……」などと言語化することを諦めていた子どもでも、「ことばキャンプ」プログラムを受ける中で自分の思いを言語化しようとするような変容が見られます。養育者からも、「受講後、自信をもって書いたり、話したりするようになった」「皆の前で発表できるようになった」といった報告を多数いただきました。

13年には、「ことばキャンプ」の効果検証のために大学院に入学しました。小児用QOL尺度、Kid-KINDLRを用いて、「ことばキャンプ」を通じた子どもの変化を測定する研究を始めたのです。研究の結果、「ことばキャンプ」を実施した子どもは、「自尊感情」の得点が有意に上昇することが分かりました。他の学術的な先行研究を調べても、ソーシャルスキルトレーニングを実施すると「自尊感情」が向上することを示した論文が複数ありました。自分の考えを持ち、それを言葉で表現して、他者とよいコミュニケーションが取れるようになることで、自己肯定感は高くなるのです。

小学生を対象とした「ことばキャンプ」の発表会にて。7つの力を伸ばすために「ことばキャンプ教室」でレッスンを重ねた子どもたちは、発表会で練習の成果を披露する。

自分を尊重し、相手を尊重する

「ことばキャンプ」で目指していることは、一方的に話す力を育てるのではなく、自分も相手も大切にして、人とかかわる力を育てること、つまり、「自尊他尊」のコミュニケーション力の育成です。自分のよさを知って自信を持つとともに、他者を尊重すること、つまり「自尊」と「他尊」の両方をバランスよく持つことが大切です。

そのため、「ことばキャンプ」ではまず、人の話を聞く練習「理解力トレーニング」をします。その際には、聞く態度を表す「聞く耳モード」や、「話す人の時間を大事にすること」をグランドルールとして徹底しています。また、「ことばキャンプ」の指導者も、よい聞き手であることにこだわっています。どんなに幼い子どもでも、その子なりの意思や気持ちがあることを指導者は信じ、まずは待ち、聞くことを意識しています。

子どもたちは、「聞いてもらった時の心地よさ」を味わうことで、他者の話をよく聞こうとするようになり、心地よい場があるからこそ、気兼ねなく話せるようにもなります。聞くことは相手を大事にすること、すなわち他尊であると理解するのです。

また、自分の心の中をのぞいて言葉にする「どっちにする?」ゲームを毎回します。例えば、「リンゴとバナナ、どっちにする?」と聞いて、どちらかを選ばせます。その時の気分でよいので、選んだ理由を自由に答えてもらいます。そのゲームを続けていくと、自分の心をのぞいて自分で決め、言語化することが身についていきます。そして、「ことばキャンプ」の指導者は、子どもが発した言葉を肯定的に捉えてフィードバックします。その積み重ねによって子どもたちは、自分の気持ちや考えを発言することは自分を大切にすること、すなわち自尊であると理解し、恐れずに言いたいことが言える力を育む「度胸力」トレーニングを重ねながら、自信をもって話せるようになってくるのだと思います。

家庭や学校でできること

コミュニケーション力は、個人の性格や能力だけに依存するのではなく、練習によって高めることができます。家庭でも、保護者が一方的に指示するのではなく、子どもと対話することを心がけてみてください。考えさせる質問を子どもにして、できるだけ子どもの答えを待ち、子どもの話に興味をもって聞いてあげてください。そうした日々の対話が、子どもの話すトレーニングになります。

学校における探究的な学びの場面などでも、自分が考えたことが受容されやすい雰囲気をつくることが非常に重要だと考えています。プレゼンテーションや論文の作成に必要なスキルの獲得だけでなく、子どものことを肯定的に見て、できていない部分よりもできている部分を褒めて励まし、価値づけるように助言していただけたらと思います。

さらに言うと、保護者も教師も1人の人間ですから、大人が自信を持って安心して子どもを導くことができる風土づくりも大切です。保護者は、教育の最前線にいる教師が力を発揮することができるよう、ぜひ教師への感謝を口にしたり、素晴らしいと思ったことを言葉にして教師に伝えたりするとよいと思います。自己肯定感が高く、他者を尊重することができる大人がいると、その受容的な雰囲気は子どもにも伝わります。

「自尊他尊」の気持ちが年齢に関係なく周囲の人に伝播し、日本全体のコミュニケーション力が高まることで、社会が元気になることを心から願っています。

(本記事の執筆者:神田 有希子)

髙取・しづか(たかとり・しづか)

JAMネットワーク前代表、「ことばキャンプ」主宰

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