「生徒の気づきと学びを最大化するプロジェクト」第131回 
「これからのキャリア教育のあり方について考える」開催

ベネッセ教育総合研究所では、中学校・高校の有志の教員らが教育について自由に語り合う「生徒の気づきと学びを最大化するプロジェクト」を、2020年4月から週1回のペースで実施している。2023年1月の第131回では、これからのキャリア教育をテーマとした対話会を行った。全国から参加した教員や教育関係者らが、キャリア教育のあり方について、グループごとに対話を深めた。

話題提供は、粉川雄一郎先生(茨城県立並木中等教育学校 教諭)。

様々な体験から自分を知ることもキャリア教育

対話会の冒頭では、話題提供者である茨城県立並木中等教育学校の粉川雄一郎先生が、日本の学校におけるキャリア教育についての問題意識を語った。
粉川先生はまず、キャリア教育の定義について、文部科学省では、キャリア教育を「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」としていると説明。その上で、中学校・高等学校におけるキャリア教育のあり方について、大学進学のための教育や受験勉強もキャリア教育に含まれるのかと、視聴者に問いかけた。
その後、粉川先生は、勤務校の教育活動について、次代の日本・世界の発展を担う「人間力」を備えたグローバルリーダーの育成を目指し、「科学教育」「国際教育」「人間教育」を柱としていると紹介。そのうちの「人間教育」において重要なのが、様々な経験から己を知ることだと語った。
「生徒は、数多くの活動を通して、人間性を磨いていきます。特に大きく飛躍する活動は、かえで祭(文化祭)、スポーツデイ(体育祭)、ウォークラリー(2日間にわたる長距離歩行)の三大行事です。生徒のみの実行委員会が、どうすれば皆が楽しめるか、アイデアを出し合い、運営を担います。当日に至る過程には、仕事に通じる点が多くありますし、生徒は自分の役割や得意分野に気づいていきます。そうした学校行事はキャリア教育に含まれると考えています」
次に粉川先生は、同校のキャリア教育について、コロナ前には、2年次には職業調べを行い、3年次には大学の学部・学科調べと茨城大学・筑波大学の見学会を実施していると説明。4年次以降には、大学の出前授業や大学見学会、OG・OBガイダンスなどを通じて、生徒はより具体的に進路意識を高めていくという。

課題探究を通して、自分のやりたいことを見つける生徒も

キャリア教育以外の活動の例として、同校の課題探究についても語った。課題探究では、2年次は、個人で興味のある職業について探究し、3年次は、学部・学科調べをしたり、グループで学校のあるつくば市の問題を考え、フィールドワークを行ったりする。
4年次からは、ゼミ形式で課題探究を行う。人文や国際文化、芸術、物理、生物、医学などの分野に、30のゼミを設置。教員は全員、ゼミに参加し、1ゼミあたり5~7人の生徒に対して、2〜3人の教員がつき、丁寧に指導している。
「4年次のテーマは、自分の問いを見つけることです。4~6月に実施するゼミツアーで複数のゼミを体験し、自分はどのような学問分野に興味があるのか考え、7月までに所属ゼミを決定します。その後、仮の研究テーマを考え、実証研究を行い、中間発表会や報告書作成を経て、年度末に5年次に取り組む研究テーマを決めます。そのように1年かけてじっくり研究テーマを考えるのが特徴です。5年次にはその研究テーマに取り組み、校内発表会を行い、最終的には論文を作成します。この課題探究を通して大学で学びたい問いに出合う生徒も多く、キャリアにつながる学びの1つになっています」と話した。

図1 並木中等教育学校1~3年次のキャリア教育

図2 並木中等教育学校4~6年次のキャリア教育

粉川先生の発表後、質疑応答が行われた。
ある参加者からは、「学校行事や課題探究など、様々な学びの機会が用意されていますが、それらの振り返りをまとめる機会はあるのでしょうか」と質問があった。
それに対して粉川先生は、「研修旅行では、活動を報告書にまとめさせています。課題探究では、2か月に1回、進捗状況の報告書を提出させています」と述べた。

続いて、粉川先生の話題提供を受け、グループごとに対話を行った。
大学教員から、「少人数のゼミは先生の負担が大きいと思いますが、先生方は、楽しんでいらっしゃいますか。知り合いの高校では、教員が生徒に自己アピールをし、それを踏まえて生徒は好きな教員のゼミを選び、探究活動に取り組んでいました。その学校の生徒が書いた論文は、非常に質が高いものでした。教員も生徒も、自分の好きな学びを楽しく深められるとよいと思います」という発言がった。
それに対して、粉川先生は、「私自身は、課題探究を楽しんでいます。生徒に厳しいコメントを伝えることも多いですが、生徒は熱心に取り組んでくれています。本校では、生徒が興味ある学問分野に関連するゼミを選びますが、生徒が教員を選ぶゼミを実施している高校の探究活動を見学したことがあり、そうした形態も楽しそうですね」と語った。

ほかの高校教員からは、「粉川先生の学校では、担当教科が異なる教員が複数人でゼミ担当していると聞き、非常によいと思いました。例えば、物理が専門の粉川先生のゼミでも、数学や化学など、他分野の先生がいることで、複数の角度から問いかけを生徒にすることが可能だと思いました」と感想を述べた。

正解が1つではないキャリア教育をどうデザインしていくべきか

その後、キャリア教育において、教員は何を生徒に伝えることが重要かという話題になった。
ある教育関係者からは、「会社員であれば、希望する部署以外にも配属されることがあります。そのため、やりたいことを見つけるだけでなく、自分の不得意なことを見つけたり、やりたくなくてもすべきことがあると気づいたりすることも、キャリア教育につながるのではないでしょうか」との発言があった。
また、高校教員は、「OG・OBの体験談はキャリア教育としてとても有効ですが、登壇者の経歴を多様にした方がよいと思っています。一般的には、優等生の卒業生が講演することが多いと思いますが、尖っていても自分で将来を考えてキャリアを築いている卒業生もロールモデルとして重要です。日本の学校は保守的であることが多く、キャリアも杓子定規に考えがちです。欧米のように、自由に考えられる風土にできないでしょうか」といった投げかけもあった。
ほかにも、「生徒が自分の学びを蓄積できるポートフォリオとは別に、生徒が積み上げたものに気づけるよう、教員が生徒の体験や活動を、価値づけるといった支援をできればよいと思いました。ただ、あまりやり過ぎてしまうと教員が生徒をコントロールすることになってしまうため、そのバランスが難しいと感じます」といった意見もあった。

最後に、プロジェクトの代表を務めるベネッセ教育総合研究所の小村俊平教育イノベーションセンター長が、次のように締めくくった。
「キャリア教育には、一人ひとりの生徒に決まったゴールや最適なプロセスがあるわけでもありません。重要なのは、自分で目標を決めて、その到達に向けて努力し続けることだと考えます。学校でのキャリア教育では、そうしたキャリア・マインドを生徒が持てるよう、支援することが大切ではないでしょうか。キャリア支援のステップには3段階あると思います。まず、生徒にしか答えが出せないため、自分で目標を見つけられるようにすること。そして、生徒が選んだ道を信じること。最後に、トラブルがあった際には助けることです。『キャリア教育とは何か』という問いに対しては、まだまだ議論の余地があると思いますので、また改めて本テーマについて深めていきたいと思います」

生徒の気づきと学びを最大化するPJ

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