幅広い領域で精力的に取材や執筆活動をされている、編集者・ライターの太田美由紀さんによる連載コラム「子どもと教員がいきいきと動きはじめる学校」です。
第3回は、「言われた通りにできる」けれども、「何がしたいかわからない」「自分で選べない」という子どもたちについて考えます。
※筆者プロフィールは末尾リンクから

「自分で選ぶ」ことが難しい子どもたち

本連載の第2回 子どもの声や様子に「応える」 では、子どもたちの思いや考え、アイデアや意欲を大切にはぐくむために、先生(大人)は何ができるかを考えました。

紹介した学級では、自由に自分の意見を表明できる安心・安全な環境が整っていました。「教員が子どもたちを信頼しているからこそ、子どもたちから信頼されている」という関係性があり、その関係性をつくるためにも、子どもの何気ない「つぶやき」に応え、その子の様子を観察することからはじめてほしいとお伝えしました。

「自分なりのやり方で進めてしまう」子どもたちが多いと、先生としては少し困る場面もあるかもしれません。しかし、「自分なりのやり方で進めてしまう」子どもたちは、主体的に学びに向かう意欲が高く、「自分で選ぶ」ことができるとも言えます。先生(大人)からの提案を自分で取捨選択し、自らのやり方で学びを広げていく可能性を持っているのです。

ここで、ひとつ疑問が出てきます。第2回で紹介した学級では、自ら積極的に課題に取り組み、学び方を「自分で選ぶ」ことができる子どもたちが多かったのですが、それが難しい子どもたちもいます。そんなときは、どうすればよいのでしょうか。

第3回となる今回は、「言われた通りにできる」けれども、「何がしたいかわからない」「自分で選べない」という子どもたちにフォーカスして考えていきたいと思います。
 

「何がしたいかわからない」「自分で選べない」の背景

探究学習が活発に行われるようになってきました。皆さんの学校で、「好きなことを探究していい」「自分のやり方でやってみよう」と声をかけたとき、「じゃあこれやりたい!」と言える子どもたちはどれくらいいるでしょうか。

この連載の第1回「できる・できない」からの解放で紹介した中学校では、週に1時限の総合的な学習の時間を、生徒が自分の「好きなこと・興味のあること」をテーマに設定する「探究」の時間としていましたが、実際には、自分でテーマを決めることができず何時間も友達の様子を見ているという生徒もいました。

今、「何がしたいかわからない」「自分で選べない」という子どもたちが増えています。幼い頃から豊富なおもちゃを与えられ、大人から遊び方を教えられ、習いごとなどのスケジュールも分刻み。与えられるばかりでは、本当は何がしたいのかがわからなくなっていきます。

家でも学校でも、「これしなさい」「あれはダメ」と指示を受けることが多く、「こうしなければならない」という無言の圧力に苦しめられています。自分で考えることを手放し、何をするにも先生や大人の許可を求める子どもたちもいます。

皆さんも子どもの頃を思い返せば、そんな子どもたちの気持ちがきっと痛いほどわかるはずです。どうせ許してもらえない、怒られたくない、失敗したくない、ほめられたい、認められたい——。空気を読むことができる子どもたちほど、周りの状況や人の気持ちを考えて行動するようになっていきます。それは、いいことばかりではありません。

かくいう私自身も、幼い頃そんな子どもでした。大人たちがどうすれば喜ぶかを察して行動し(今思えば嫌な子どもでした)、何をするにも自分の気持ちよりも親や先生が喜ぶものを選んでいた時期があります。例えば本当に小さなことですが、おばあちゃんが喜ぶからなんでも美味しいと言っておかわりしよう。お父さんに怒られるから全部頑張って食べよう。それを繰り返すうちに、お腹がいっぱいという感覚がわからなくなったことがありました。

子どもだけでなく、大人も同じです。教員同士、家族や企業、どんな組織でも同じことが言えるでしょう。周りから求められることだけでなく、あなた自身が本当にしたいことを、自分のやり方でできる状況にいるかどうかも、子どもたちに対する姿勢に大きくかかわっているはずです。
 

「自分で選ぶ」経験を重ねるサポートを

そのような環境の中で過ごす時間が長いと、自分の気持ちや自分の感覚が捉えられなくなってしまうことがあります。『学校とは何か』という本で取材させていただいた、学びの多様化学校や院内学級、特別支援学級などでは、まず子どもたちにとって安心・安全な環境を整えることが最優先ですが、次に先生たちが大切にしていることは、子どもたちが「自分で選ぶ」状況をつくることでした。

「決められない」「わからない」「先生決めて」「言われたことやったほうが早い」という子どもたちこそ、かかわりが必要な子どもたちだと、どの先生も話してくださいました。

まずは、その子自身が「何を感じているか」「何をしたいか」に耳を傾け、その思いを大事にしてあげることです。何かを選び、決めるときには、たくさんの中から絞り込む作業はとても大変です。話をていねいに聞きながら、一緒に選んでいく。時には選択肢を絞って一緒に考えてもよいでしょう。失敗しても大丈夫、一度選んでも変えられるという環境づくりも決断につながります。

過剰に干渉したり誘導したりせず、放置するのでもなく、見守る時間も必要です。選べないときに無理に決断を迫らない。他の人の様子を見る時間を持つ。遠巻きにみんなの様子を見ながら、自分の気持ちや思いに意識を向ける時間をつくる——。

また、体調が悪いときや何か不安があるときなどは、誰でも「自分で選ぶ」ことが難しくなります。皆さんも、疲れているとき、追い込まれているときに大事な決断をすることは難しいはずです。

このようなかかわりは、通常の学級の子どもたちにも、子育てにも欠かせません。「主体的・対話的で深い学び」を実現させるためには、「自分で選ぶ」ことができる状況が必要です。言われたことを言われた通りにやるよりも、自分で選んだことを自分のやり方でやってみたほうが面白いという実感は、経験を重ねなければわからない。そのためには、一つずつ階段を登っていく必要があります。

このように、自分のことを大事にしてもらった経験を重ねた子どもたちは、他の人たちの気持ちや意見も大事にできるようになっていきます。「自分で選ぶ」ことができる子どもたちを育むかかわりは、すべての子どもたちにとって安心・安全な学級経営にもつながっていくことを、取材させていただいたいくつもの現場の子どもたちが教えてくれました。
 

 
第4回 「自分らしさ・好き」を伸ばす は、9月26日に公開予定です。
苦手に注目して克服させるのではなく、得意なことや好きなことに注目して伸ばすことについて考えます。

 

※本連載は、太田氏が学校取材を担当した以下書籍より再構成したものです。詳しい事例については書籍をご参照ください。

『学校とは何か 子どもの学びにとって一番大切なこと』(汐見稔幸 編著)
本体価格 1,000円(税別)、出版社 河出書房新社
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309631769/