2022年7月20,21日の2日間にわたり、2都県4校(郁文館グローバル高校、上野学園高校、岡山学芸館高校、順天高校)による「探究学習」をテーマにした学習交流会が開催されました。この会は、もともと情報交換をしていた教員が中心となり、生徒同士の学び合いとして企画されたものです。参加校の多くがベネッセSTEAMフェスタへの参加常連校ということもありお誘いいただき、見学してきました!

学習成果で交流するより、学習過程で交流したい

探究学習交流会の企画背景を、岡山学芸館高校の木下秋先生にお聞きすると、次のように仰いました。「探究学習の発表成果会は、校内外でたくさんあります。しかし、そのような機会で反対からフィードバックをもらっても、探究学習は一押しだったので、生徒としては反論と感じていました。そこで、途中段階のものを持ち寄り、お互いにしあえる機会を作れればと考え、企画しました」。

順天高校の藤井健太先生、尾近裕明先生にも企画に賛同した経緯をお聞きすると、次のように仰いました。「本校は2015年度のスーパーグローバルハイスクール校の指定等もあり、長く探究学習に取り組んできました。その中で、生徒同士がフィードバックし合える機会を大切にしてきました。しかし、どうしても自校生同士のフィードバックでは、出てくる意見や考え方が限定的でした。多様性を受容し、活かせる生徒になってほしいという願いもあったので、バックグラウンドの違う他校生徒と交流できると聞き、二つ返事で賛同しました」。

予想外のフィードバックが発想を広げる1日目

初日となった7月20日は、以下の流れで順天高校にて開催されました。
①アイスブレイク・校内見学(1グループ5人で、校内見学をしながら自己紹介)
②セッション1(取り組み中の探究学習を順番にプレゼンし、フィードバック)
③セッション2(グループを再編成し、再度プレゼン・フィードバック)
④クロージング(各校代表生徒/先生が1人ずつ感想シェア)

アイスブレイクと校内見学が終わると、いよいよメインセッションです。生徒一人一人がデバイスを取り出し、自分の探究学習のテーマ、進行状況、うまく進められず困っていることをシェアしていきます。例えば、岡山学芸館高校の小早川初音さんは、次のような発表をしていました。

■テーマ
日本は低所得国に対する経済支援を長く行っている。にも関わらず、なぜ支援対象国における教育格差は無くならないのか?

■進捗状況
低所得国内の教育格差に問題意識を持ち、政府やNPOなどの資料を中心に実態把握を進めてきた。その過程で、1950年代から日本は政府開発援助(ODA)として多額の資金援助を行っているにも関わらず、一向に改善されていないことに気がつき、問題意識を持った。次の行動としては、紹介してもらったセネガル出身の方にインタビューをし、現地の様子をより具体的に知ろうと考えている。

■困りごと
インタビューの機会に、何をヒアリングするべきか決めきれていない。

引用元:小早川さん発表より

この発表に対して、同じグループになった他校の生徒からは「そもそも、なぜ低所得国の教育格差に注目したんですか」「インタビューする方の学習経歴をもう少し教えて欲しい」「セネガル以外の国のご出身の方にインタビューはしないのか」など、質問や感想、アドバイスが矢継ぎ早に投げかけられていました。

発表する小早川さん(岡山学芸館高校)。低所得国の教育格差を調べるうちに、「なぜ日本は多額の資金援助を行っているにもかかわらず、状況が改善しないのか?」という問いを持った。

また、順天高校の渡辺美有さんは、次のような発表をしていました。

■テーマ
日本語学習者と話すとき、相手の理解を促すために最も意識すべきことは何か?

■進捗状況
日本語を学習している留学生を支援したいという想いから、ボランティア活動で”やさしい日本語”を使うようにした。しかし、想像以上に伝わらず、「日本語学習者にとって、"やさしい日本語"は本当にやさしいものになっているのだろうか?」という問題意識が生じた。今後は、日本語学校のスタッフの方や、実際学習中の留学生へのヒアリング等を検討している。

■困りごと
定量調査のイメージが持てておらず、「日本語学習者と話す時に最も意識すべきこと」をどう特定すべきかが定められていない。

引用元:渡辺さん発表より

この発表に対しては、他校の生徒から「すでにボランティア活動の中で実践している点が素晴らしい」「留学生向けのアンケートを作成しているかどうか」などが投げかけられていました。

発表する渡辺さん(順天高校)。日本語学習者と話した際の、想像以上に自分の日本語が伝わらない体験が今回のテーマに繋がった。

最後のクロージングでは、各校から1名ずつ、今日の学びに関する振り返りを述べました。順天高校からは中山田直穂さんが、参加者全員に向けて次の感想をシェアしました。

「自分で考えるだけでなく、様々な視点を持つ人同士で交流することで、考えてもいなかった気づきが生まれることをみなさん実感したのではないでしょうか。疑問など、『新しい何か』を見いだせることは、私は素晴らしいと思う」

引用元:中山田さん振り返り

終了後、記念撮影をする小早川さん(岡山学芸館高校)と中山田さん(順天高校)。「SNSで継続的な交流が出来るからこそ、このような出会いの機会は貴重です」と話す。

「探究学習に取り組む意味・意義は何か?」を考える2日目

2日目の7月21日は、郁文館グローバル高校で以下の流れで開催されました。
①アイスブレイク・校内見学(1グループ5人になり自己紹介。その後校内見学)
②グループディスカッション(探究学習はどのような意味があるか?他2つ)
③クロージング(各校代表生徒/先生が1人ずつ感想シェア)

2日目のメインイベントは、グループディスカッションです。郁文館グローバル高校でのNIE*の取組みをベースに、参加校の生徒同士がグループに分かれディスカッションを行いました。

主なディスカッションのテーマは「高校生が、探究学習に取り組む意味・意義は何か?」です。5-6人程度のグループに分かれ、割り振られた教室に移動後、郁文館グローバル高校の生徒の進行でディスカッションは進みます。先述の「高校生が、探究学習に取り組む意味・意義は何か?」については、様々な意見が聞かれました。以下がその中の一例です。
*NIE=Newspaper In Education

・自分のやりたいことを追求できる時間。
・興味があり、卒業後も続けたいことを確認できる。
・専門的な勉強を行う大学に入る前に、その準備ができる。
・興味があることへ自分の考えを表明できるし、他人の考えにも触れられる。
・やりたくなくてもやらないといけない勉強に対して、やりたいからやる学習。
・社会に出た際に使える力が身につく機会。

引用元:ディスカッションで出た「探究学習の意味・意義」

「高校生が、探究学習に取り組む意味・意義は何か?」をディスカッション。デバイス上で様々な意見が可視化され、1人1人の更なる気づきが促される。

ディスカッションを進行した郁文館グローバル高校の杉下アンヘリカ実結世さん(左)と、渡邉杏梨さん(右)。杉下さんは「日々生活している環境の違いで、これだけ意見が違うのかと驚いた。意見を俯瞰して聞ける面白さに気付いた」と話す。また渡邉さんは「様々な意見を自分なりに言語化してまとめ、また全体に還元していく事の難しさと醍醐味の両方を感じた。もっと上手くできるようになりたいし、上手くできたらもっと楽しめると思う」と振り返った。

最後のクロージングでは、初日と同様に、各校から1名ずつ、今日の学びに関する振り返りを述べました。岡山学芸館高校の寺本陽太さんは、「他校の皆さんは、自分の意見を持っている人が多く、素晴らしいと感じたし、そうなりたいと感じた。私の学校の中でも、今日参加していない仲間もいる。だから、私は学校に戻ってから、自分の意見を持ち、表明することの大切さを、学校に伝播していきたいと感じた」と述べた。

岡山学芸館高校の寺本陽太さんは、他校の生徒の姿に大きな刺激を受けた。

また、上野学園高校の寺澤雅さんは、「半日の交流や校舎見学をする中で、集まった学校は全く環境が異なることを強く感じた。だからこそ、視点が異なっているとも感じた。異なる視点を持ち寄り、対話をすることで、見方が転換されることを実感した」とまとめました。

上野学園高校の寺澤雅さんは、「環境の違いが視点の違いを生み、視点の違いが見方の転換を生むことを実感した」と話した。

多様な視点が、多彩な気付きを生む

2日間にわたる交流の中で、1人1人の生徒に”多様な視点による多彩な気付き”があったようです。そして、その気づきの重要性を、多くの生徒が実感しているように見受けられました。

さて、本交流会から学校関係者が学べることは何でしょうか。例えば、「その学校だからこそ育めること」と「1校では難しいこと」を整理し、カリキュラムを設計することの重要性を学ぶことができます。実際にOECD Education 2030 では、「教育は多くのステークホルダーを含めた一つのエコシステム」と表現されており、学校間連携はエコシステムの1つの姿と捉えることが出来るでしょう。このレポートが、各校の探究学習の質向上はもちろん、カリキュラム見直しなどにも繋がることを期待しています。

なお、2022年度も3月にベネッセSTEAMフェスタを開催予定です。ベネッセSTEAMフェスタは2011年の実施以来、学校間連携を支援してきました。多くの学校にご参加頂ければ幸いです。昨年度の様子はこちらからご覧ください。