宮城県仙台第三高等学校立命館宇治中学校・高等学校(京都府)は、生徒の資質・能力の育成を目的に、2021年度から合同授業を実施しています。2022年度は、国語の和歌と文学の単元で、オンラインによる合同授業が行われました。本記事では、合同授業を始めたねらいや、合同授業を通じた生徒の成長などについて、2校の先生方に伺いました。

■お話を伺った先生 
宮城県仙台第三高等学校
佐々木克敬校長、板橋淳先生、佐々木遥子先生(担当:和歌)、
佐々木美紀先生(担当:文学)、安部綾夏先生(担当:文学)

立命館宇治中学校・高等学校
稲垣桃子先生(担当:文学)、浅野李帆先生(担当:文学)、
松崎樹奈先生(担当:和歌)、酒井淳平先生

合同授業を実施した背景 ~探究学習に力を入れる2校が協働して、教科の授業での探究学習に挑戦!~

宮城県仙台第三高等学校と立命館宇治中学校・高等学校は、ともに探究学習に力を入れている学校です。両校は、全国の教員が参加するオンライン勉強会を通じて知り合い、2021年12月、国語の近代の文学作品を題材に合同授業を行いました。そのねらいは、他校の生徒との交流を通じて生徒が視野を広げ、自分の考えを深められるようにすることです。

宮城県仙台第三高等学校の佐々木克敬校長は、合同授業を始めた経緯を次のように説明します。
「本校と立命館宇治中学校・高等学校は、探究を軸としたカリキュラム・マネジメントを行っており、以前から他校の生徒との交流授業を実施したいと考えていました。本校はSSHの指定校で、理数科に加えて普通科でも探究学習を推進していますが、教科の授業でも探究学習をどう根づかせるかが大きな課題でした。特に文系教科では、理系教科ほど十分に探究学習に取り組めていませんでした。そうした折、立命館宇治中学校・高等学校の稲垣桃子先生から、国語科に探究学習にふさわしいテーマがあると伺い、オンラインで合同授業を実施することにしました」

合同授業の内容 ~生徒が意見を出し合い、和歌の完成度を高め、近代文学に対する問いを深める~

2022年度は規模を拡大して、和歌と文学の単元で、オンライン会議システムを利用して合同授業を実施しました。
和歌の授業では、授業の目的を明確にし、有効な交流方法を検討するために、両校の教員に生徒役として参加してもらい模擬授業を実施。その結果を踏まえて、両校で話し合い、単元目標を設定しました。

【合同授業の概要】
■和歌
実施学年:宮城県仙台第三高等学校2年生、立命館宇治中学校・高等学校3年生
単元名:地域を結ぶ歌枕を創作しよう
単元目標:
・それぞれの地域特性の理解を通じて、ものの見方、感じ方、考え方を広くし、豊かな感情を育む。
・歌枕と和歌の創作活動を通じて、より効果的な表現や語句の使い方を工夫することができる。
授業時数:単元の全6時間のうち、合同授業は2時間。
授業の進め方:各校3人ずつ計6人を1班とし、14班に分かれて、グループワークに取り組んだ。
1.授業の目的を確認し、歌枕について学ぶ授業動画を視聴。
2.班ごとに、それぞれ自分たちの住む地域(仙台第三高等学校は宮城、立命館宇治中学校・高等学校は京都)について調べ、オリジナルの歌枕を考える。
3.班内で考えた歌枕を相手校と交換。もらった歌枕を用いた和歌を、自校のメンバーと話し合って創作し、班内で共有する。
4.相手校からその歌枕にした意図を聞いて、和歌を推敲する。
5.完成した和歌を見た感想と、自己評価・相互評価を入力。

鳴り響く西陣の声応仁に六百(むほ)の時経てつむぎゆく今

引用元:仙台第三高等学校の生徒作品

ふる日の出まつ風吹くは金華山神鹿見れば愛の嘶き

引用元:立命館宇治高等学校の生徒作品

■文学 ※授業の様子は前回の記事をご覧ください
実施学年:宮城県仙台第三高等学校1年生(言語文化)、立命館宇治中学校・高等学校2年生(文学総合)
単元名:学問的な視点から近代文学を解釈しよう
単元目標:
・我が国の言語文化への理解につながる読書の意義と効用について理解を深めている。
・作品の内容の解釈を踏まえ、自分のものの見方、感じ方、考え方を深め、我が国の言語文化について自分の考えを持つこと。
・視点を明確化した上で作品を解釈したり、感じ方、考え方を深めたりしようとしている。
授業時数:単元の全8時間のうち、合同授業は3時間。
授業の進め方:各校2人ずつ計4~5人を1班とし、22班に分かれて、グループワークに取り組んだ。
1.近代の文学作品(11作品)の中から、班ごとに両校のメンバーで話し合って1つの作品を選び、夏休み中に読む。
2.班ごとに、読んだ感想や疑問点を出し合う。
3.生徒個々に、作品について学問的な視点(心理学や社会学、法学など)から問いを立て、考察する。
4.班ごとに、自分の考えた問いと、問いについて調べた結果を共有し、意見を述べ合う。5.班で出てきた意見を踏まえて、生徒各自で問いや考察を深め、ポスターにまとめる。
6.班ごとに、発表会を実施。相互に感想を述べ合う。

題材とした文学作品
太宰治『走れメロス』、芥川龍之介『羅生門』『芋粥』、夏目漱石『夢十夜』、太宰治『「人間失格』『斜陽』、宮沢賢治『オツベルと象』『風のまた三郎』、菊池寛『マスク』、樋口一葉『たけくらべ』、泉鏡花『高野聖』、谷崎潤一郎『痴人の愛』

「痴人の愛」×教育学 譲治のナオミに対する教育は適切なものだったのか

引用元:仙台第三高校の生徒作品

「羅生門」×経済学 どうすれば飢饉や災害が発生する世の中において貧しい思
いをせずに下人たちは暮らすことができたのか

引用元:仙台第三高校の生徒作品

「高野聖」×恋愛心理学、人間科学、仏教学 
なぜ僧は嬢様の元に戻りたいと思うほど彼女に惚れ込んだのか
〜恋愛心理学、人間科学、仏教学から考える〜

引用元:立命館宇治高校の生徒作品

「人間失格」×法哲学、倫理学
なぜ、『罪の対義語は罰である』という理論が葉蔵にとって腑に落ちたのか

引用元:立命館宇治高校の生徒作品

生徒の学びの様子と成長 ~相手の思いを意識して、古典や文学に意欲的にかかわる生徒たち~

合同授業を通じて、生徒は何を学び、どのような変化があったのでしょうか。

和歌の授業を担当した立命館宇治中学校・高等学校の松崎樹奈先生は、次のように述べました。
「本校には古典を苦手とする生徒が少なくありませんが、合同授業では、多くの生徒が積極的に宮城について調べ、宮城県仙台第三高等学校が提示した歌枕の意図を考えるなど、古典に歩み寄っていました。生徒のそうした姿をうれしく感じました」

宮城県仙台第三高等学校の安部綾夏先生は、授業後、生徒に取ったアンケートを見て、「文学や現代文、古典が得意ではない生徒も、これまでよりも深い振り返りができていました」と、生徒の変化を語りました。
同校の佐々木遥子先生も、「京都に住む高校生と歌枕や和歌をやり取りして、授業のねらいである地域差や感性の違いを、生徒は体感しているようでした。また、古典文法をうまく活用しながら、私たちが驚くほどの熱量のある和歌を創作した生徒もいて、生徒の創造力の素晴らしさを感じました」と、述べました。

宮城県仙台第三高等学校の板橋淳先生は、授業後、両校の生徒にインタビューを行い、その内容を分析しました。すると、互いに相手から提示された歌枕の意図を汲み取り、和歌を創作していた班があったと言います。
「相手の地域についてしっかり調べたからこそ、歌枕に込められた意図を理解することができたのでしょう。他地域の高校生との交流を通して、そこに住む人にしか分からない視点に触れ、和歌をさらによいものへと推敲していました。この授業の意義を感じました」

文学の合同授業を経験して、宮城県仙台第三高等学校の佐々木美紀先生は、国語における探究の意義を実感したと述べました。
「生徒からは『今までは読み飛ばしていたことに対しても、疑問を持つようになった』『もっと文学作品を読みたくなった』という声が寄せられました。他校生との交流が、視野の広がりにつながっていました」

単元の課題だったレポートにも生徒の変化が表れていたと、授業を担当した立命館宇治中学校・高等学校の浅野李帆先生は話します。
「私は合同授業を行ったクラスと行えなかったクラスの2講座を担当しているのですが、合同授業を行ったクラスは、とくに問いのレベルが一段階高く、表現力が伸びていることがうかがえました」
安部先生も、合同授業が他の教育活動にもよい影響を与えていると言います。
「本単元の間に研修旅行があり、研修先の地域の人たちにインタビューをする活動があったのですが、そこでの生徒の様子を見ると、相手の言葉をしっかり傾聴し、相手の言葉を受けて話していました。生徒が他者を意識した聞き方、話し方をできるようになったのは、他校生との合同授業のおかげだと思いました」
すると、浅野先生は、その意見に大きくうなずき、「同じ学校の生徒同士では、普段の関係性に甘えてしまうことがありますが、今回は他地域の一学年下の高校生との交流だったので、自分たちがリードしなければならないと感じていたようです。グループワークでは、自ら積極的に話を進める姿に、生徒の成長を感じました」と述べました。

次年度への課題と展望 ~合同授業を継続し、教科における探究学習の可能性を追究したい~

生徒からは合同授業の継続を望む声が多く寄せられており、次年度も合同授業を実施する予定です。
今年度の合同授業を踏まえ、次年度の展望について、立命館宇治中学校・高等学校の稲垣桃子先生は、次のように語ります。
「教員の問いかけを基に読解を進める『国語』の授業と、自ら問いを立てる『探究』の授業とは一見相性が悪いようですが、今回のように授業内に探究の要素を組み込むだけで生徒の読解の幅が大きく広がりました。今後も生徒に伴走をしながら、『国語はこんなに面白いんだ』と、多くの生徒が気づく授業を展開していきたいと思います」

佐々木美紀先生も、今年度の合同授業で浮かび上がった課題を、次年度では改善したいと話します。
「文学の合同授業は、実施学年が1年生と2年生と異なっていたため、学習評価の評価規準は2校で違うものとしていました。生徒の自己評価を見ると、文学を学問的視点で探究したことに学びを得られた生徒がいる一方で、スライド作成や発表に力を注いだという生徒が多く見られ、両校で開きが生じました。次年度は互いの高校の目指すべき能力の育成及び評価方法を確認して、双方で重点項目を把握して進めていきたいと思います。」

宮城県仙台第三高等学校の佐々木遥子先生は、「本校も引き続き、国語の授業で探究学習を行い、多くの先生が実践できる手法を開発していきたいと思っています他教科が行う探究学習のアイデアを、国語の授業でも活用できるよう、他教科の先生とも交流していきます」と話した。

そして、最後に佐々木克敬校長は、「合同授業を出発点として、両校の教員交流と生徒交流につながり、2022度は、本校の2年生が修学旅行で立命館宇治中学校・高等学校を訪問し、生徒と教員のリアルな交流が実現しました。今後も両校の交流を続け、探究学習を深めていきたいと思います」と、今後の意欲を語りました。

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