拡大し続ける「年内入試」のプロセスを通して
いかに生徒の成長を促すか

2023年1月11日、「『生徒の気づきと学び』を最大化するプロジェクト」(事務局・ベネッセ教育総合研究所)の主催により、「今年度の年内入試から、これからの高大接続を考える」をテーマとしたトークライブがオンラインで開催された。現在、高大接続改革により、多くの大学が、多様な入学生を求めて、総合型選抜と学校推薦型選抜、いわゆる「年内入試」を拡大している。そこで、今年度の年内入試の動向を振り返りながら、これからの大学入試に求められる進路指導について多様な論点から意見を交わした。

■登壇者
静岡県 静岡雙葉中学校・高等学校 教諭 木村 剛
神奈川県 湘南学院高等学校 教諭 行方 昭二
教育ジャーナリスト 後藤 健夫

■モデレーター
ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター長 小村 俊平

左上/木村先生 右上/行方先生 左下/後藤氏 右下/小村

年内入試を突破する生徒の特徴とは?

現在、私立大学進学者の約6割が、学校推薦型選抜・総合型選抜といった年内入試で入学し、国公立大学も年内入試の募集枠を広げている。モデレーターを務めたベネッセ教育総合研究所の小村俊平教育イノベーションセンター長は、そうした大学入試の変化を踏まえ、「『進路指導はどう変わるべきか』『教員や生徒は何を心がけるべきか』といった観点から考えを深めていきましょう」と、トークライブをスタートさせた。

最初に、登壇者の2人の高校教員が、勤務校における年内入試の利用状況を説明した。行方昭二先生が勤務する湘南学院高等学校では、大学進学者の7割が年内入試を利用し、難関の国立大学に積極的にチャレンジする生徒が年々増えている。一方、木村剛先生が勤務する静岡雙葉中学校・高等学校では、年内入試の受験者は3分の1程度で、そのうち半数は指定校制の学校推薦型選抜だ。

そして、年内入試を前向きに活用する生徒の特徴は、2人とも、「早い段階から目標が明確な生徒」と意見が一致した。「1年生の頃から大学について調べて、着々と準備を進めていく生徒の多くは、初志貫徹で志望校に進学していきます」と行方先生。その発言に同意した木村先生は、「確かに、そうした生徒は自分で勝ち取ったという前向きな気持ちで進学していきます。逆に、『進路を早く決めたい』というだけの生徒は、結果的に苦しい結果となる場合がよく見られます」と述べた。

数学が苦手だが宇宙に興味のある生徒にどう指導する?

小村教育イノベーションセンター長は、早い時期から準備を進める大切さに同意する一方で、「限られた情報の中で、本当に行きたい学部・学科を見つけられるのでしょうか」と疑問を呈した。教育ジャーナリストの後藤健夫氏は、「高校生はまだ知らない世界が多く、本当のところでは難しいかもしれません。だからこそ、教員が思考を揺さぶる指導が大切ではないでしょうか」と提案した。

それに対し、木村先生は、生徒のやりたいことを受け止めて指導する難しさについて言及。「例えば、数学が苦手だけれども宇宙に興味がある生徒が文理選択で迷っている場合、本人の意欲や伸びしろをどう判断して指導するかは、難しい問題です。突き詰めると、進路決定の責任を誰が持つのかという話にもなります」と語った。小村教育イノベーションセンター長は、「入試対策の助言はできても、どの大学に行くべきかという指導は難しいですね」と同意。それを受けて、行方先生は、「その難しさの背景には、『東大に合格すれば安泰』といった単純な価値観ではなくなったことも大きいはずです。価値観が多様化する中で自分なりの『正解』を見つけるためには、丁寧に面談をしたり、オープンキャンパスや出前授業に参加させたりと、できるだけ多くのきっかけを提供することがより重要になります」と提案した。

年内入試対策は、生徒と担任の二人三脚

年内入試には、一般選抜とは異なる対策が求められる点について、行方先生は「一般選抜での支援は、模擬試験での合格判定を一つの基準にできますが、そうした判断材料がない年内入試の支援は、教員の経験や勘に頼る部分が大きくなります」と指摘。そのため、学校全体がチームとして支援する体制づくりが課題だと語った。「年内入試の準備は、生徒と担任の二人三脚で行う性質が強く、教員の経験や熱意によって結果が左右される場合があります。しかし、それでは学校への信頼にかかわります。年内入試に必要な手続きや心構えをまとめた冊子を作成し、教員間でノウハウを共有しています」と話した。

木村先生は、年内入試に関する書類作成の負担を課題に上げ、「書類作成を効率的に進めるために、デジタル化が求められます」と提案した。後藤氏は、「調査書や志望理由書は事実さえ明確なら、美辞麗句を並べる必要はありません。例えば、箇条書きでも問題ないと、大学や文部科学省が発信してくれるとよいのですが」と述べた。さらに、行方先生は、「小論文指導などで国語科教員の負担が大きい状況で、その解消も課題です」と説明した。

学問だけでなく、学び方にも目を向けた大学選びを

ここまでの議論を踏まえ、視聴者から意見や感想が出された。

「生徒と大学とのマッチングでは、学問内容も大切ですが、学び方そのものに目を向けてほしいと思います。例えば、探究活動に夢中になった生徒であれば、学生の主体的な探究や研究に力を入れる大学でなければ、ミスマッチが生じます」(大学教員)

「高校時代に探究活動で取り組んだテーマを大学でも学びたいとアピールする生徒は大勢いますが、18歳の時点でそこまで決めてしまうと、可能性を狭めてしまう恐れがあります。探究活動を通して内面を掘り下げつつ、多様なものを取り込める柔軟な思考を持ってほしいと思います。また、自分はどういう者であって、何を考えているかを主張できるようになることを、大切にしてほしいです」(大学教員)

「総合型選抜は、よくも悪くも、教員の影響が大きくなりやすいと思います。教員が攻略に走ると、大学側が求める生徒を育てられているのかと、疑問を感じます」(高校教員)

「私の周りには、偏差値や大学名で大学を選ぶ生徒と、自分の興味を重視する生徒の両方がいます。どちらの価値観も分かるので、『自分はどうするか』と考えると、難しい問題だなと思っています」(高校2年生)

年内入試のプロセスを通して生徒の成長を促す

最後に、登壇者が議論を通して考えたことをコメントした。

木村先生は、年内入試を生徒の成長に結び付けるという視点で、「人生100年といわれる時代において、自分の強みを見つけて伸ばせる仕組みを学校が提供し、それが入試の結果にもつながるとよいと考えています。そのために、学校側も探究を続ける必要があると思いました」と語った。

行方先生は、学力について改めて考えるきっかけになったと話した。「社会が大きく変容する中で、大学入試も過渡期にあります。だからこそ、『学力とは何か』を考え続けることが必要です。そして、一人ひとりのウェルビーイングをどう達成するかを、教育関係者はもちろん、誰もが考えていければと思いました」と期待を込めた。

後藤氏は、日々の授業の大切さに言及した。「授業での対話の質を高めることは、年内入試に対応する力を育むために大切なポイントだと思います。よいインプットとよいアウトプットを重ねて、対話の質が高まると、面接の練習なども不要になるでしょう。また、大学側に対しては、アドミッションポリシーなどで、『ここを評価するよ』と、より明確に公表していただきたいとも感じました」と提言した。

また、チャットでは、後藤氏と大学関係者の間で、「AIが志望理由書を書く時代」への対応として、面接を重視すべきだと語られていた。

年内入試を捉える3つの視点とは?

小村教育イノベーションセンター長は、議論を通して印象に残ったことを、次の3つの視点から述べた。

1つは、大学入試に限らず、評価には主観が入り込む余地があることだ。評価者の主観はブラックボックスになりやすく、そこを正解主義的な考え方で攻略しようと試みると、たいてい徒労に終わりやすい。「それよりも、自分が取り組んできたことをどう表現すれば評価されるかを考えつつ、それで通らなければ、『ほかに私を認めてくれるところがある』と、素早く気持ちで切り替えることが大切ではないでしょうか」と述べた。

2つめは、「マッチング」が落とし穴になりやすいことだ。「自分にぴったりはまる出会いは、実はそう滅多にありません。そう考えると、年内入試というプロセスを通じて、生徒をどう成長させるかを重視した方がよいのでは? その方が、結果も伴うのではないかと考えます」と提案した。

3つめは、年内入試が、周囲の応援に左右されることだ。「生徒本人のコンピテンシーに加え、学校や保護者、さらに地域や企業などの支援体制が重要になると強く感じました。そうした支援体制をエコシステムと捉えることで、年内入試はよりよい方向に変わっていくのではないでしょうか」と締めくくった。

登壇者に加えて、様々な立場や年齢の視聴者から活発に意見が寄せられ、年内入試を軸として幅広いテーマで議論をする場となった。ベネッセ教育総合研究所では、今後も多様なテーマを取り上げてトークライブを継続していく。

■視聴者からの意見・感想

◎高校での探究活動の成果を「実績」としてアピールするのではなく、生徒が探究活動を通じて得た知見や感性、疑問、関心をすべて出し切れるような課題を、大学が提示すべきだと思いました。そうすれば、うまく話せる、書ける、華やかな実績以外を、主観的評価できるのではないでしょうか。

◎「学問に向き合うとは、こういうことなのか」と分かった状態で大学に進学すると、学問を楽しんでいるが多い。

◎大学入試や大学の価値を、生徒自身が決めることが大切なのだと、改めて思いました。

◎受験生と大学が対等な関係を築き、主観的評価に基づいた入試を行うことが大切だと思いました。高校と大学の対話をもっと増やす必要もありそうです。

生徒の気づきと学びを最大化するPJ

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