学校改革で求められるリーダーシップとは?

2023年3月22日、「『生徒の気づきと学び』を最大化するプロジェクト」(事務局:ベネッセ教育総合研究所)の主催により、「学校改革を進めるリーダーシップを考える」をテーマにトークライブがオンラインで開催された。児童・生徒の未来を見据えて、教育活動の改革に取り組む学校が増えているが、その実施に際して、ビジョンの策定や組織体制の構築、教育活動の改善など、課題は多岐にわたる。そこで、長く管理職としてリーダーシップを発揮して学校改革を推進してきた2人の校長を迎え、学校改革におけるリーダーとしてのあり方や哲学、実践を語ってもらった。

左上/林校長 右上/佐々木校長 下/小村

■登壇者
北海道札幌北高等学校 校長 林 正憲
宮城県仙台第三高等学校 校長 佐々木 克敬

■モデレーター
ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター長 小村 俊平

様々な高校での勤務経験から、学校経営で大切にしていることとは?

これまで「『生徒の気づきと学び』を最大化するプロジェクト」では、様々な教育現場の課題について対話を重ねてきたが、組織として課題に向かうには、校長のリーダーシップが重要になる。そこで、今回は、リーダーシップをテーマに取り上げた。
最初に、登壇者の2人が、これまでの教職歴と、自身が学校経営において大切にしていることを紹介した。

北海道札幌北高等学校の林正憲校長は、社会科の教員で、教職歴35年の間に都市部や郡部、進学校や教育困難校、専門学校と、地域も生徒の希望進路も様々な高校に勤務してきた。教頭・副校長は3校で、校長は3校で務め、「町づくり」「若手育成」「探究学習」といったキーワードで学校づくりを推進した。

そして、校長として、学校経営において次の5つを大切にしていると説明した(図1)。

図1 林校長が学校経営で大切にしている5つ

「1つめは、OODAです。これは、Observe(観察)、Orient(状況判断)、Decide(意思決定)、Act(実行)の頭文字をとった業務改善に役立つ考え方ですが、私は学校改革・改善に取り組む際に、まずは自分自身でよく見て、よく聞いて、現状を適切に把握することを心がけています。外から見たイメージや固定観念に捉えられがちだからです。そこを起点として、方向づけ、決定するべきです。2つめは、探究的な経営です。悩ましいことはありますが、悩みから問いを立ち上げ、仮説をつくり、チャレンジします。3つめは、学びです。人から、本から、インプットし、発酵・熟成させ、アウトプットして、また気づく。学校経営のヒントになります。4つめは、5W1Hです。この問いを自分にも他人にも突きつけます。そして、経営の中心にあるのは、対話の場をつくること、パーパス(目的・存在意義)と『それはこれだ!』の共有化です。」

宮城県仙台第三高等学校の佐々木克敬校長も、教職歴35年間で、定時制高校や専門学科を有する高校、SSHの指定校など、様々な高校に勤務してきた。担当教科は理科(化学)で、各校でソフトボール部の顧問も務め、単位制高校の開設にも携わった。
キャリアの転換期となったのは、宮城県教育庁高等教育課で指導主事をしていた際に、東日本大震災が起きたことだった。「大勢の人たちに助けていただき、人とのつながりが教育を考える上で非常に重要であることを実感しました。本県では、震災の経験を踏まえて、高等学校においては全国で2番目となる防災の専門学科が設置されましたが、その立ち上げに教頭として関わりました」と振り返った。

そして、2校の校長を務めた経験から、学校経営で大切にしているポイントとして、教職員、予算、時間、環境の4つを挙げた(図2)。中でも大切にしているのが、教職員と面談を行い、適性に合った業務を任せて、意欲を引き出すことだ。「学校や教員のすることが多少うまくいかなくても、生徒はレジリエンス力が高く、自ら成長していきます。むしろ先生が挑戦している姿を見せることが大切だと思います。先生方には、『学校経営に失敗はない。思い切って挑戦してほしい』」と常々伝えています」と述べた。

図2 佐々木校長が学校経営で大切にしている4つのポイント

学校改革に一丸となって向かう組織づくりのポイント

2人の校長の話を受けて最初の論点となったのは、学校改革を進めるための組織づくりだ。林校長は、粘り強い対話を大切にしていると語った。「学校には多様な教員がいますが、誰もが変化の可能性を持っています。たとえ方向性が違っていたとしても、変化してくれることを信じて対話を重ね、改革の目的を共有するようにしています」と話した。

佐々木校長は、「休み時間や放課後に、教員が雑談できる風土をつくることを大切にしています。何でも言い合える関係を築くことで、お互いの思いを伝えやすくなります」と語った。加えて、「分掌やチームの人数が多くなればなるほど、他の教員に遠慮し、思い切ったことができないと感じています。校務分掌にこだわらず、なるべく業務を細分化して任せています」と、マネジメントの工夫を語った。

次に、学校改革の輪をどのように広げていくかを語り合った。佐々木校長は、学校の中心となるミドルリーダーがキーマンだとし、「校長として赴任したら、まず学校をよく知る教頭から、学校の中心となる教員について教えてもらいます。それを踏まえて1週間ほど校内の様子を見て回ります。それでおおよその状況はつかめますから、先生方それぞれに得意な業務が担当できるように組織づくりをします」と話した。

林校長も、「部長主任などミドルリーダー、さらに今後活躍が期待できる教員がより主体的に、伸び伸びと力を発揮できるような環境づくりが、管理職の非常に大事な役割だと思います」と語った。

すると、小村教育イノベーションセンター長は、「学校をよりよくしようとする際に、最大の壁となったのは何だったのでしょうか」と質問した。

林校長が挙げたのは「教員の意識」だ。社会の変化に伴って、学校も変化する必要があるが、与えられた業務をこなしているだけでは教員の意識は硬直化し、一定の行動パターンに陥りがちだと指摘。「教員が変化に対して柔軟でいることが、学校改革を進める上でのポイントだと考えています」と述べた。
佐々木校長はその意見に同意し、「教員にはそれぞれ自分なりの成功体験がありますが、学校が変わっても自分のやり方にこだわり過ぎてしまう方もいます。そうした教員と同じベクトルで学校を改革するために、改革の目的を理解することが重要になりますが、それには時間を要することもあります」と語った。

学校改革に消極的な教員への関わりについても議論が及んだ。林校長は、そうした教員と校長室で1対1で対話をしているという。「『今からこうした取り組みをしたいのですが、どう考えますか』と問いかけます。もし『難しい』と言われた場合は、『何かよい方法はないでしょうか』と提案を求めると、よいアイデアが出てくることもよくあります。こちらから歩み寄ることで、よりよい学校改革を進められます」と、丁寧にコンセンサスを得ることが校長の仕事だと強調した。

2人の校長の共通点

小村教育イノベーションセンター長は、学校改革を推進してきた2人の共通点として、「アンラーン(それまで学んだ知識を壊し、常識や思い込みを取り除くこと)」を挙げ、「アンラーンをするために、心がけていることはありますか」と尋ねた。

林校長は、「自校の教員だけでなく、学校外の人と話すことで、気づくことはとてもたくさんあります。そこから得たことを、学校経営に生かすようにしています。外に目を向けると視点が変わり、苦労も楽しめるようになります」と、自身が心がけていることを話した。
佐々木校長は、「学校改革に着手する際に、つい課題を探しがちですが、私は学校の長所に着目して、それを伸ばす取り組みをしています。先生方が前向きな気持ちで改革に取り組めますし、長所が短所をカバーしてくれます」と語った。
2人の校長の共通項として、苦労を楽しむ前向きな思考があるといえるようだ。

ここで、視聴者にも話を聞いた。ある高校教員は「学校改革の必要性を共有するために1対1で対話をするなど、丁寧な取り組みに驚きました。時間はかかると思いますが、とても重要なことだと思いました」と、気づきを述べた。

それを受けて林校長は、「校長室だけでなく、職員室や準備室に私が出向いて話すこともよくあります。校長室で話す時とは、また違った先生方の姿が見られますし、ほかの先生方の前で話すことで、『現場の声を大切にして学校をつくりたい』という思いを伝える意味もあります」と補足した。

校長のリーダーシップで外部連携し、改革を加速させる

終盤は、学校改革を進めるために、対話以外にどのような取り組みが有効か語り合った。
佐々木校長は、校長が学校の「トップセールスマン」になることを挙げた。「地域や企業、大学など、外部との関係を築くために、校長が様々なところに出向き、自校の魅力を伝え、協力を得ることは、社会に開かれた教育課程を考える上でとても重要です」と述べた。

すると、小村教育イノベーションセンタ—長は、「外部とネットワークを築き、教育活動に生かす秘訣は何でしょうか」と問いかけた。

林校長は、「生徒指導上の課題がある高校の校長を務めていた時、先生方は外部との連携は到底難しいと考えていました。しかし私は、地域の方に本校の実情を見てもらい、『生徒の教育にぜひ力を貸していただけないか』と理解を求めるうちに、地元企業と連携した授業が実現し、生徒も教員も大きく成長していきました」と、経験を語った。

佐々木校長は、「生徒が大学や研究機関、他の高校を訪れて、自分たちの学びの成果を発表することが、学校改革の早道だと考えています。生徒は、外部から刺激を受けて、『もっと知りたい』『もっと学びたい』と意欲的に取り組むようになります。その姿を見て、教員は授業改善や学校改革により積極的になるからです」と語った。また、探究学習に力を入れている佐々木校長の勤務校では、活動資金を確保するため、各種助成金を得たり、研究論文に応募したりしていると説明した。

視聴者にも意見を求めたところ、高校生が自身の体験を基に外部連携について意見を述べた。「私の通う高校では、外部のイベントや発表会に積極的に参加するよう促しています。参加するたびに、学校の中では見られない世界を知ることができます。外部との連携は、生徒だけでなく、先生にとっても大事な機会なのだと思いました」と語った。

管理職の役割は、変化を生み出すリーダーを育てること

最後に、登壇者が議論を振り返って気づきや感想を述べた。

林校長は、「一教諭だった時代は、ほぼ学校にいて、学校外と交流することはありませんでした。しかし、教頭になり、それまで培ってきた経験だけでは、学校経営は難しいと気づき、学校の外に出るようになりました。様々な方と対話する中でヒントを得て、学校経営を楽しみながら進められるようになりました。皆さんにもぜひ積極的に学校の外に出て、様々なインプットをしてほしいと思います」と、視聴者に語りかけた。

佐々木校長は、「近年、グローバルやインクルーシブといった言葉がよく聞かれますが、学校はもっと多様性を取り入れるべきだと考え、本校は他の地域の高校との合同授業などを実施しています。日本には、教育課程の基準となる学習指導要領があるため、連携がしやすいはずです。様々な学校と緩やかにつながっていくことが、日本の教育の強みになると考えています」と述べた。

小村教育イノベーションセンター長は、2点の気づきを挙げた。「まず、改革の対象である学校をどう捉えるべきか、パラダイムシフトする時期がきていると思います。学校同士が連携することによって、生徒や教員の視野が広がったり、自校だけではできないものを実現したりできる可能性があるからです。そして、特定の教員だけがリーダーシップを発揮するだけでは学校は改善されず、生徒や地域、保護者など、学校に関わる人々が、様々なところでリーダーシップを発揮できる環境をつくることが、学校のリーダーの役割だと考えました」と話し、議論を締めくくった。

■視聴者からの意見・感想
◎管理職は、若手教員のチャレンジを後押しすることが大事なのだと思いました。ただ自由にやらせるのではなく、お二人の校長のようにどっしり構えて見守ってくれると、安心して挑戦できると思いました。

◎これまで管理職という役職にあまり前向きなイメージがありませんでしたが、今回、お二人の話を聞き、前向きな気持ちになりました。また、校長として変えたい部分もあるけども、なかなか変えられない難しさもあると感じました。

◎私も管理職を務めていますが、業務が忙しいと教員との対話を後回しにしがちです。対話の有効性を私自身も十分理解しているので、特に若い先生の不安を取り除けるよう、しっかり対話の時間を確保していきたいと思います。

生徒の気づきと学びを最大化するPJ

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