「オープンシアターで視野を広げる!」 「ロケットを開発中!」
生徒たちは、飽くなき探究心を持って突き進む
全国の中高生が多様な社会問題や身近な疑問に関わる探究・研究の成果を発表し、意見交換をして、多様な人と学び合う「ベネッセSTEAMフェスタ2023」が、2023年3月18・25日の2日間にわたり、オンラインで開催されました。参加150チームの中から注目の発表をした2チームを紹介するとともに、社会人サポーター代表らの講評と、参加者へのメッセージを紹介します。
視野が狭くなりやすい現代における、舞台鑑賞の意義を考える
アカデミック部門
発表テーマ 「しかくの外側を想像できるか」
発表者 大妻中野中学校・高等学校 バイエルン
大妻中野中学校・高等学校の「バイエルン」は、現代社会では、テレビやスマートフォンなどの「しかく(四角)」の画面から情報を得ることが多い点に着目し、その影響として、視点が固定化されやすくなっていると考えました。そうした状況が、例えば、政治家の発言の一部が切り取られて報道されやすいことにつながっていると問題を提起しました。
そして、物事の一面にとらわれずに全体を見たり、自分の視点を明確に持ったりするためには、「しかく」の外側に目を向けることが大切と考え、その方法の1つとして、舞台鑑賞の意義を捉え直して発信する活動に取り組みました。発表では、ギリシア悲劇に始まり、コロナ禍を機に動画配信が増えている今日までの舞台の変遷を紹介した後、同年代を対象として、舞台鑑賞に興味を持つようになる方策について説明。自校でのアンケートでは、舞台鑑賞に興味がない人は、「機会がない」「意識をしたことがない」といった回答が多かったため、日頃から手軽に舞台に触れられる環境をつくることが必要だと考えました(スライド1)。
その方法として、地域の公園を舞台として、観客に人物の絵が描かれたカードを配り、その場で観客が即興的に演じる、「It’s a small play」というリージョナルシアターを考案しました(スライド2)。
第1回のテーマは「わたしの将来」とし、校内で参加者を募って実施をする予定です。最後に、「しかく」の外側には何が広がっているか、想像を巡らせてほしいと呼びかけて、発表を締めくくりました。
視聴者から質問が寄せられ、「舞台の配信は考えていますか」と尋ねられると、発表者は「配信も検討しましたが、映像では場面に応じて一部をアップで映すことがよくあります。『しかく』の外を見るためには、生での鑑賞がよいと考えています」と対話を深めていました。
有翼ロケットの開発で「宇宙時代」の実現を目指す
アカデミック部門
発表テーマ 「有翼モデルロケットの研究開発及び飛行特性」
発表者 郁文館グローバル高等学校 Project SPACEBIRD
郁文館グローバル高等学校の「Project SPACEBIRD」は、飛行機に乗るように気軽に宇宙旅行ができる有翼ロケット(スペースプレーン)の研究開発に取り組んでいます。今回は、小型ロケット「サブオービタルスペースプレーン」の開発実験の途中経過を発表しました。
プロジェクトのゴールは、自作の実証機により、スペースプレーンの実用化に欠かせない水平離陸と垂直上昇を実現することです。これまで実証機を製作して実験を繰り返し、エレボン(動翼部分)を一定の角度に調整することが水平離陸に有効だと確かめました。しかし、不安定な飛行や軌道のばらつきが見られたことから、現在はマイコンを搭載した別の実証機により、電子制御によって安定飛行を実現させる実験を行っています(スライド3)。
次のステップとして、実証実験を踏まえて、エレボン効果や制御機構を取り入れた新たな実証機を制作して、安定した水平離陸と垂直上昇を実現する計画を発表しました(スライド4)。
一方、これまでの研究は、留学先のカナダの学校で行ってきましたが、今後、日本で打ち上げ場所を確保したり、発射許可を得たりと、研究環境を整えることなどが課題として示されました。
社会人サポーターの企業エンジニアで法政大学大特任研究員の鰺坂志門さんは、「大学院で取り組むような研究を高校2年生が行っているのかと、ワクワクしながら発表を聞いていました。3年後にどんなロケットができるのか楽しみです。打ち上げ場所については大学に協力を求めるなど、多くの人を巻き込んで研究を続けてください」とアドバイスしました。
探究に対する純粋さと勇気を持って、もっと遠くにたどり着こう!
フェスタの最後に、社会人サポーター代表と主催者から参加者にメッセージが送られました。
■社会人サポーター代表コメント
一般社団法人 ICT CONNECT 21会長、東京工業大学名誉教授
赤堀侃司
今回も理系や文系にとらわれず非常に幅広いテーマの探究・研究の発表を楽しませていただきました。大人の研究者であれば、「難しいからやめておこう」とためらうようなテーマにも果敢に取り組む姿には、中高校生の皆さんの純粋さと勇気を感じました。大人は知らず知らずのうちに自分に壁を作ってしまいますが、思い切ってチャレンジしてみると、意外と新たな展開につながるヒントをつかめるものです。ある意味では怖さを知らない皆さんだからこそ、専門家では思いつかないアイデアや方法論を生み出して、遠くまでたどり着けることがあるのだと、多くの発表を通して改めて感じました。
一方で、探究・研究には失敗がつきものです。今回発表された皆さんは、そのことをよく知っていると思いますが、決して諦めずに探究・研究を続けてください。その経験は、これから生きていく上で、必ず大きな力になるでしょう。本当に素晴らしい発表を聞きながら、私自身、学生に戻ったような気持ちで勉強しました。心よりお礼を申し上げます。
■閉会の挨拶
ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター長
小村俊平
今年もご参加いただき、ありがとうございました。本フェスタも今回で12回目になります。今回の発表内容を振り返って、いくつか気づいたことがあります。1つは、テーマ設定が細やかになり、身の回りの社会をよりよくするための探究・研究が増えたことです。さらに、探究・研究のアプローチが、多様かつ高度になり、しっかりと仮説検証を行った発表が増えたと感じました。継続して参加しているチームも増え、昨年からブラッシュアップした取り組みを見せてくれたこともうれしく思います。
最近、生成AIの進化が大きな話題となっており、今後人間がAIと共存していくためには何が必要かをよく考えています。きっと人間の意欲やイマジネーション、当事者性、美的感覚などが大事になると想定していますが、皆さんの中にそれらの要素が大きく育ちつつあることが、発表を通して伝わってきました。本当にこれからが楽しみです。本フェスタは、さらに活動内容を発展させて、来年以降も続けていきます。皆さんで一緒に盛り上げましょう。
ベネッセSTEAMフェスタ事務局