1.幼児期に育まれた思考力の“芽”を小学校以降につなぐ

現代は少子化、気候変動、生成AI技術の進歩などにより、予測が困難で先行き不透明な時代です。そのような時代に、自ら課題を見つけ、学び、考え、判断し、行動できる資質・能力として、思考力の育成は非常に重要です。ベネッセ教育総合研究所では、幼児期から高校段階までの一貫した思考力育成について研究を進めています。今回、幼児期から児童期のはじめにおける思考力(内容は後述)の育成を具現化することを目的として「幼児期の思考力を育み 児童期につなぐための手引き」(以下、手引き)を作成しました。
小学校の学習活動を通じて育成される思考力は、入学時にゼロの状態ではありません。幼児期の遊びや生活を通した経験のなかで育まれた思考力の“芽”があることを、日々の指導において感じられることでしょう。また、幼児教育・保育は保育者の関わり方や環境の構成によって支えられていますが、保育者の経験や主観による多様性から、捉えづらさがあるかもしれません。幼児期から育まれている思考力の“芽”を保育者、小学校の先生、保護者が共有し、指導や援助を考えることは、子どもたちが「こうしたい」「ああしたらどうかな」など、自ら考えることを楽しむ姿につながるのではないかと考えています。

2.幼小接続期の思考力を育むための援助や指導とは

手引きでは幼小接続期の思考力を具体的にとらえるために、思考力を「比較する」「多面的にみる」など小学校の学習指導要領から抽出された19の思考スキルの枠組みを用いています(表1)。就学前後では子どもをとりまく学びや生活の環境が大きく変化するため、幼小の双方が共通の観点で子どもの資質・能力をとらえることが難しいという課題があります。しかし、この枠組みを用いることで、小学校の学習で育成が目指される思考力と、幼児期に遊びを通して育まれる思考力の芽生えの関係をとらえやすくなります(図1)。

(表1)19の思考スキルとその定義

(図1)19の思考スキルと子どもの姿(「比較する」の例)

3.「幼児期の思考力を育み 児童期につなぐための手引き」をどう活用するか  

手引きには、思考スキルを発揮する5歳児の活動例とその発揮を促す保育者による援助例を記しています。また、5歳児が遊びのなかで発揮する思考スキルが、小学校の学習活動のどのような場面で用いられるかを例示しました。このことにより、保育者はもちろん小学校の先生にとっても、子どもの何気ない言葉や姿に思考力の発揮があることに気づき、育むための援助や指導を考えるヒントになることでしょう。遊びと学びを別々に捉えるのではなく、その関係性を意識することで、子どもが自ら主体的に学びに向かう環境や声かけにつながることが期待されます。
(ベネッセ教育総合研究所 杉田美穂)

手引書は以下からご覧ください。

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