木村 治生
ベネッセ教育総合研究所 主席研究員
㈱ベネッセコーポレーション入社後、ベネッセ教育総合研究所で子ども、保護者、教員を対象とした調査研究に携わる。東京大学社会科学研究所客員准教授(2014~17年)・客員教授(2021~22年)、追手門学院大学客員研究員(2018~21年)、横浜創英大学非常勤講師(2018年~22年)などのほか、文部科学省、内閣府などの審議会や委員会の委員を務める。
ベネッセ教育総合研究所が7月26日に発表した「大学生の学習・生活実態調査」の結果速報を手がかりに、大学生の「成長実感」が低下している要因について解説する。そこから浮かび上がるのは、「仲間とともに学ぶこと」の大切さである。
●大学生の「成長実感」の実態は?
調査は、2021年12月に全国の大学1~4年生4,124名を対象に行った。同じ内容の調査を定期的に実施しており、今回は2016年調査と比較することでコロナ禍が学生の学びや成長に与えた影響を推察することができる。その中でも、学生が自分の成長をどう実感しているのかに注目して分析を行った。図1は、その結果を示している。
これを見ると、2021年調査の全体では7割が成長を「実感する」と答えていて、「実感しない」は3割を下回る。この数値をどう見るかは難しいが、成長実感がない学生は少数派ではある。しかし、調査時点で2年生(2020年度入学生)だった学生は「実感しない」が4割に迫り、他の学年よりも高い。特に、2016年調査の2年生(2015年度入学生)と比較すると8.0ポイント増加し、この学年だけが「実感しない」という回答が増えていることがわかる。
この2020年度入学生の成長実感が低い状況を細かく分析してみると、学生の学びが充実する上で重要なことは何か、ポイントが見えてくる。
●2020年度入学生は友人数が少ない
そのポイントの1つが、「友人の数」である。
この2020年度入学生は、その年の春の休校措置や緊急事態宣言の影響を受けて、ほとんどの大学で入学式が延期になった。授業は年度の途中からオンラインで受講できるようになったが、本調査でも半数以上の学生が2020年度の登校日数が「0日」もしくは「1日」に過ぎなかったと回答している。そのため、友人とリアルな交流が行えない状況にあった。彼らは他の学年に比べて、1年生のときの授業やサークル活動で、友人を作る機会が極端に少なかったと考えられる。
その結果が図2に表れている。調査では、「話をしたり一緒に遊んだりする友だち」「悩み事を相談できる友だち」「学習や広く社会の課題について議論をする友だち」「学習やスポーツで競い合う友だち」「尊敬できる友だち」「情報交換する友だち」など友人のタイプを分けて、それぞれについて学内に何人くらいいるかをたずねた。そのいずれでも「いない(0人)」の比率は、2020年度入学生(2年生)がもっとも高かった。友人の数が少ないということは、そもそも友人と悩みを共有したり、学習やスポーツで切磋琢磨したりする機会も少なかったことを意味する。
●友人の数は学習活動と関連
ポイントの2つめとして、そうした友人の数と、学習活動との関連を指摘したい。
両者の関係をみると、学習時間のような学習量は、友人の数とほとんど関連はない。しかし、「友だちと進捗や内容を確認しながら学習する」といった行動は、友人数と相関が見られる。友人の数が多いほど、多様な問題関心や目標を持つ仲間とともに交流し、相手の考えを参考にしたり、学ぶことの意味を考えたりといった経験も多くなると考えられる。
また、クループワークやディスカッションで「自分の意見を言う」「異なる意見や立場に配慮する」といった対話的な学びへの積極性も、友人の数と相関がある。友人が多いからこうした学びに積極的になるのか、こうした学びに積極的だから友人ができるのかという因果は不明だが、いずれにしても友人の数が多い学生ほど学びの経験が豊かであると言えそうだ。このように、友人の数は、学習の質に影響している。
●友人の数が多いほど成長を実感する
その結果として、友人の数が多いほど、学びが充実し、成長を実感することになる。
図3は、友人の数が多いかどうかで3つの群に分け、学びの充実度と成長実感の違いを見たものである。この図に示されているように、友人の数が多い群ほど、大学での学びについて充実していると回答しており、成長実感も高い。
2020年度入学生は、学内で友だちを作る機会に恵まれず、その結果として充実を感じられるような学びの体験が得られずに、成長を実感できなかった可能性が高い。このように、仲間とともに学ぶということは、学生が成長するうえで重要な要因であることがわかる。2020年度入学生の中には、リアルな交流が少ないままに、就職活動に突入している学生もいる。残る大学生活において、友人と交流する機会を意識的につくる必要があるだろう。
知識を効率的に獲得したり、ふだんは出会えないような人と交流したりといった具合に、オンラインにはさまざまな効能がある。また、オンラインの方が自分に向いた学び方だと感じる学生もいるかもしれない。しかし、多くの学生にとって、リアルな交流の中で仲間と切磋琢磨することは重要であり、それこそが大学において深めるべき学びだと考える。いや、このコロナ禍で得た気づきは、大学生にかかわらず、幼児から高校生においても、また、社会人にとっても同様だろう。まだまだ行動に制限がかかる中で、仲間との交流をどう確保し成長していくか、私たちの知恵と工夫が試されている。